17話 『しちゅー』
「約束は果たす主義だからね……という事で、ここからは君次第だ。このチャンスを忽略にしないよう奔走しなさい。願いが結実されることを、彼女と彼は望んでいるよ——今でも……」
子供は意味深な言葉だけを残して去っていった。ポツポツと振り始める雨の中。シュウは子供の背中を見つめる。次第に、その背中は薄弱となって白い霞と共に消えていった。
「ま、まて……お前は、何を知って」
雨の雫が体を打つたびに、シュウの身体と心の痺れが緩まっていく。頭の中で錯綜する情報が一点に収束していくのがわかった。やらなければならないことが明確化され、シュウの意識は子供からツグハへと向いていた。
先程、シュウが見た映像は幻視の類ではなく、実際に起きた惨劇だ。そして、それはツグハと喧嘩別れをした日。急病で倒れ、彼女の最後を看取れなかった人生最初の二代汚点の一つである。
「そうだ。何やってんだよ……俺は、もどらなくちゃいけねぇここが理想郷ってんなら、やる事なんざ最初から決まってるだろ……」
——ツグハに謝り、別れを告げることだ。
目に入る雨粒を掌で拭い、シュウは意を決して自宅へと向かう。未だに力の入りにくい身体を執拗に引きずり、覚束ない足取りで目的地まで動かす。そして、
「た、ただいま……母さん」
玄関に手を掛け、シュウは弱々しく帰りの挨拶をツグハへと浴びせた。
「結構、早かったじゃな……ってビショビショじゃないさね。それに服も泥まみれだし。もしかして、雨の中泥遊び——」
「母さん……朝飯前に言ったこと、覚えてる……?」
「——覚えてるよ、シチューでしょ? わかってるさね。それで……?」
質問をするシュウに、ツグハは質問で返した。だが、決して彼女がシュウの意図を汲めなかったのではない。寧ろ、その逆だ。知っている上で、シュウからの言として直接聞きたかったのだ。
直接言わなければ、伝わらないことだってある。伝わらないかもしれないと、最悪をくよくよと考えるよりも、伝わるはずだと、最高を信じるのだ。ツグハは自分にとって最高の母親だ。だから、その彼女を信じて全てを伝える。何を躊躇う必要があるのか。
「もう一度……スーパーに、俺と一緒に行ってくれない? シチュー用の野菜とルーも……」
「……わかったさね。愛息のめったにない頼みだもんね!」
『愛息』という響きにむず痒くなるものがあるが、シュウはツグハに本心を伝えることができた。彼女はそんなシュウの恥ずかしがる様子をこれ見よがしに堪能し、「その前に」と前置きをして、
「びちょどろの服と身体……全部洗ってきなさいな。スーパーに行くのはそこからさね」
ツグハはシュウの惨憺たる現状を見て、勿体ぶった言い回しをした。
自宅に帰るという意志のみで身体を動かしていたシュウにとって、見た目のことなど頓着していなかった。
しかし、冷静に見てみれば、
「なんとも、間抜けな状態だな……シャワー浴びてくるよ」
「はぁい。いってら……」
ツグハは小さく手を振ってシュウを見送った。
脱衣所に向かったシュウは全身を一瞥、安堵を込めながら肩の荷を下ろし、服を脱いで下着状態になる。洗面台に水を溜めて、脱いだ服を投げ込む。
シュウは反転世界のように映し出す鏡を見据え、己の醜さを如実に知った。
「これが理想郷の俺かよ……ここで俺はずっとこうやって過ごしてきたのか……」
——髪色が黒ではなく、茶であった。
それだけには止まらない、シュウの身体は普段よりも矮躯であったのだ。筋骨隆々など以ての外で、年相応の体つきと言えるであろう。
ここで一つの疑問が浮上してくる。それは、ここのシュウがどのような生き方をしてきたかだ。
憶測の域を逸することはないが、何もせず、ただ純粋に生を謳歌してきたのだとシュウは予想した。ここのシュウにとって、この世界は当たり前の日常であるはずだ。が、ここではないシュウは知っている。その日常が当たり前のモノではなく、儚く尊いモノなのだと。
「なら、けじめはつけねーとな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
けじめをつけるといっても、大層な事をするわけではない。することはいたって簡単。師匠に言われた言葉だ。
『その茶髪、なんつーかガキっぽいな……よし、黒色に染めろ!!』
『なんで急に、そんなこと言うんだよ……まさか、気まぐれだって言わないよな?』
『確かに気まぐれだが、そういうのは気持ちからだぜぇ』
『尚更意味が分からん……気持ちの問題なら、見た目は関係ないだろ』
