風邪と看病
いろいろあった翌日の水曜日。
私は風邪で寝込んでいた。
ここ数日いろいろ考えていたこともあって、寝不足と疲労がたたったのだろう。
頭と体が重い。大人しく寝ていよう。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。莉子は学校に行ってきていいよ」
「そんな……、今日は学校を休むよ」
心配そうな顔の妹。
だけど、妹まで風邪になったら一大事だ。
「莉子まで風邪になったらどうするのよ……」
「大丈夫! そしたら、お姉ちゃんが看病してくれるでしょ。風邪で弱ってるお姉ちゃんのお世話が出来て、もし風邪になったらお姉ちゃんの看病イベント。風邪って最高だね!」
「……」
うちの妹はもう駄目かもしれない……。
頭のお医者さんに診てもらおうか。
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと学校に行きなさい。そうじゃないと、明日から1週間ほど口をきかないわよ」
「はい! すぐに学校に行ってきます!」
そういうと、急いで部屋を出ていく。
大人しく寝ようと、改めて横になると玄関からインターホンが鳴る音が聞こえてくる。
そして、しばらくすると凛、クレア、雫先輩が私の部屋に入ってくる。
妹が家の中まで入れたんだろう。凛とクレアとは知り合いだし。
「優、風邪だって妹さんから聞いたけど大丈夫か?」
「優さん、大丈夫?」
「優先輩、大丈夫ですか?」
「心配かけてごめんね。私は大丈夫よ。今日は寝てるから、学校には3人で行ってきて」
すごく心配そうな目で見られてる。
だけど、私のことはそんなに気にせずに学校を楽しんできて欲しい。
「そんな水臭いこと言わないでください、優先輩。せっかく恋人になったんだから看病くらいさせて下さい」
「そうだぞ、優。そんな気は使わないでくれ」
「そうよ、優さん。私はおかゆをあーんしたり体を拭いてあげたりしたいだけなの。気にしないで」
「3人とも……。でも、そんなに症状が重たいわけじゃないから大丈夫。心配してくれてありがと」
3人の気づかいが心にしみる。
雫先輩だけ欲望まみれだけど。
「それに、寝たら治るくらいの風邪を3人に移す方が嫌だから」
「「まあ、優(先輩)がそういうなら」」
「大丈夫! そしたら、優さんが看病してくれるでしょ。風邪で弱ってる優さんのお世話が出来て、もし風邪になったら優さんの看病イベント。風邪って最高だわ!」
デジャヴ……。
うちの妹と雫先輩はベクトルが近いのかもしれない。
「馬鹿なこと言ってないで学校に行きますよ、シロ先輩」
「そんな……。私の看病イベントが……」
クレアが雫先輩を引きずっていく。
「放課後になったらまた来るから。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、凛。じゃあ、家の鍵だけ渡しておくね」
家の鍵を受け取ると、凛も部屋から出ていく。
私はベッドに横になって瞳を閉じる。
安静にして、出来るだけ早く治そう。
***
どれくらい時間が経っただろう。
私が目を覚ますと部屋の外は夕暮れ。
熱も引いたのだろう。頭がすっきりしている。
ただ、まだ体が重い。寝る前より重たくなってるんじゃないかってくらいだ。
もう少し休んだ方がいいかな。
なんて考えていると、私の横からすやすやと寝息が聞こえてくる。
横を見ると雫先輩の姿が。
体が重いのはお前らのせいかっ!
とりあえず、雫先輩の体をゆする。
「……むにゃむにゃ、おはようのキスがあれば目覚めるわ」
この人、起きてるでしょ。
雫先輩を体の上からどかそうと試みてみるけど、私にしがみついて離さない。
「先輩、起きましたか? シロ先輩に見に行ってもらったんだけど、帰ってこなくて__」
カレンが部屋に入ってくる。。
「__って、何をしてるんですか。このアバズレ」
「あら、私はただ風邪で優さんが寒そうにしていたから横で寄り添ってあげただけよ」
雫先輩が起きてきて、カレンに返答する。
いや、やっぱり寝たふりかい。
「シロ先輩の本音は?」
「優さんが無防備で寝ているのが悪いのよ。襲わなかっただけ褒めて欲しいわ」
悪びれずに口にする雫先輩。
「まあ、いいです。卵がゆが出来上がったので持ってきますね」
これ以上いっても仕方がないと呆れた様子のカレン。
一旦、部屋から出ていく。
雫先輩を引きずって……。
***
「ほら、あーん。熱くないか、優」
「アタシからもあーんです。美味しいですか? アタシと凛先輩の合作です」
「2人ともありがとう。そういえば、雫先輩は?」
卵がゆは、ちょうどいい塩加減で本当に美味しい。
作ってくれた2人には感謝だ。
そういえば、雫先輩の姿が見えない。
どこに行ったんだろうか?
「シロ先輩なら皿洗い中です。あの人、寝てただけですから。あーんだけでもさせてくれって、泣いて頼まれましたけど」
「そ、そうなんだ」
哀れ、シロ先輩。
今のところカレンのほうが力関係が上のようだ。
卵がゆがちょうど食べ終わるくらいのころ。
「愛しの妹が帰ってきましたよ、お姉ちゃん! 今から誠心誠意、看病しますね。今日は妹にめいいっぱい甘えて下さい」
帰って来て一目散に私の部屋にやって来た妹。
「__って、なんで凛さんとみゃーちゃんがいるんですか?」
「いや、私たちも優を看病しようと思ってな。今、卵がゆを食べてもらったところだ」
「じゃあ、あたしのお粥あーんイベントは?」
「ないんじゃない」
カレンが呆れ気味に答える。
「そんな……」
絶望した表情の妹。
そんなにショックを受けることかな。
「ならお姉ちゃんの体をお拭きします!」
「いや、熱も引いたし普通にお風呂に入るから」
「じゃあ、お風呂にお供します!」
「嫌だよ、せまくなるし」
「そんな……」
いや、気持ちは嬉しいんだけどね。
「優さん、皿洗いが終わったわ。私が残った卵がゆを食べさせてあげるわ」
「もう食べ終わりましたよ」
「そんな……」
皿洗いが終わったらしく、部屋に入ってくる雫先輩。
入ってきて早々にうなだれている。
「あら、そこにいるのは優さんの妹さん?」
そういえば、うちの妹と雫先輩は初対面だっけ。
朝に少し顔は合わせたのかな?
「あ、紹介しとくね。この子が私の妹の篠崎莉子、こちらが月城雫先輩」
「よろしくね、莉子さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
無事に2人の自己紹介も済む。
「とりあえず、私シャワー浴びてくるね。4人はゆっくりしてて」
「お背中お流ししますわ。優さん」
「いや、大丈夫です」
***
シャワーを浴び終わると、妹と雫先輩が仲良く話している。
「これが小さい頃のお姉ちゃんです。可愛くないですか?」
「可愛いわ! お礼に私が撮った優さんの写真を見せてあげるわ」
「制服姿の姉もいいですね。この姉さんの寝顔写真と交換しませんか?」
「ええ。是非とも交換してほしいわ」
私の写真で盛り上がるのは恥ずかしいから止めて欲しい。
寝顔写真については、あとで妹に問い詰めよう。
その後、しばらくゲームなどをしたあと、私の疲れをためてもいけないからと3人は早めに帰っていった。
そして、翌日には風邪はすっかり良くなっていた。
看病してくれた3人には感謝しなきゃね。