四月
四月(1)
魔法学園の新学期は四月から始まる。
正門に入ると、校庭に植えられた樹木には桜のような花がたくさん咲いていた。
今朝は、ゲームの始まりを祝福するような、気持ちの良い快晴だった。
生徒たちが、学園に向かって歩いている。
その中にひときわ目立つ、三人組を見つけた。
攻略キャラの第三王子アーサー様と、その親友ケイ。
そして、アーサー様の婚約者のディアナ公爵令嬢だった。
アーサー様は、金髪のくせっ毛が愛らしい、長身イケメンの王子様だ。
素直で正義感が強く、このゲームの人気ナンバーワンキャラである。
そして、アーサー様の親友ケイも人気キャラだ。
ケイは、弁舌や屁理屈が得意な皮肉屋という設定だ。
その反面、情に厚いツンデレ体質で、頼めばなんでもやってれそうな有能感がある。
前世では『アーサー様を攻略しているつもりが、いつの間にか親友ケイを攻略していた』と、いうプレイヤーも多かった。
でも、私は主人公ではない。
グインネヴィアは、生徒会長ランスロットの婚約者であった。
早速、三年生のクラスに行ってみましょう。
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グインネヴィアの婚約者ランスロットは、三年生に在学している。
三年生には、生徒会所属の人物が多い。
生徒会長のランスロット様。
副会長のガウェイン様。
総務担当のモードレッド嬢
それから、生徒会所属ではないが、第二王子のロイド様も三年生だ。
三年生のクラスをそっと覗くと、ランスロット様の姿を見つけた。
ランスロット様は、金髪碧眼のクール系美男子である。
「おはようございます。ランスロット様」
目が合ったので礼儀作法に則って、ランスロット様にご挨拶をした。
「グインネヴィア嬢、何の用だい?」
「新学期のご挨拶に参りました。私はランスロット様の婚約者ですもの。お忘れですか?」
「そうか、悪いが私は忙しいんだ。帰ってくれるかな?」
あぁ、ランスロット様が素っ気ない……。
でも、ゲームはまだ始まったばかり。
三年生の教室には(好感度を上げるため)また来ますからね!
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四月(2)
二年生には、重要キャラが多い。
第三王子アーサー様と、その親友ケイ。
アーサー様の婚約者のディアナ公爵令嬢。
生徒会所属の書記トリスタン様。
私、グインネヴィアも生徒会所属の総務担当だ。
そして、主人公のマリア・メイヤー嬢が二年生に在学する。
マリア嬢は、金髪碧眼で胸が大きい、明るく元気な美少女だ。
彼女は『最近貴族に列せられた男爵家の令嬢』と、いう設定で初期ステータスが低い。
これからステータスを上げつつ、攻略キャラの好感度を上げる必要がある。
大変な作業だが、マリア嬢には頑張ってほしいと思う。
なお、マリア嬢が三月の卒業式までに『誰とも恋人同士にならなかった』場合に限って、ゲームがバッドエンドとなる。
バッドエンドでは、魔王ダークエンドが現れて学園を破壊する。
開発チームは、何を考えてそんな設定にしたのか。
まぁ、普通に学園生活を過ごして、マリア嬢に恋人がいないなんてあり得ない。
なぜなら、マリア嬢には、『血が繋がっていない弟』ユーリ・メイヤーがいるからだ。
マリア嬢が何もしないでいると、ユーリ君が世話を焼きに来て勝手に好感度が上がっていく。
いわゆる初心者救済キャラだ。
前世では『なんて健気な子なんでしょう』と、年上のお姉さま方に圧倒的な人気があった。
ユーリ君は、黒目黒髪の美少年。
一年生として入学しているはずなので、後で見に行きましょう。
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放課後、一年生の教室を覗いてみてもユーリ君の姿が無かった。
無駄足を踏みましたわ!
一年生の主要人物は次のとおり。
女性と見間違えてしまいそうな容姿のベディヴィエール様。
第三王子アーサー様の大ファンという設定がありますわ。
三年生のガウェイン様の弟のアグラヴェイン様。
性格が真面目すぎて、少し顔がこわいですわ。
誰とも会えなかったので、予定を変更してランスロット様に会いに行きましょう。
振り返ると誰かにぶつかってしまった。
圧倒的な抱擁感で、優しく受け止められた。
ぶつかった相手は女生徒だった。
「あら、グインネヴィアさん大丈夫?」
主人公のマリア嬢だった。
乙女ゲームで主人公マリアを操作していた時は気付かなかったが、マリア嬢は胸が大きい。
彼女に抱きしめられた生徒は、好感度が一時的に上昇する。
主人公特有の好感度上昇能力として設定されていた。
スレンダーなグインネヴィアには無い能力だった。
油断できませんわ……。
そうだ、ユーリ君のことを聞いてみよう。
「マリアさん。一年生の教室にご用事ですか?確か、弟さんがいらっしゃるとか」
「えぇ。今年から弟のユーリが入学する予定でしたが、間に合わなかったようですわ」
えっ?
攻略キャラが入学式に間に合わないって、そんなことある?
「どうやら領地の農地改革と新商品の開発が忙しいらしくて」
は?
ちょっと待って!
確かにユーリ君は、高スペックなキャラとして設定されていた。
でも、『農地改革と新商品の開発』なんて面白い設定は無かったはず。
どういうこと?
少し、気を付けて様子を見ましょう。