『それは一部あってて、一部間違ってる。二十歳になったら、俺は大人になったんだって思って身嗜みとかにも気を付けるだろ? 要は形から入るってことだ。最初は形を知って、それから形に見合った気持ちを付け加えていくのさ……そいつはお前が目指す、強者にも当て嵌まることだぜ』
師匠の含蓄のある言葉に、シュウは異論を唱えるどころか、そうだと肯定の意を胸中に宿した。それは、彼がシュウにとって強者だからだ。強者だと信じ、追い続ける男の言葉だからだ。
「シュウ、髪染めなんて持ってどうするの……? それも、黒だし」
「あ、いや。特に意味はないんだけど……俺の中での、分岐点ていうか、分水嶺っていうか……」
「なぁにそれ……意味はないって言っておきながら、意味ありありの事言ってるって自覚はある……?」
前後で意味が破綻している物言いのシュウにツグハは『やれやれ』と言いたげに肩を竦めた。あくまで冷淡を装っていたシュウだが、ここにきて自身の杜撰さを隠し切れずに墓穴を掘ってしまった。しかし、
「気にはなるけど、シュウにも考えがあって行動をとってるって分かってるさね……だから隠す必要はないさね」
「全部見抜いてたってことかよ」
ツグハはシュウの考えを追求しなかった。憂いを孕んだ双眸を彼女は誤魔化すように笑顔で払拭させる。
「そうさね。私は愛息を赤ちゃんの時からずっと見て来たのよ。表情一つ一つでシュウが何を考えてるのか、大体わかっちゃうもん!」
ツグハは公の場で『息子大好き宣言』を決行。軽くウィンクをした後、彼女は指を立て、シュウの額にこつんと当てた。
同じ商品棚にいた人たちは二人を睥睨。冷たすぎる視線にシュウは己の正常値が擦り減っていくことを直感的に感じ、
「こういう場所で愛息とか言うのやめろ!! 死ぬ! 恥ずかしすぎて崖から飛び降りダイブしたいくらい死ぬ!」
「あっはは! そんなに恥ずかしがる必要なんてないさね! シュウはかわいいな~」
恥ずかしさのあまり、語彙力が減衰していくシュウにツグハは子供を慰める動作でシュウを宥める。要約すると『いい子いい子』である。尚更にその行動が周囲の人達の視線を集めていることに、シュウは汗顔した。
「とにかく、買わなきゃならないのは籠に入れたし、買って帰るぞ」
「はいはい。じゃあ行くさね」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
シュウとツグハが自宅に到着したのは十四時半過ぎだ。スーパーからの帰宅途中。二人の会話に特に目立ったものはなく、雑然とした日常会話のみ。
それから、髪染めで約二時間強。この間、シュウとツグハは言葉を交わさなかった。シュウが自室に籠っていた要因もあるが、彼女が気を利かしてくれたことが大きくあった。
これは、お互いがお互いを尊重し合った証左であり、決して軋轢が生じたわけではない。『そこにいてくれる』それだけで安堵をもたらしてくれる存在なのだ。故に、これを侵すことは絶対にあり得ないし、侵そうとする者を許しはしない。
シュウは読み終わった本を机の上に置くと、
「しっかし、なんだこのファンタジー小説は……仙人の哪吒に女吸血鬼のカーミラ。エルフのソルに宿る、水の女神アナヒットに、騎士ローラン……それに着きそう主人公って、色んなもの詰め込みすぎだろ!! 時代設定バラバラじゃねーか!! 著者は誰だ? て、ENDかよ!? 万能すぎやしないか?」
師匠がよく読んでいた本の著者の『END』という人物。シュウも少なからず、彼に影響を受けていた。師匠から渡された『善悪の齟齬』というタイトルの本だ。それを読んだ途端に、シュウの中にある価値観が決壊した。
通常、善いことをする人物が善であり、悪いことをする人物が悪である。これは全人類の共通認識と言えるだろう。しかし、この本には何が誰にとって善い行動なのか。また、何が誰にとって悪い行動なのかについて綴られていた。
万人にとって善と思われる行動であっても、少数にとってその行動が悪ならば、善悪が混在している行動——即ち、矛盾が発生してしまう。
その矛盾を『END』はこう結論付けた。
——善と悪とは夢想だ。有るのは己の信じる道のみ。
善悪に拘るよりも、自分のやりたいことをやれ。と、シュウはそう捉えた。
今考えれば師匠もこの言葉に影響を受けたのかもしれない。捉え方は千差万別だ。だが、自身が憧れた者と同じものに影響を受けたという事実は少し嬉しい。
「まぁ、面白くはあったな。自分の為に仲間を守るってのは……心に沁みる言葉だな」
練り込まれた世界観に、登場人物全員の背景の奥深さ。本来なら個性の強いキャラ達に押し潰されるはずの主人公だが、実際にはそうならず、主人公というキャラの役割がちゃんと担ってあった。それどころか、主人公がいなければ、乗り越えられない壁が多々あったほどだ。
