十月
十月(1)
秋桜の花が咲く季節になった。
今日は、毎年恒例のダンスパーティーが開催される日だ。
乙女ゲームとしては、好感度の大幅上昇やボーナスが貰えるので無視できないイベントだ。
私は、ランスロット様とペアを組むことができてご機嫌だった。
主人公マリアは、なんとアーサー様とペアを組んでいた。
マリア、どういうことですの?
「社交ダンスの授業でペアを組んだ時に相談をしたら、ディアナ嬢も承知してくれました」
なるほど。
ディアナ嬢とアーサー様が別れたわけでは無いらしい。
マリアは、ダンス初心者だ。
授業がいつも一緒で、踊り慣れている上級者のアーサー様と組んでも不自然ではない。
ディアナ嬢の善意と、主人公効果というやつかもしれない。
ディアナ嬢は、幼馴染のケイとペアを組んでいた。
マリアは、アーサー様と楽しそうに踊っている。
五月頃に比べたら格段に上達したと言えるだろう。
周囲の様子を観察していたらランスロット様に声をかけられた。
「グインネヴィア嬢。そろそろ一緒に踊っていただけますか?」
「はい。喜んで」
私は、ランスロット様の手を取った。
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十月(2)
「グインネヴィア嬢、ちょっといいかな?」
生徒会室で事務仕事をしているとランスロット様に声をかけられた。
なんだろう?
魔眼の使用は控えているので、断罪追放ではないはずだ。
「実は、先日の生徒会予算の不正発見の件なんだが……」
あぁ、あれね!
カルディアさんと一緒に帳簿整理をしたときに、過去の生徒会役員の不正を発見してしまった件ね。
「関係者はいずれも学生時代の話だし、内々に処理することになった。厳重注意が妥当じゃないかな?」
うん。
別にいいんじゃないかな?
知らない誰かを断罪して、不幸にしたかったわけでは無いからね。
「そしてその功績で、私を王家の近衛騎士『円卓の騎士団』に推薦してくれることになったんだ」
円卓の騎士団は、現在十二名しか登録されていない狭き門だ。
でも、ランスロット様は公正中立な生徒会長で学園生徒たちからの信頼も厚い。
成績優秀で剣術と魔術の練度も高い。
この功績が無くても、いずれ円卓の騎士団に推薦されることになっていただろう。
「おめでとうございます!お祝いしましょうね」
「いや、不正発見はグインネヴィア嬢、君の功績だ。私が受け取るのは違うような気がするんだ」
「何を言っているんですか!不正発見はカルディアさんのおかげです。それに、元を正せば『過去の帳簿を見直そう』と提案したのはランスロット様じゃないですか」
「それはそうなんだが……」
まぁ、ランスロット様が悩む気持ちもわかる。
真面目な方だからなぁ……。
そうだ!
「では、こうしましょう。ランスロット様、この件に貢献した私に『ご褒美』を下さいませ。それも円卓の騎士団推薦に匹敵するようなご褒美です!」
「なるほど。それなら私も納得できる。でも、どのようなご褒美が良いだろうか」
「わたしだって急には思い付きませんわ。そこで、ランスロット様は『ひとつだけ私の願いを叶える』とそうお約束して下さい」
「わかった、約束しよう。私は、君の願いをなんでもひとつだけ叶えてあげる。どのようなことでも構わない。遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。ランスロット様」
やったね!
生徒会のお仕事を頑張って良かったよ。