自白・4
マリアから杭をはずし、地面に下ろす。
………マリアの瞼を優しく閉じさせる。
目を閉じ、傷だらけのマリアの頬を撫でる。
『すぐに終わらせ助け出す。』
そう言っていたが、私は何となく分かっていた。
いや、そう言うと少し語弊がある。
認めたくなかったのだ。だから、すぐに助ける。と、生きていることを前提とした思考を進めていた。
私は愚か者だ。
思えばこの夜、いや、私はこの人生で、何度もあった選択肢で『正解』したことがあったか?
私が、自身に襲撃があった時点で部下達も同じ襲撃がある。そう予測し、行動していれば、部下は助けられた。
部下は優秀な奴だ。私の事が頭に無ければ、あの傷を治療し、生き残ることが出来たのではないか?
そもそも、部下に見本としての姿を見せる。などといらない思考をし、なぜ上からの『今日は遅れてこい。』という命令を守らなかった…?
二人の側に居れば助けられただろう。
悶々とした考えが頭に満ち、溢れかえる。
頭が痛い。立つことができない。
マリアとライトがいない私に…もはや意味は…
────ガタンッ!
館の中から何か大きな物音がした。
ニト「……!!」
なぜ私は忘れていた。ライトがまだ、まだ、生きているかもしれないじゃないか。
いや、有り得ないか……また、私は自身の選択に後悔しないために有り得もしない空想を描いていた。
風で家具が倒れただけ。それだけだ。
『…妹さんを、見殺しにする気スか!?』
……そうだ、なぜ諦めている。
もし、生きていたら、見殺しにする事になっていた。
生きているなら、待っていてくれ。
今、助ける。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
物音がしたのは館の二階、寝室だ。
扉から行っていては時間がかかる。
ならば……
甲冑男のノコギリのような大剣を壁に突き立てる。
そして、その上に飛び乗り……
トランポリンのようにジャンプし、窓から入る!!
────ガシャーン!!
寝室は凄まじい荒れようだった。
壁も床も血まみれ。そして至る所に巨大な刃物で斬られた跡がある。
そして、片腕が無くなった、ライトが居た。
ライト「ぅぅ〜〜……。」
ニト「…!!ライト!!!」
ライトは生きていた。
だが、このままでは部下の二の舞。
ライト「ウェス…カー…1階…に……」
ニト「……」
部下の二の舞にはさせはしない。
速やかに気絶させ、止血処置をする。
ここから先は時間との勝負だ。
いくぞ……。
ニトは窓から大きくジャンプし、屋根伝いで診療所へと向かう
診療所へはこの速度なら2分もかからない。
────間に合う。絶対に間に合う。
上から見て気づいたが、私が甲冑男と戦っている間に、私の生まれ育った町は、町は酷い有様となっていた。
街には、人に似た形の毛むくじゃらの化け物や。
これまた毛むくじゃらの筋骨隆々の体に、歪なツノを持ったヤギの頭がついた化け物。
私は奴らを知っている。
…いずれも、市民、『真智教』信徒関係なく、襲っていた。
…何故かは分からない、奴らは脱走したヤツらなのかもしれない。
……妹を失い、もう何も辛くはならない。そう思っていたが、私が見過ごしていた奴らに、街を破壊されるのは、意外にも、心にくるものがあった。
また間違えたのか…。と。
しかし、また私の間違いで、もう大事なものを失う訳にはいかない。
脇目を振らずに走り、すぐに診療所へと辿り着く。
……もう診療所は襲われたあとのようで、至る所が爪のようなもので破壊されており、鉄の匂いが充満していた。
「医師の助けは期待できそうにない……か。」
だが、その程度のことは予測済みだ。
街がああなっているのならば、診療所もこうなっていて当然。
だが、この街には『真智教』の薬が残っている。
外傷治療薬Lv4と書かれた、実験施設で何度も見た、回復薬とでも呼ぶべき代物をとる。
「染みるだろうが、我慢してくれよ。」
気絶しているライトの腕の断面に、回復薬を全て使い切る勢いでかける。
ライト「…いっ………!!!」
ライトが痛みで跳ね起きる。
激痛が起こったようで、絶叫をあげるが、その間に断面の肉は湧き上がり、傷口を塞いでいく。
