プロローグ
季節は春。屋上から見える桜の木は少し花が散ってしまっているけれどとても綺麗だ。
今日のような小春日和は、屋上で昼寝するには最適だろう。
今すぐに夢の中へと行きたい。いや、逃げ込みたい。
「現実から目を背けるのはやめて、優」
そんな言葉を私に投げかけるのは幼馴染の朝海凛。
するどい目つきのクールビューティー。校内で(女子が)付き合いたい女子ランキング1位。
胸がぺったんこなのを除けば非の打ちどころがない。少しおっちょこちょいなのは愛嬌の内。
スレンダー、スマートなどの用語には敏感だから注意が必要。生徒会役員でもある。
実は、お付き合いすることになってしまっている私の彼女だ。
付き合ってばかりだが、腕を組んできている積極的な彼女。
がっつりと逃げられないようにホールドされている。
抜け出そうと腕を動かしても、手がびくともしない。情熱的で、照れるね。
「先輩、その女の人は誰ですか? 先輩の彼女は私ですよね???」
責め立てるような口調で話しかけて来るのは後輩の星宮クレア。
小悪魔系のハーフ美少女。綺麗というよりはかわいい系の顔つき。
綺麗なブロンドヘアーが今日もキラキラと輝いてる。
周りを活気づける明るい雰囲気で交友関係が広く、みんなの人気者。
どうやら、私の彼女らしい。
「優さんは私の彼女さんですよね? その女から早く離れてください! お仕置きですよ?」
うつろな目で平坦な声。そんな少し怖い様子で話しかけてくるのは先輩の月城雫。
大和撫子という言葉がとても似合う清楚系美少女。
濡羽色の綺麗な艶のある長い黒髪に凛とした佇まい。
気軽に話しかけるのを躊躇させるような気高い雰囲気を醸し出しているが、実はただの人見知りだったりする。その様子から雫姫と呼んでる人もいるらしいとか。
どうやら、彼女とも付き合ってるらしい……。
あれ、おかしいな?
……このままだと、明日から私のあだ名は3股クズ野郎だ。
それ以上にまずいのが母親だ。家に帰ってこのことが母親に知られたら半殺しにされる。
なぜなら、父親とお爺ちゃんのせいもあり母親は恋愛に関しては厳格だから。
お爺ちゃんは言った。
『ハーレムを作るのは間違っているだろうか?』
男たるもの女性を求めてしまうのは当然だ。
むしろ、ハーレムを作り維持できる器があるものこそが男の中の男だ。
そう言っていたお爺ちゃんは、痴情のもつれから浮気相手に刺されて亡くなったとか。
父親は言った。
日本の価値観だとハーレムに抵抗があるかもしれない。
だけど、世界に目を向けてごらん? そこにはハーレムがあるはずだ。
今の時代の価値観だとハーレムには抵抗があるかもしれない。
だけど、過去の歴史に目を向けてごらん? そこにはハーレムがあるはずだ。
悔しくないかい? なんで俺たちだけ否定されるのかと。
そう言っていた父親は、浮気しまくったあげく蒸発した。
最後の捨て台詞は「世界の女性たちが俺を待っている」だ。きっともう日本にはいないだろう。
このままじゃ、私も父親たちと一緒になってしまう。
そんなのは私のプライドが……いや、その前に彼女たちが許さないだろう。
どうしてこうなったのか。
とりあえず、こうなった原因を思い起こしてみる。
記憶は高校の入学式の朝にさかのぼる。
***
今日から高校2年生。
クラス分けの掲示板から篠崎優の名前を探し出して自分のクラスへと向かう。
そういえば、蒸発した父親が「少ない高校生活の中でも、高校2年生は後輩と先輩を楽しめる上に受験までの余裕もあり、最高だぞ!」なんて言っていた。物理的に蒸発してしまえばいいのに。
余計なことを思い出した。さっさと忘れよう。
下駄箱へと歩いてると後輩の星宮クレアに遭遇する。
「今日から、また先輩ですね。よろしくお願いします、優先輩」
「うちの高校の制服もよく似合ってるね。こちらこそまたよろしくね」
クレアとは中学の時からの後輩で私によく懐いてくれていた。
私が中学卒業の時にはガン泣きしていたが、これからはまた同じ学校に通う先輩後輩だ。
下駄箱に着き、上履きを取り出そうと自分の下駄箱を開けると、なにかが靴の上に置かれている。
なんとそこにはラブレターらしきものがあるではないか。
モテる女は辛いね! といっても、これがラブレターだとすると高校では初めての告白になる。
「先輩、それなんですか?」
「ふふふ、クレア、どうやら私にも春が訪れたみたい」
こちらを覗き込んでくるクレアに対して、おどけた感じで答えを返す。
「えっ!? ラブレターですか? 告白なんて受けないですよね? 先輩の彼女はアタシですもんね」
「まあ、付き合うつもりはないよ。私にはクレアがいるからね」
冗談でも嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
女同士だし付き合うことは出来ないけど、この先も仲良くしていきたいものだ。
お礼にハグをしてあげる。
「……ふぁっ!? いきなり何するんですか? 照れるじゃないですか!」
ういやつ、ういやつ。
このまま構っていると、ホームルームに遅刻してしまうのでその場を後にして教室へと向かう。
***
教室に着いたので、気になっていた手紙のチェック!