読書で心の調律を図ったシュウは、自室の扉を開けた。
そこにあるのはいつもと変わらない光景であるはずなのに、シュウには何故か、茫洋とした荒野に立っているような解放感を得た。
「覚悟を決めやがれ……お前がやることは、何も難しいことじゃねぇぞ。シュウ」
シュウはそう言って自身を昂らせ、精神的にも肉体的にも支障がないことを確認する。そして「行くぞ」と言って、リビングにいるツグハの元へと向かった。
「おお、髪色が真っ黒になっているさね! なんというか、漆黒の青年みたいな?」
「その中二病全開のあだ名はやめてもらえない?」
「ごめんごめん! 私の中での中二病という領域の匙加減が上書きされたよ。次からは気を付けるさね」
ツグハは頭の後ろに手を当て、黒髪を靡かせながら謝意を込める。皮肉でもなく、揶揄するわけでもなく、ただ純粋な謝罪。その言葉に他意が感じられないのは彼女の善性が強いためであろう。
「あ、あのさ。唐突なんだけど、俺の茶髪は親父から受け継いだものか……?」
自分が生まれる前に、父親は亡くなったとツグハから聞いていた。彼女の髪色は黒、だがシュウの髪色は茶色だ。
シュウが髪染めを手にした時、ツグハは悟られないようにと誤魔化した。だから、その違いを別れを告げる前に知りたかった。子供だったシュウでは、訊けなかった大切なことだ。
ツグハは少しだけ、その顔に憂いを浮かばせて、窓から沈みかけている茶色い夕日を陶然と眺める。そして彼女は、それらを閉めるカーテンと一緒に払拭した。
「そうさね。あの人も茶髪だったよ……」
「そうなんだ……母さんは俺が黒髪に染めたこと、どう思う……?」
「どう、とも思わないのは……嘘になるさね。でも、それは私の身勝手さね」
「身勝手……?」
シュウはオウム返しで質問を投じた。何故、シュウがこのような言動心理に至ったのか。それはツグハが万感を孕んだ双眸でシュウを見ていたからだ。
「かあ、さ——」
「話はあとでいいシュウ? シチュー冷めちゃうし、食べながらで、ね……?」
「————」
シュウはツグハの慮外な指摘に呆然自失としてしまう。彼女の言う身勝手とは何であるのか。無理解の言葉だけがシュウの胸中を席巻していく。ツグハの言った『身勝手』という言葉が、シュウの理解という器に収まることを拒否している。
「さ、食べようさね。面と向かって真剣に、ね」
ツグハはそう言って木製の机をポンポンと軽く二回叩く。それからシュウと対面状態になるように回り込んで椅子へと座った。
机の上には既に皿に盛られたシチューと、二人分夕飯が並んでいた。
「シュウ、座って? お願い……」
「母さん」
掠れた声を出し、シュウは重い身体を動かして椅子へと腰を降ろした。
「じゃあ、いただきます。あーほら、シュウも」
「母さん」
ツグハはシュウにもわかる程、余所余所しい手つきで箸を右手に持つ。口に運ぼうとする腕は寂しさを訴えるように震えている。シュウは無意識的にツグハを双眸で捉えていた。
シュウの視線を感じると彼女は眉を上げて優しく微笑む。
「食べないの? シュウの大好物のシチューです」
「かあさん……」
「それも、シチューだけでご飯が食べられるくらい味のこ——」
「かあさん! 誤魔化さないでくれ!! 身勝手ってなにが身勝手なんだよ!」
シュウは薄々ではあるが気が付いていた。
ツグハが感情の渦を抑えながら平静を繕っていたこと。それが彼女らしくない行動で、言葉に出来ない程の激情を抱えていること。その感情がシュウの親父から生まれたこと。
どれも、今のツグハを見れば分かってしまう。
「そ、そうだよね。言わなきゃ、いけないよね。ごめんね……」
「ごめん、怒鳴るつもりはなかったんだ」
「いいよ。気にしてないさね。あぁ、もう息子に気を遣わせるなんて……私、親失格さね」
「それが駄目なんだって、母さん! ああ、もう、わかった! シチュー食べるから辛気臭い顔するの無し!!」
まだ、踏ん切りのつかないツグハに、激励の意を込めてシュウはシチューを口に含む。それにツグハが、寧ろシュウにとって過ぎた親である彼女が、親失格などあり得ない。
「あ、あつ! あふい! ジャガイモ! あふいあふい!」
勢いに身を任せ、それ以外を省みなかったシュウの舌に、出来立てのシチューが猛威を振るった。「ハフハフ」と口の外へと熱を逃がす姿はまさに、餌に群がる鯉。
「ぷ! あはは! シュウのバカ! それは出来立てのシチューを冷まさずに食べればそうなるって! もぉホントバカ!」
「う、うっへい!!」
