私と幼馴染とお菓子作り
「優、週末は空いてるか?」
「うん、凛のために空けてるよ」
お弁当の件もあったので空けている。
「それは良かった。なら私の家で一緒にお菓子でも作らないか? 」
「りょーかい。空けとくね!」
何を作るのか楽しみだ。
凛のお菓子作りの腕はプロ級だ。
***
近くのスーパーまでお菓子の材料の買い出し。
「買い出しまで付き合ってもらって悪いな、優」
「買い出しまで含めて料理じゃん、気にしないでよ」
基本的な砂糖や小麦粉などの粉類は既にあるため、買い出しの目的はそれ以外の材料。
「今日は何を作るの?」
「そうだな、ショートケーキとかどうかな? ちょうどいちごの旬だからな」
ケーキは私も好きなので大賛成。
カロリー以外は最強のスイーツ。
「いいね。そういえば、いちごの旬て冬じゃないんだ?」
「まあ品種によるけど、1番甘くて香りもいい時期はだいだい今くらいだな」
「そうなんだ、それは楽しみだね」
そんな情報を聞くと余計に楽しみになる。
軽い雑談を交わしながら、買い出しを終える。
***
「では、さっそく取り掛かるか、優」
「そうだね、凛」
2人で材料を机の上に並べたり、調理器具を取り出したりと準備をし始める。
すると、階段のほうから誰かが降りてくる足音が。
「あれ? 2人とも何か面白そうなことやってるじゃん。私も混ぜてよ」
「ね、姉さん!?」
「奈々さんじゃないですか、お久しぶりです」
凛の姉であり、私たちの2つ上である大学1年生の朝海奈々(あさうみなな)さん。
凛に比べたら、気分屋さんでつかみどころのない人って感じ。
「姉さんは大雑把でお菓子作りに向いてないんだから大人しくしといてくれ」
「そんな、妹が反抗期だよ優ちゃん。あ、2人の時間を邪魔されたくなかった?」
「ち、違う!」
にやにやとこちらを見つめる奈々さん。
この人、凛をからかって楽しんでるな。
「この前の週末は姉のことをあんなに頼りにしてくれてたのに……」
「そのことを優に言うんじゃない! もし教えたら2度と口をきかないからな」
ごめん、凛。もうだいたい聞いてる。
「……凛が冷たい。優ちゃん、慰めて」
私のほうまで来て、私にハグする奈々さん。
それも凛に見せつける様に。
「優に抱き着くんじゃない! 手伝いたいなら卵でも割っててくれ」
「はいはい、わかったわ」
笑顔で応じる奈々さん。
なんだかんだこの人は凛に構って欲しいだけなんだ。結構なシスコンである。
「あっ!?」
「姉さん、その不安な声はなんだ?」
「大丈夫、少しカルシウムが混じっただけよ。最近の若者には足りてないっていうし」
カルシウムは大事だよね。足りないとイライラするっていうし。
「それはカルシウムじゃなくて卵の殻って言うんだ!」
「キレる17才。……凛、カルシウム足りてる?」
「イライラしているのは姉さんのせいだ!」
凛があんなにイラッとしてるのはあんまり見ない。
それを楽しそうにケラケラと楽しむ奈々さん。
あなた、いつか本当に凛に嫌われても知りませんよ。
その後、奈々さんが「出来上がったら食べさせて」と言い残して、自分の部屋に舞い戻っていった。
本当に気まぐれで自由な人だ。
そんなハプニングもあったけど無事に完成。
電動ミキサーって便利だね。時代の進化を感じる。
2人ともお菓子は作り慣れているため、スムーズな進行だった。
私もなんだかんだで手馴れたもんだ。
デコレーションの腕とかは、凛にはかなわないけれど。
「完成! やったね、凛」
「ああ、仕方ないが私は姉さんを呼びに行ってくる」
嫌そうな顔で奈々さんを呼びに行く凛。
そして、すぐに戻ってくる。
奈々さんを肩にくっつけながら……。
「離れてくれ、姉さん」
「えっ!? 凛はお姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった? さっきはごめんね。凛の力になりたかっただけなの」
「いや、別に姉さんのことは嫌いじゃないけど……」
少し涙ぐんだ様子の奈々さんにたじたじの凛。
いや、その人の場合は多分、嘘泣きだから。騙されないで、凛。
「ありがとう、大好きよ凛」
「顔を近づけないで! 離れてくれ、姉さん」
奈々さんに抱き着かれて照れたようすの凛。
実際、そこそこに2人の仲は良い。
「凛、じゃあ食べようか?」
「そうだな、優」
少し多いかなと思ったくらいのケーキの大きさだけど、結局ペロッと平らげてしまう。
やっぱり出来立ての生クリームは美味しい。いちごもいいアクセントになっている。
それに、やっぱり手作りは市販のものよりも美味しく感じる。
***
お菓子作りの片付けも1段落したところで2人でソファーで休憩。
「ケーキ美味しかったね」
「ああ、そうだな、姉さんにはもう少し料理を覚えてほしいけど」
「ははっ、それはそうだね」
肩を寄せ合い笑いあう。
「優、私は先週みたいにデート行ったりするのもいいけれど、優とこんな風にゆったりとお菓子でも作って笑いあうような時間が1番好きなんだ。互いに気をゆるめて、のんびりとリラックスする……そんな時間が」
「そんな風に言われると、何だか照れるね」
なんだか照れくさくて、気恥ずかしい。
まあ、私も凛とのそんな時間は好きだ。
「だからいつまでも優と一緒にいたい。優がクレアちゃんや月城先輩、それ以外の人といると、私との時間が無くなるんじゃないかと少し不安になる」
「私が凛を見捨てるなんてことは絶対にないよ、安心して。これから先に誰と出会っても」
凛と付き合わないとしても、凛とはずっと仲良くしたいと思っている。
都合の良いことをいっている自覚はある。だけど、それが私の本心だ。
「そうだといいな。だけど優に1番に、誰よりも大切にしてもらいたいって気持ちも大きいんだ。だから、最後には私を選んで欲しいな」
そういって、私の頬に軽くキスをする。
「えへへ、またキスしちゃった。勝手にして済まない。優はキスされるの嫌だったりしないか?」
「べ、別に嫌ってわけじゃないけど」
不安そうに聞いてくるのはずるい。
頬へのキスは外国だと挨拶だから照れる必要はないんだと自分に言い聞かせる。
「ならよかった」
満面の笑みで笑う凛を見て、私の顔はさらに赤くなっているだろう。
ヒロイン1周。
それぞれとの距離が縮まりました。
異論は認めない。