『篠崎優さん、こんにちは。突然の手紙で失礼します。あなたのことがずっと前から好きでした。もし良ければこの想いを直接伝えたいので、入学式が終わったら屋上に来てください。』
これは思ったよりストレートなラブレターだ。
思わず照れて顔が赤くなってしまう。
差出人は書かれていない。
「優、どうしたの? 顔を真っ赤にして」
他人から見てもわかるくらい顔を赤くしていたようだ。
そんな私に話しかけてきたのは、小さい頃からの幼馴染である朝海凛。
今年も同じクラスのようだ。なんだかんだ一緒のクラスになることが多い。
「いや、久しぶりにラブレターなんてものを貰ったの。真っ直ぐな感じで思わずこっちが照れちゃった」
「そ、それは!?」
なぜか驚いた様子の幼馴染。
私の持っている手紙を穴が開くくらいにじっと見つめている。
「どうしたの?」
「いや、何でもない! 屋上には行くのか?」
「まあ、行くだけいってみるつもり」
そう答えると、「そうか」と 言ってなぜか満足げに自分の席に去っていく。
ただ去っていくとき、右手と右足を同時に出しながら歩いている。
新学期だから緊張しているのかな?
あれ? そういえば、屋上にいくなんて凛に伝えたっけ?
***
そして、放課後!
屋上の扉を開くと、待ち構えていたのは幼馴染の朝海凛。
あれ? どういうことだってばよ、な私の心境。
「屋上まで来てくれてありがとう、優。手紙で伝えたが、私は優のことがずっと好きだった。女性同士だが、良ければ私と付き合ってくれないか?」
私の心が整う間もなく、矢継ぎ早に伝えられた愛の告白。
震えた声で紡がれた言葉からはまっすぐな気持ちが伝わってくる。
これは私も真剣に答えなければならないなと覚悟する。
なるべく簡潔に私の気持ちを伝えるべく、告白の答えを返す。
「私も凛のことが好きだよ。でも__」
「本当か!? 私と付き合ってくれるんだな」
でも、それは友達としての好きで。と言おうとした言葉が凛の早とちりによってかき消される。
「ありがとう、優。大好きだぞ」
なんて勢いにのった凛は私に抱き着いてくる。
満面の笑みだ。
え? ちょっと待って。
プリーズ、ウェイト。
すぐに訂正しなければと焦る私。
「凛、これは違くて__」
「どういうことですか、先輩!?」
そんな声と共に屋上の扉が開かれる。またも、言葉が遮られる……。
現れたのは後輩の星宮クレア。
「先輩と付き合ってるのは私ですよね!」
「え?」
What? 何が起きてるの?
突然の発言に頭がパニックだ。
「「どういうことですか? 優(先輩)!?」」
2人に問い詰められる。
篠崎優は 目の前が 真っ暗に なった!
私は屋上から逃げ出した。
***
「ちょっと、聞いてくださいよ雫先輩」
その後、私はファミレスに頼りになる先輩を呼んで、今日のことを相談に乗ってもらっていた。
今日の件は1人だと抱えきれないよ……。
携帯には複数の不在通知……なので、そっと電源をオフ。
「どうしたの優さん?」
「実は今日、友達だと思っていた人に告白されて、その告白を受けたと勘違いされたんですよ。そしたら、何故か私の後輩が私とお付き合いしてるらしくて……しかも、その相手が女性で……」
簡潔にまとめてみたものの、自分で言葉にしていてなかなかに意味が分からない状況だ。
どうしてこうなった?
「へー。そんなことがあったのね」
「そうなんですよ。それで状況を整理したくて先輩に相談を」
「勘違いはいけないわね。優さんと付き合っているのは私なのに」
え???
登場人物メモ(作者用)
主人公/篠崎優/茶髪・ミディアムヘア/帰宅部
後輩/星宮クレア/金髪・ミディアムヘア、ウルフカット/バスケ部(予定)
同級生・幼馴染/朝海凛/黒髪、後ろでまとめてる/調理部・生徒会
先輩/月城雫/黒髪ロング/文芸部