強張っていたツグハの表情が弛緩し、肩を大きく揺らしながら笑った。二人の間を取り巻く、重い空気はツグハの笑い声によって緩まっていく。眦には笑いからくる涙が浮かび、ツグハは満面な笑みを零した。それは紛れもなく、いつも通りの彼女の姿だ。
シュウは熱を逃がすやり取りを何回か繰り返し、胃の中へとシチューを放り込んだ。
「さあ! 俺は食べたぞ!! これで母さんも言わなきゃ不公平だ」
「美味しかった……?」
「——それは当たり前だろ! 母さんのシチューは俺の大好物だ。おいしくないわけがねぇ!」
舌鋒鋭く、シュウはツグハの作ったシチューを我が物のように褒め称えた。シュウの言葉を彼女は滋味しつつ、瞑目して深呼吸。
「わかりました。ここまでして、シュウに頼まれてしまったら、断る道理はないもんね」
ツグハは閉じた目を開き「でも」と口を立て、
「ご飯を食べ終わってからね……」
「わかった。シチュー冷めちゃうもんな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
食事を終え、机の上には何もない。これから本当に、ツグハとの対談が始まる。それを彼女も理解しているらしく、真剣な表情でシュウを見やる。シュウはツグハのその表情を開始の合図だと解釈し、覚悟を、決心を胸中に抱く。
「私はね、シュウのことをあの人と見立てて、貴方を育ててきたの。髪色も顔もあの人にそっくりになっていくシュウを見て、もしかしらって……あの人を失った時の悲しみが、埋められるんじゃないかって。でも今日、シュウは真剣な顔で何かに、巨大な壁に向かって走り出そうとしていて……シュウまでも離れていってしまうんじゃないかって、それが嫌で、でも私の考えは……それは私の身勝手さね」
後半からツグハの口調はシュウに向けての言葉ではなく、自身に向けての言葉に切り替わっていった。何千何万の言葉を切り離しては戻し、乖離させては付け足した表現の結果。つぎはいで、つぎはいだ結果。
激情や万感が周囲の空気へと伝播していくのがわかる。それほどツグハの思いは広く、壮大なものなのだ。
「私の身勝手、それはわがまま! シュウはあの人じゃない。シュウは私の愛息!! だからシュウのやりたいことや、目指したいことに力を貸すのが私のやらなきゃいけないこと!! 私はそれがしたいの……」
ツグハが言葉を羅列するたびに、シュウの精神に大きな淀みが生じる。彼女の辛そうな顔を見るたびに、胸中で抱いた覚悟と決心が緩みそうになる。逃げたくなってしまう。でも、ここで逃げてしまえば本当にシュウは自分の事が嫌いになってしまう。自分自身を許せなくなってしまう。
——だから、逃げない。
シュウがやりたいことはツグハに別れを告げることだ。それがシュウの信じる道だ。悩む必要などない。
頭の中で消えた筈のしこりが——いや、それはしこりではない。それはシュウの願いだ。現実のシュウが希う光だ。言えなかったことを、伝えたかったことの本懐だ。
——本当の想いを伝えろ。
「俺も、母さんにしたいこと、いっぱいあるんだ……」
「————?」
「ごめんなさい……この言葉、俺が母さんにずっと言いたかった言葉だと思う。ここで、俺は母さんに会って別れを告げる。ここが俺の理想郷っていうなら、俺はそれをやらなくちゃいけない……いいや、やりたい! 理屈だとか、道理だとかそんなの関係ねぇ! 俺は母さんが大好きだ! なら俺は母さんにもう、心配かけないように、俺は立派に育ったよって! 言わなくちゃならねぇ!!」
ツグハは心の内を解き明かしてくれた。ここまで来て、シュウは彼女に頼ってしまった。この覚悟さえも、今となってはツグハから受け取ってしまった。そんな自分のクズさ加減には反吐が出る。
だが、ツグハはこんな奴でも、こんなどうしようもない野郎でも『愛息』と『力を貸したい』と言ってくれた。絶対に裏切ることなど出来ない。
「母さん、ありがとう……こんな俺を愛してくれて」
今度は謝罪の言葉ではなく、感謝の言葉だった。
その瞬間、シュウの固く閉ざされていた開かずの間が初めて亀裂を帯びた。
——瓦解していく。
その亀裂から、封印されていた扉は崩壊の一途を辿る。
——瓦解していく。
涙の防波堤がなくなり、滂沱の涙がとめどなく溢れかえる。頬をつたり、机の上へと落下する。ツグハの双眸からも、涙が溢れかえる。
嬉しくて、それが堪らなくて、涙が零れ落ちる。
「うん、うん……私、今世界で一番幸せだよシュウ。こんな駄目な親を愛してくれて……ありがとう!」
——それはシュウの届かなかったはずの手が、初めて届いた瞬間であった。




