雫先輩とのデート
入学式の翌日は簡単なガイダンスだけで学校は終了。
普段だったらさて帰るか、となるところだけれど……今日はそのまま帰ることは許されないらしく、腕を雫先輩にロックされている。
「さすがに恋愛的に好きと伝えられた相手から腕をがっしりとつかまれると照れますね」
そういって、、腕を抜こうとするも一切動かせない。デジャヴ。
最近の女性って、力が強いね。
「照れて下さるなんて嬉しいですね。これから慣れていけばいいんですよ」
そういう雫先輩には乾いた笑みを返すしかできない。
そして、そのまま放課後デートへと連行される。
後ろで見つめる凛とクレアからの冷たい視線がささる。でも、手を出さないと決めているようでこらえる様な表情になっている。
***
やってきた場所はおしゃれなカフェ。
レトロな雰囲気で静かな雰囲気。
普段から来ているのか、雫先輩はメニュを見ずに注文する。店員さんからも会釈されている。
「はい、あーん」
「ありがとうございます」
雫先輩から差し出されたパフェをパクりと食べる。
甘くて美味しいって__
「って、違ーう!」
「急にどうしたの?」
いつもみたいな雰囲気ではいけない。
流されるだけじゃ駄目だ。抗え、最後まで。
誤解を解かなければ。
「雫先輩、誤解なんです!」
「知ってるわ、優さんと付き合ってるのは私だものね。他の人は友達。勘違いなんてしてないわ」
違ーう!
誤解はそこじゃないんです。雫先輩が物わかりのいい彼女みたくなっている。
「べ、別に雫先輩を恋愛的に好きなわけじゃないんです!」
「ツンデレとは新しいわね。興奮するわ」
通じなーい!
なんで、こんなに意思疎通が取れないんだ。
まるで意図しているくらいに。(※正解)
「違うんです、私は男の人が__」
「男の人が?」
いや、言いかけて思ったけど男性は苦手だったわ、私。
父親の影響で母親から男性は汚らわしいものって、洗脳レベルに言われてたせいで未だに苦手意識がある。男性恐怖症ではないが。
「好きっていうわけじゃないんですけど、女の人が好きってわけでもないんです」
「それなのに、私のことを好きになってくれたんですね。嬉しいわ」
動じない、揺るぎない。
どうすればいいんだ、この状況。
ここで神がかり的な発想の転換が私に訪れる。
付き合っているんなら、別れれば元通りになるのではないかと。
「実は他に好きな人が出来たんです。これから雫先輩とは別れて友達として付き合っていきたいと思っていて……」
なんで私はこんな発言をしているんだろう?
言ってて悲しくなってくる。
「……そんなっ!? 私に悪いところがあれば直すわ。捨てないで」
涙ぐんだ目でこちらを見つめてくる雫先輩。
ふつふつと罪悪感が湧き上がってくる。
「いや、雫先輩は悪くないんです。悪いのは私で……」
「あの2人のどちらかに惚れたのね? でも、もう1度優さんのことを振り向かせて見せるわ。彼女として」
あれ? よく考えたら状況悪くなってない?
神がかり的なポカをやらかしてる気が。
優はもう少し深く考えてから、行動に移した方がいいという凛からの言葉を思い出す。手遅れではあるが。
「だから、1度チャンスをちょうだい。その結果、あの二人のどちらかに告白するなら仕方がないわ」
「え、いや、その……はい」
え? どうしてこうなった?
こうなったら私の男友達を好きな人として連れてくるしかない……って私に男友達は皆無だ。
まずい、どんどん状況悪化している。
誰かと付き合うか告白しなければならなくなっている。
男性と付き合うなら、まだ3人から選んだ方がましだ。
いや、でも私はノーマルだ。
「カフェにいるだけじゃ勿体ないし、違う場所にも行きましょう」
そして、その後ショッピングモールで本屋に行ったり、ウインドウショッピングをしたり。
雫先輩と一緒にいるのは楽しい。だけど、それは友達としてであって恋人としてでは……。
いや、でも友達と恋人って何が違うんだろう?
そんな風に頭を悩ませていると、デートの終わりの時間がやってくる。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「出来れば私を選んでね」
そういうと、私の顔を引き寄せ頬へと軽くキスをする雫先輩。
「次は口ね」
照れた表情でそう言い残して、そのまま立ち去っていく。
突然の行為に驚いた私はそのまましばらく固まってしまう。
不意打ちはずるい。心臓の動悸が止まらない。
海外では、頬へのチークキスくらい当たり前だから大丈夫と自分に言い聞かせてみても、まったく動悸がおさまらない。
いや、でも私はノーマルなんだ。
これはちょっと耐性がなかっただけなんだと、自分に言い訳をして家へと返った。
雫先輩「計画通り」