…さすがに腕の欠損は治らないようだが、それでも、それでも。
ニト「ライト……良かった……。」
ライト「ニ……ト…?」
痛みと、状況から訳が分からない…といった困惑した様子でライトはニトの顔を見る。
ライト「俺に……何が起こって……い゛っ…!?」
ニト「治ったばかりなんだ、大人しくしていてくれ。傷が開く…。」
ニト「とりあえず、落ち着いて。まずはお前たちに何があったか、教えてくれないか?」
ライト「…は?俺たちに何があったかって……」
ライト「俺たちは………」
ライト「…!!…ウェスカー!!マリアは!マリアはどうした!?」
ニトは…俯いて首を横に振る。
ライト「…ぁ…は…?………そん…な……。どうして…どうして今…」
ライトは泣き崩れる。
ニトはそんなライトの背中を擦り、共に泣く。
そうして、時間が過ぎていくが…
5分程経った時だろうか、ライトは、覚悟を決めたように口を開く。
「…アイツらが何者か、それを知って、世に明かさないと、マリアが浮かばれない。」
「……ウェスカーはさ、知ってるんだろ?詳しくまでは知らなくとも、何か少しのことは。」
ニト「……」
事が事だけに、私は俯いて、言葉が詰まってしまう。
ライト「あぁ、アイツらと絡んでいたこと、ウェスカーがそれをマリアや俺に隠していたこと。」
ライト「そこから察するに、多分胸糞悪い事なんだろ。だけど、安心してくれよ。俺は、何があろうと、お前を信じる。」
ライト「…だって、俺たちは『親友』…だろ?」
ニト「…あぁ…わかった…。」
私は、全てを話した。
『人攫い』の事、『真智教』の真実の事。
何もかもが謎な『真理とその徒ら。』の事。
〜〜〜〜〜〜〜〜
ライト「…ウェスカー」
ライトは全力でニトの頬を殴る。
衝撃で、ニトは壁に吹き飛ぶが、ライトは気にせず言葉を吐く。
ライト「…俺はさっき、お前を信じる。そう言った。」
ライト「だから、俺がお前にすることは、ここまでだ。」
ライト「だけど…忘れないでくれよ。お前らが、お前がやっていたことは人間としての最低の行為だ。外道だ。」
ライト「……俺やお前にマリアが居たように。被害者にだって…家族がいたんだぞ?」
ニト「あぁ………。分かってる…」
ライト「なら…いい……。」
〜〜〜〜〜〜〜
ライト「まず、するべきことは、俺は実験施設に行くことだと思っている。」
ニト「まぁ…そうだな。」
ライト「あぁ、そこでだ。実験施設は街の中心の大聖堂の中心から繋がっているんだったか。」
ライト「だが、俺は去年、成人の儀の時に大聖堂の中心部まで踏み入ったが、そんな…昇降機はなかったぞ?」
ニト「あぁ、その事だが、大聖堂の中心。そこに大きな女神像とその台座があったことは覚えているか?」
ライト「あぁ…そういえばそんなものがあったな。だが、それになんの関係が?」
ニト「大幹部が皆持つ金色のネックレス。それを台座にある窪みにはめこめば、女神像が昇降機と入れ替わる。」
ライト「…は?それは…なんというか…御伽噺みたいなギミックだな。」
ニト「現実だ。アイツらは、異常な技術力を持っている。それは家に攻めてきて、マリアを殺した甲冑男の剣を見てわかるだろう?」
ライト「確かに、ノコギリの刃を持った大剣だなんて…マトモに物を切れない。」
ニト「あぁ、だがアイツはまるで人間をバターのように切っていた。」
ライト「……相手をしているのは、なかなかでかい相手。だというわけか。」
ニト「…『真智教』の話を聞いて、まだ反抗する気があったんだ。承知の上だろう?」
ライト「当然だ。」
ニト(ライトはやっぱり強いな……私は、諦めていたと言うのに、マリアが死んで、私より辛いはずのライトはもう立ち上がり、覚悟に目を向いている。)
ライト「それで、次やるべきことは…」
ニト「大幹部からのネックレスの奪取。だな。」
ニト「月末、いつもならば"受け渡し"場所に大幹部の1人が現れるが。」
ライト「それは無いだろうな。真智教は『人攫い』を切った。」
ニト「あぁ、ならば私は一つしかないと思う。」
ニト「…大聖堂の中心。メインホールだ。」
ライト「はぁ……探しても探さなくても結局…か。」
あと二話ほど前世編は続きます。