500年の重み
ゲーリーがみんなに聞こえるように大きな声で名乗ったのを聞いたパージは焦った。封印を解ける唯一の男が封印の目の前にいるのだ。
「あ、あの男を止めろ。全員突撃!」
実際、ゲーリーは封印を解こうとしていて時間稼ぎにガーゴイルをぶつけていた。まだ封印を解くには時間がかかる。
「自分で作った封印に手こずるとは。仕方ねえな。魔導召喚、デスナイト!」
カツヨリが剣を振ると黒騎士が5人現れた。Aランクの魔物、デスナイトだ。デスナイトとナッツピーの兵が戦いを始めた。デスナイトは連携して兵を倒していく。どんどん兵が減っていくのを見たパージは兵を下がらせた。
「一時引け、エクスファイヤーストーム!」
パージの火の最上級魔法がデスナイトに炸裂した。ダメージは与えたものの倒すまでは至らない。兵も遠距離魔法攻撃と弓矢攻撃に切り替えてデスナイトを1匹ずつ順番に倒していく。デスナイトを3匹倒した時、兵はMP切れになってポーションを飲み始めた。その隙を見たデスナイトはこちらに突っ込んで来ようとしている。
「お兄ちゃんどうするの?」
「わしが相手をしよう」
ムサシがデスナイト2匹を相手に二刀流で立ち向かう。カツヨリはぼーっとしている。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
カツヨリはゲーリーから湧き出ているオーラのような物を感じてから何かが体内を通り抜けていくような駆け抜けていくような感覚で動けなくなっていました。リコの声を聞いて我に返ったように、
「ふう、なんだったんだ今のは?初めての感覚だ」
「お兄ちゃん。あれが勇者カツヨリなの?」
「そうみたいだ。俺の片割れなんだよな、さっきあいつを見てから俺の身体が何かおかしいんだ。なんかレベルがグーンと上がった感じがする。そうだ、ムサシは?」
ムサシはデスナイト2匹相手に互角に戦っている、というより魔法剣を使っていない。遊んでいるみたいだ。
「ムサシ、どうした?さっさと片付けたらどうだ?」
「なんだカツヨリ、ボケは治ったのか。なんかお前が急激に老けていくような感じがしたぞ。それでだ、あいつの前で技を見せない方がいい気がしてな。剣の達人は一度見た技は喰らわないというし」
その通りです。ムサシは本能でそれを察したのでしょう。ゲーリーには一度見せた技は通じないのですから。
「ふーん、1匹は俺がやるよ」
「わかった、ほれ!」
ムサシは刀でデスナイトをカツヨリの方へ寄こしました。なんだその余裕?これまでの戦いでムサシは急成長しています。攻撃力2倍の効果も絶大です。
カツヨリはレビンの作ったカツヨリの剣を抜きました。魔力伝導度の高いこの剣に軽く魔力を纏わせてデスナイトを一刀両断します。ところが斬られたデスナイトの身体がくっついて元に戻ってしまいました。
「あれ、なんで?」
「何やってんだ、カツヨリ。オーリャー!」
ムサシは自分の担当のデスナイトを倒した後、カツヨリ担当のデスナイトも倒してしまいました。
「おっかしいなあ、なんでムサシには斬れて俺には斬れないんだ?」
「お兄ちゃん、斬ってたよ。スパッと斬れた後スンってくっついた」
「ほう、姫が言うのならそうなのでしょう。誠に不可思議」
なんだよ、俺の言う事は信じないってか。全く。まあいつものことかと気を取直しゲーリーを見るとこっちを見て笑っている。カツヨリはムサシ、リコの顔を見ると行け!と言っていたので一人でゲーリーに近づいた。それを見たパージが駆け寄ってきて叫ぶ。
「コジロー殿、一人では危険です。それにこれは我が国の問題。異国の方のお任せする訳には」
「パージ殿。では一緒に行きましょう」
パージはダークエルフ、この奥にいる四天王ガーリーの双子の兄弟だ。ゲーリーとも因縁はあるし連れていくべきだろう。ん?どこへ?俺はパージをどこへ連れて行こうと思ったんだ?
パージと並んで四天王ゲーリーの近くまで進む。そこでなぜか2人とも足が止まり硬直状態になってしまった。ゲーリーは何やらブツブツ呟いてそれから剣を円形に降り、上段に構えた。剣の周りに何故か日本語の字が螺旋のように渦巻いている。カツヨリもパージも身体が固まったように動けない。その動きを見ている事しか出来ない。
「待っていたぞカツヨリ。それとパージだったか。親父に似ているな。ここに現れるとはお前の天命だったんじゃあないかな。ああ、悪い、動けないよな。結界を壊す結界なんだ」
そう言うと何か呪文を唱えた。黒い光がカツヨリとパージの顔を覆いカツヨリもパージも喋れるようになった。
剣を渦巻く文字は、 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・前・行 と書いてあった。結界を解く呪文のようだ。
「ゲーリー、お前は何がしたいんだ。俺とお前はなんなんだ?」
「うーん、話すとものすごく長い話になる。今はその時間がないから後でいいか?多分その時には…………」
「四天王ゲーリー、封印を解かせる訳には行かない。この500年、この封印を守るために我が国はできたのだ。その500年の」
ゲーリーはパージの話を途中で切る。
「その500年の重み、その時間が必要だったんだ。世界を本当に救うためにな」