九月
九月(1)
放課後、生徒会室に行くと甘い香りがした。
テーブルには、大量のクッキーやケーキが置かれている。
マリア嬢がティーセットを準備していたのでたずねてみた。
「どうしたのコレ?」
「課外活動の時間にたくさん作ったので差し入れです。遠慮なく食べてください」
マリア嬢は、午後の課外活動で『調理実習』を選択したようだ。
調理実習は好感度上昇アイテム『お菓子』が手に入るので悪くない選択だ。
副会長のガウェイン様も嬉しそうに食べている。
「マリア嬢、良かったら次も作ってきてくれないか?」
「はい喜んで」
彼は、甘党という設定だったわね。
現在、ガウェイン様の好感度が上昇中だ。
私が推測する、現時点のマリア嬢に対する攻略対象の好感度は次のとおり。
1.アーサー(高)
1.トリスタン(高)
3.ガウェイン(中)
4.ランスロット(低)
4.ケイ(低)
マリア嬢は、生徒会スタッフの好感度を無自覚で上げている。
乙女ゲーム的には、攻略が簡単なトリスタン様を推したいところだが、マリア嬢の本命は攻略難度の高いアーサー様のような気がする。
本人にさり気なく聞いてみよう。
「ねぇマリアさん。この学園で一番仲良くなりたい人って誰?」
マリア嬢はしばらく考えてこう言った。
「グインネヴィアさんかな?」
ちょっとマリア、私の好感度を上げてどうするの?
でも、私もマリア嬢のことは嫌いじゃない。
「私も、マリアさんと仲良くなりたい。そう思っていたところなの」
この日から、マリア嬢と私は友達になった。
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九月(2)
主人公マリアの弟のユーリ君が教会によって『勇者』に認定された。
ちょっとユーリ君!
魔法学園に来ないで何やっているの!?
マリアに聞いてみたら、ついにあの難攻不落の大迷宮を攻略したらしい。
しかも、教会の聖女と獣人族の姫と極東の戦巫女というハーレムパーティーで。
ユーリ君って、そんな破天荒なキャラだっただろうか。
前世の乙女ゲームの記憶でも、ユーリ君が『勇者』になる展開なんて存在しなかった。
絶対に何かが間違っている。
「そもそも、うちの実家が貴族になったのは、ユーリ君おかげなんです」
は?
どういうことですの?
「ユーリ君が、実家付近に出現したデーモンの大群を殲滅したら『国の危機を救った』と言われていつの間にか男爵の位を貰ってしまったのです」
な、なんですって?
聞いてませんわよマリアさん!
乙女ゲームの世界なのに、ユーリ君だけラノベの主人公みたいなんですが!?
本当に、どういうことですの(困惑)。