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受難の始まり




「えーと、それってどういうことですか?」

「どういうことって?」


 ……ん? 私の聞き間違いかな。


「私たちが付き合ってるって」

「え? 去年のクリスマスから付き合ってるわよね? 何言ってるの?」


 雫先輩は不思議そうな顔で問い返してくる。


 ……何言ってるの???

 そんな心当たりがない。もちろん、付き合ってる自覚もない。


「それって恋人的なサムシング?」

「運命的なサムシングね」


 誤解されてるぅううう!

 どうにかして誤解を解かなければ。

 私は思考を誤解を解く方向へと素早く切り替える。

 

「……実は、私にとって勘違い的なサムシ__」

「もし優さんと別れるなんてなったら、私は自殺を考えるレベルね」


 そんな私の言葉にかぶせるように、雫先輩の言葉が放たれる。


 まさかのメンヘラだ。

 これは、もうダメかもしれない。


「私たち、死ぬまでずっと一緒よ」

「……え、あ、はい」


 この人、病んでない? こんな人だったっけ?

 そういえば、思い返して見れば今までもこういう言動があった気がするような。

 とりあえず、お付き合いが始まったらしいクリスマスのことを思い起こしてみる。



   ***


~去年のクリスマス~


 毎年、クリスマスは幼馴染の凛と過ごすことが多かったが、今年は雫先輩に誘われて二人でクリスマスデートだ。まあ、女同士だけどね。

 後から凛にも誘われたけど、断ったため凛がわかりやすくショックな表情をしていた。

 埋め合わせとしてクリスマスプレゼントでも買っていってやらなければ。 


 待ち合わせの場所に着くと、雫先輩がすでに待ってくれている。

 街灯の横に佇んでいるだけで、本当に絵になる人だ。


「雫先輩、お待たせして申し訳ないです」

「あまり待ってないから大丈夫よ。今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ誘って下さってありがとうございます」


 雫先輩と仲良くなったのは、夏くらいのこと。

 図書室での出会いがきっかけで話すようになり、本の趣味も合うのでだんだんと交流が増えた。

 今日は本屋に行ったり、服を見たりする予定だ。楽しみだね。


「じゃあ、さっそく行きましょうか」

「はい! それにしても今日は寒いですね」

「そうですね」


 今年は寒冬らしい。着込んでいるものの寒さが身に染みる。

 周りにカップルが多く、独り身である私の心を冷えつかせてくるので二重に寒い。

 公衆でいちゃつくカップルは爆ぜればいいのに。なんてひとちてもむなしくなるだけだ。

 そんな私に雫先輩が手を差し出してくる。


「さ、寒いので手を繋ぎませんか?」


 照れた表情で、手を不安そうに差し出す雫先輩が物凄く可愛い。

 初々しさが出ていて、可愛さ百点満点。綺麗な人のふとした可愛さってずるいよね。

 その仕草に周りで見とれている人がいるくらい。離れたところでカップルの男性が女性側ににらまれている。

 ふっ、そのまま別れてしまえ。


 差し出された手をそっと手に取り、ショッピングへとおもむく。

 

 そこからは本屋で好きな本を教え合ったり、服をあまり買わない雫先輩に服をプレゼントしたりした。

 

「まるで恋人みたいですね」


 雫先輩がはにかんだ表情で嬉しそうにそんなことをいう。

 楽しんでくれてるようで何よりだ。

 カレンともこれくらいの距離間で接しているが、雫先輩はパーソナルスペースが広そうなので距離感が近すぎないか少し不安だったけれど杞憂のようだ。


「雫先輩みたいな人が恋人になってくれたら幸せですね」

「じゃあ、わ、私と付き合ってみる?」

「ぜひお願いしたいですね!」



   ***



 ……何かそれっぽいこと言ってるわ。というか、これ以外でも言ってる気がする。

 いや、でもしょうがなくない?

 普通はそのままの意味でとらんやん。冗談だと思うやん。

 うん、私は悪くない……はず。


 私の思考が自己完結したところで、目の前の問題に向き合わなければならない。

 

「えー、言いづらいんですが……実は、勘違いというか何というか」

「え、何が?」


 怖い!

 雫先輩が物凄い真顔なんですが。


「えーと、その付き合っているということが?」

「え、何が?」

「だから、付き合ってるということが__」

「え、何が?」


 怖い!!!

 平坦な声で壊れたラジオのようにセリフを繰り返してるんですが。

 圧もすごい。どないしよ……。


「まさか告白されたという相手や後輩になにかそそのかされたの?」

「え、いや……」

「私が何とかしてあげるわ、明日その人たちと会いましょうか」

「えーと……はい」


 もうなるようになるだろう。

 やけくそ気味な私は携帯を再起動して、凛とクレアに明日の朝に学校の屋上で会おうとだけメールを送って、速攻で携帯をシャットダウン。

 先輩にも朝に会うことを伝えて、ファミレスを後にする。


 さあ、どう転ぶか。

 神のみぞ知る世界であって、私の手で会える範疇を超えている。 

 一切のエンディングが見えない。

 


   ***



 ~翌朝~


 季節は春。屋上から見える桜の木は、少し花が散ってしまっているけれどとても綺麗だ。

 今日のような小春日和は、屋上で昼寝するには最適だろう。

 今すぐに夢の中へと行きたい。いや、逃げ込みたい。


「現実から目を背けるのはやめて、優」

「先輩、その女の人は誰ですか? 先輩の彼女は私ですよね???」

「優さんは私の彼女さんですよね? その女から早く離れてください! お仕置きですよ?」


 さあ、どうしようか。

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