カレンとカフェバイト
「優先輩、週末に一緒にカフェでバイトしませんか?」
そんな風にカレンから誘われて、私はとあるカフェにバイトに来ていた。
店の内装を眺めて見ると、働くことに気おくれしてしまうくらいにオシャレな空間。
カレンから聞いた話によると、ハーブティーが人気のカフェだとか。
ちなみに、雫先輩と凛も一緒にバイトに誘われたけど断っていた。
雫先輩は接客なんて無理、凛は予定があると言っていた。
カレンの姉がバイトしているカフェらしく、人が足りないから集めてきてと言われたらしい。
「私はカレンの姉の星宮アリス。あなたがカレンがよく話す優先輩ね。よろしく!」
「こちらこそよろしくお願いします、アリスさん」
アリスさんから挨拶される。
カレンからよく話を聞く機会はあったものの会ったことは無かったんだよね。
カレンからの情報だと、大学1年生らしい。
カレンと似ていてなかなかにフレンドリーそうな人。
親しみやすいながら落ち着いた雰囲気もまとっている。
大人びたカレンという感じでものすごい美人さん。
「いやー助かったよ。急にカフェの人員を結婚式のほうにさかないといけなくなって困ってたんだよ」
「結婚式?」
「うちのカフェが花屋とカフェを兼ねていてね。結婚式とかのイベントごとを担当したりもするの」
なるほどね。
オシャレな店だし、そういうことも任されるんだろうね。
「それで、私は何をしたらいいんですか?」
「ホールでオーダー以外の作業をしてくれればいいよ。オーダーはメニューの説明とかが必要だからね。軽く作業の説明をするからわからないことがあったら聞いてね」
その後、アリスさんから接客の手ほどきをしばらく受ける。
「よし、とりあえずこれで大丈夫! わからないことがあったら、私でも誰でもいいから気軽に聞いてね。カレンに聞いてもいいよ。ある程度わかっているはずだし」
「はい、かしこまりました」
カレンは何度か同じように頼まれて働いたことがあると言っていた。
「とりあえず、制服に着替えておいで」
そう言われた私は更衣室へと足を進める。
***
「よく似合ってますよ優先輩。さすが優先輩です!」
「そうかな。ありがとうカレン」
カフェの制服に着替えて準備万端!
接客のためにホールへと出る。
他の店員さんへの挨拶も済み、いよいよ店も開店。
「いらっしゃいませー」
入ってくるお客さんにいらっしゃいませを言い、席へと案内。
オーダーは他の店員さんに任せ、その他の業務に従事。
人気のお店だけあって、開店からお客さんの数が多い。
そのまま昼時のピークを過ぎるくらいまで忙しく働く。
「優さん、お疲れ様。一旦、休憩をどうぞ」
アリスさんにそう言われて、ようやくの休憩。
お客様もピーク時に比べて少なくなっているからね。
いまのところ大きなミスを犯すこともなく、なんとかなっている。
たまには働くのも悪くないね。なんて充足感に浸る。
しばらく時間を経て、休憩時間を終えホールへと舞い戻る。
すると、アリスさんから声をかけられる。
「おかえり、優さん。優さんの知り合いが来てるみたいだから、軽く挨拶だけでもしてきたら」
「あ、はい。じゃあ、少しだけ」
なにやら私の知り合いが来ているようなので、挨拶へと出向く。
ホールへ出てみると、席の1つに雫先輩の姿がある。
そして、何やら雫先輩とカレンが話している。
「いらっしゃいませ、シロ先輩。優先輩の制服姿でも見に来たんですか?」
「ええ、そうよ。良かったらカレンさんも一緒にお茶しませんか?」
「いや、あたしは仕事中ですって」
「お願いよ。私のメンタルはこのオシャレなカフェに入るだけでほぼ削られきったの……」
「……どんなお豆腐メンタルですか。いまどき1人でカフェくらい普通ですよ」
「いや、例えばあの列に並ぶだけで周囲から突き刺さる視線。きっと1人で並ぶ私を嘲笑っているのよ。他にもあるわ。あそこの私を指さして何かを話す彼女たち、きっと私のことを馬鹿にしてるんだわ」
……いや、それは多分だけど雫先輩が美人だから注目を集めているだけだと思う。
雫先輩のことを指さしてる彼女たちは、きっと「ものすごい美人さんだね」、「モデルさんかな?」みたいな話をしているだけだ。
相変わらず自己評価が低い雫先輩。
今度、たくさん褒めてあげようかな。
「ぼっちを拗らせすぎですよ……。せっかくなんでハーブティーでも飲んで落ちついて下さい」
「……ハーブティーね。おすすめとかあるの?」
「そうですね、カモミールティーとか飲みやすくておすすめですよ。花言葉も今の雫先輩にぴったりですし」
あとから調べたところ、カモミールの花言葉は「逆境に耐える」や「苦難の中での力」。
まさにぴったりな花言葉である。
しかし、カフェに1人で行くことが逆境や苦難にあたるなら、人生とんだハードモードだ。
雫先輩の将来が心配になる。
「じゃあ、それをお願いするわ」
「承りました」
そういうと、カレンは席を離れていこうとする。
「ちょっと待って。もう少し一緒に話していかない? 1人で置き去りにしないで……」
そんなカレンを引き止める雫先輩。
普段、絶対にカレンにしないような上目遣いでのお願い。
……まるでペットと飼い主のようだ。
そんな雫先輩の普段とのギャップにカレンも少し照れたのか、顔が少し赤くなっている。
「まあ、店も落ち着いてますからね。優先輩が来るくらいまでは話し相手になりますよ」
「カレンさん……ありがとう」
「どういたしまして」
「今まであなたのことをただのfu*king bitchだと思ってたけど、こんなに優しい人だったなんて」
「……ん?」
……ん?
「あ、そこにいるのは優さん! 制服姿もすごく似合ってるわね!」
2人の様子を遠巻きに眺めていた私だけど、雫先輩に見つかってしまう。
「ありがとう、雫先輩。わざわざ店に来てくれてありがとね」
「優さんの制服姿のためなら1人でカフェに行くくらいなんでもないわ」
さっきまでの様子が嘘のようである。
「あ、カレンさんさっきまでありがとう。優さんが来たから帰って大丈夫よ!」
満面の笑みでカレンにそう告げる。
多分、雫先輩に悪意はないんだろう。
むしろ「私を心配してくれてありがとう、仕事に戻っても大丈夫よ。後は心配しないで」くらいのニュアンスなんだと思う。
でも、雫先輩の言い方だと意味を悪い方向に捉えられかねない。
「シロ先輩、優先輩が来たから私は用済みってことですか?」
真顔で雫先輩に問いかけるカレン。
……こう意味を捉えられても仕方がない。
「い、いや違うのよ。ただ、もう大丈夫って伝えたかっただけで……」
「はいはい、分かってますよ。ただもう少し人のことを考えて言葉を選んでくださいね」
やれやれ、仕方がないなといった様子のカレン。
やっぱり、カレンはすごくいい子だ。
なんだかんだ2人の仲も良くなってきてるんだろう。
これからもっと仲良くなっていければと思う。
「カレンさん……ありがとう」
「どういたしまして。……まあ、ただfu*king bitchの件は忘れないですけどね」
……ただ、まだ仲良くなるには問題がいくつかあるのかもしれない。
読んでくれる方いたら、久しぶりの投稿になってすいません。
次はなるべく早く投稿します。