月城雫は腹黒だ【雫視点】
私、月城雫はあまり人と関わることが得意ではない。
そんな私に転機が訪れたのは、とある日のこと。
図書館での篠崎優(優さん)との出会いがきっかけだった。
***
その日、私はいつも通りの定位置の席で読書を嗜んでいた。
読書は好きだ。誰にも邪魔されることなく一人の世界にこもれる。
少し人と関わるのが苦手な私にはぴったりだ。
そんな私に話しかけてくる人は少ない。
話しかけづらいオーラをまとっているとか、もう少し笑顔で話そうとか妹に言われるが特に困っているわけでもないので無理に変わる気もない。
ただ、今日はそんな私に話しかけてくる人がいた。
1冊読み終わり、次の本を探しに席を立って何を読もうかと本棚の前で思案していると__
「この本とかどうですか?」
そういって、1冊の本を差し出してきたのは……制服の色的に1学年下だろうミディアムヘアの茶髪少女。
人懐っこい笑顔で、人当たりが良さそうな子だ。
「さっき真剣に本を読んでるところを見かけたんですけど、読んだことないのならこの本おすすめです。さっき読んでた本と同じでミステリーですし、すごく読みやすいですよ」
「ええ、ありがと」
たまには、他人に薦められた本を読むのもいいかもしれないと差し出された本を手に取る。
「読み終わって良かったら感想を聞かせて下さいね」
そう言い残して少女は図書室から去っていった。
そして、私は再び読書に没頭する。
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薦められた本をとって、気づけば2時間ほど経過していた。
想像以上に面白く、一気に読み切ってしまった。
「どうでしたか、その本は?」
「え?」
話しかけられたほうを見てみると、本を進めてくれた少女が私の前の席に座っている。
「いや、借りた本を返しにきたらすごく真剣に本を読んでくれているのが見えて。それで、感想を聞きたいなって思って前の席にお邪魔しちゃいました」
私のどうしてここにいるのっていう疑問の表情を読み取ったのか、先んじて答えてくれたようだ。
「ありがとう、とても面白かったわ。特に後半の畳みかけは凄かったわ。まさかあんな展開になるなんて」
「なら良かったです! 薦めたかいがありました。もう図書館が閉じてしまうので、良かったらファミレスにでも行って話しますか?」
「えーと?」
突然の提案に少し戸惑ってしまう。
初対面の人とご飯っていったりするものなのかしら?
「あ、ぜんぜん気が乗らないなら大丈夫ですよ。作品について少し話せたら、楽しいかなと思っただけなので」
「いえ、大丈夫よ。行きましょうか、楽しそうだわ」
いつもだったら行かなかったかもしれない。ただ、今日はいい作品に出合えたこともあって、いつもよりテンションが高くなっていた私はその誘いに乗ったのだった。
そして、そのあとファミレスで存分に好きな作品について2人で語りあかしたのだ。
***
彼女、優さんとの出会いはざっとこんな感じだ。
優さんとの出会いがきっかけとなり、私は他の人との関わりも増えた。妹からも雰囲気が柔らかくなって、笑顔が増えたねと言われた。全部、優さんのおかげだろう。
そして、私はいつの間にか優さんに惹かれて好きになってしまっていた。
女性同士であるのに、彼女を友人的な意味合いじゃなくて恋愛的な意味で。
優さんはスキンシップが多いが、私のことは仲のいい友達としか思っていないだろう。
たまに、彼女として振舞ったりしてみても冗談としかとらえられていないはずだ。
そんな彼女から、今とある相談を受けている。
「ちょっと、聞いてください雫先輩」
「どうしたの優さん?」
「実は今日、友達だと思っていた人に告白されて、その告白を受けたと勘違いされたんです。そしたら、何故か私の後輩が私とお付き合いしてるらしくて……しかも、その相手が女性で……」
一体、どういう状況ですかとつっこみたくなる気持ちを抑える。
どうやったら、そんな状況になるんでしょうか。
そこで私に1つの閃きが訪れる。
これは私にとってのチャンスかもしれない。
「へー。そんなことがあったのね」
「そうなんですよ。それで状況を整理したくて先輩に相談を」
「勘違いはいけないわね。優さんと付き合っているのは私なのに」
何のチャンスかって?
私が優さんの彼女になるチャンスだ。
「それってどういうことですか?」
「どういうことって?」
不思議そうな顔で問い返す。
「私たちが付き合ってるって?」
「え? 去年のクリスマスから付き合ってるわよね? 何言ってるの?」
彼女は困惑した様子で思い悩んでいる。
「それって恋人的なサムシング?」
「運命的なサムシングね」
戸惑いの質問を投げかけてくる。
そんな優さんも可愛い。
「……実は、私にとって勘違い的なサムシ__」
「もし優さんと別れるなんてなったら、私は自殺を考えるレベルね」
彼女は押しに弱い。
だから少し押し気味にいく。
「私たち、死ぬまでずっと一緒よ」
「……え、あ、はい」
いけない、少し気持ちが前に出すぎてしまった。
彼女も少し引いてしまっている。
その後、彼女は少し考えたあと、何かに思い当たったような表情になる。
自分の発言を思い返しているのかな?
「えー、言いづらいんですが……実は、勘違いというか何というか」
「え、何が?」
彼女は押せばいける。
「えーと、その付き合っているということが?」
「え、何が?」
「だから、付き合ってるということが__」
「え、何が?」
押せば行ける!
「まさか告白された相手や後輩になにか唆そそのかされたの?」
「え、いや……」
「私が何とかしてあげるわ、明日その人たちと会いましょうか」
「……はい」
何とかなりました。
少し心が高ぶってしまいましたが。
そして、今日このときから私の『いつから付き合っていないと錯覚していた大作戦』が始動するのであった。
別視点で1つにまとめようとしたけど、長くなりそうなので分割。
次回は
①朝海凛の想い
➁星宮クレアは純粋だ
③月城雫の思惑
の3本建てでお送りします。