11話 『人間爆弾』
「————ッ!!」
目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。
枕にふかふかの布団に寝心地の良い敷布団。樹々から差し込める木漏れ日。温められた部屋に、そして、
「あ! 目が覚めましたか?」
目の前にはシュウの身を案じ、手を優しく握っていてくれた銀髪の少女——ユイがいた。
ユイはシュウが目を覚ますと安堵の息をそっと、小さく漏らす。
それもそうだろう。ユイにとってはシュウが突然と正気を失い、気絶してしまったのだ。昨日今日で出会った仲とはいえ、二人の間には絆が垣間見えていた。憂患するのもおかしくはない。
「あぁ……ここは?」
「ここはー、ええっと……お兄さんが言っていた、おじさん? の家です。すいません。名前はまだ訊いていなくて」
「いいや……ユイが謝る必要はない」
シュウは布団を押し退け上半身を起こし、
「俺が寝ている間……手を握ってくれていたのか?」
シュウはユイの両手の温もりを、優しさを、慈愛を右手で感じていた。最悪の過去が走馬灯のように過った夢の中、シュウの自壊していく心を彼女が癒してくれた。
きっと今、右手にあるこの温かみを感じることが出来なければ、自分は過去と同じ選択をしていただろう。
「あ! すいません!! 許可もなく手をにぎって——」
「違う……」
「ぇ……?」
不意にシュウの放った言葉の意味が理解できなかったのか、ユイは掠れた声を漏らした。要領が得られないと、口を小さく開け、疑問符を浮かべる。
「手を握ってくれてありがとう。ユイのお陰で、助かった……俺は結局、最後の最後まで臆病者だったんだ。弱くて、非力で、口先だけのクソ野郎だ」
「——あの、私はただ……お兄さんの手を握っていただけです。お礼を言われるようなことは、何もしていません。それと……」
ユイはシュウの右手から両手を放し、泰然とした表情で否定を口にした。彼女の否定に、今度はシュウが掠れた声を漏す。
「お兄さんは臆病者でもないし、弱くもないし、非力でもないです。況してやクソ野郎だなんて、そんなこと……っ」
首を左右に振って、シュウがシュウ自身に下した酷評をユイは打ち消す。彼女は服に皺ができるほど握りこぶしに力を入れ、それだけは絶対にあり得ないと、その面貌で語る。
ユイは自身の胸に手を当てて、潤む双眸でシュウを見つめ、
「私はお兄さんに救われたんです。暗闇で、何も見えない私に光を……希望を魅せてくれたんです。世界の全部が敵に見えて、怖くて……悲しくて……寂しくて……何も信用できなくなってしまった私に、もう一度人の気持ちを与えてくれた人……それがお兄さんなんです……それが、どれだけ私の救いになったか……その恩恵の大きさは、お兄さんにだって分からないと思います……」
ユイは吐露した。彼女の愁傷の感情が空気を伝播し、シュウの肌に伝わる。
「それは買い被りすぎだ。過大評価だ! 俺は大切な人の死を蔑ろにしたクソ野郎だ!! お前はそれを知らない!! 間違いだ!!」
そうだ。その通りだ。彼女は自分の一部しか知らない。だからそんなことが言えるのだ。そんな者はこの世に存在しない。過去のトラウマを乗り越えようともせず辟易し、そのトラウマが時と共に摩耗してなくなるなんていう安易な考えで、今の今まで醜態を晒して生きてきた。
——それがシュウだ。
「違います!! 間違いなんかじゃありません!!」
終るはずもない平行線上の抗論。お互いがお互いの主張を感情論でぶつけ合っているだけで、軋轢しか生じない言い争い。周りが見れば、子供同士の喧嘩だ。
何故、自分の考えが否定されているのか、わからなかった。その否定の言葉を反芻するたびにシュウの胸中には気色の悪いものがこみ上げてくる。
「わからねぇよ!! 俺とお前は昨日会ったばっかりの他人だ!! なんでそこまで言えるんだ!!」
ユイとシュウが会ったのは昨日の夜で、時間で換算すれば会ってから一日も経っていない、いわば赤の他人だ。
「命を救われた時、あの日……両親に捨てられた時になくなった筈の心を、お兄さんが取り戻してくれました。こんな残酷な世界で生きていくくらいなら……苦しい思いをして生きていくくらいなら……っ」
それでも、ユイは言いとどまらない。ユイの艶やかな銀髪が、彼女の感情と共鳴するかのようにユラユラと靡く。その姿にシュウは圧倒されてしまい、ユイから瞳を一瞬だけ逸らしてしまう。
「死んだ方がマシなんじゃないかって……何度も何度も悩んだことだってあります……でも! そんな最悪の世界で、貴方が……お兄さんが、理不尽を振り払ってくれた!! お兄さんは私の英雄です……ヒーローなんです……だから、そんなこと言わないでください! 私の英雄が、英雄であることを否定しないでください!!」
悲しみに溺れるような、悲愴な表情。ユイは泣いていた。顔を涙で濡らしながらも、言葉を紡ごうとする彼女の嗄れた声を聴いた。万感がユイの胸中で攪拌され、錯綜していくのが分かった。隠し切れない程の悲嘆が彼女を苦しめていた。
彼女は俯きながら、シュウの胸に両こぶしを力なく叩きつける。少女の華奢な力に、シュウに痛みを与える要素は一切ない。なのに、シュウの胸は痛切によって打ちひしがれていた。
ユイの痛みが、そのまま自分の痛みに感じられた。
『寧ろ、魅せられたのは俺なんだからな……忘れるわけがねぇよ』
彼女の言葉は師匠の言葉と、とても似ていた。言っていることは全然違うのに、瓜二つに思えた。
それは紛れもなく、偽りという不純物が無い、真にシュウを思っている証左——述懐だった。
——彼女の思いを、その耳で、その肌で、その目で感じた。
「—————」
——故にシュウの答えは決まっていた。
「そう、か……っ」
彼女が泣いているようにシュウも泣いていた。周りを憚らず涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いた。悔しさの涙でもなく、悲しさの涙でもなく、ただ純粋な嬉しさの涙が滂沱する。
「俺は救えたんだな……届いたのか、今度は」
——やっと報われた。
「はい……届き、ました!」
ユイの涙を流しながら破顔する表情は、何処か儚げで、美しかった。
——もしかすると救われたのは、こちらなのかもしれない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一段落した後、シュウは現状について、それから魔術についてユイから教えてもらう事にした。気まずさは自然と無くなった、というよりかはシュウとユイの切り替えが早い、と言った方が遜色はない。
「もう、正午過ぎか……」
「お兄さんが気を失ったのが、夜の八時程度だったので……十二時間以上は寝ていたことになりますね」
しかし、何とも腑に落ちない。昨日と今日の間で、自分の身に何が起こっているのか。それと子供のような声——それが聴こえた途端、シュウの身体が悲鳴を上げて機能しなくなるのだ。
声の主が原因であることは理解できる。だが、謎の存在は近くに居て、目には見えているのはずなのに、掴むことが叶わない。或いは、掴んでも手の間からするりと抜け出してしまう。言い表すなら、空気の様な異物といった感覚だ。
「考えても仕方ない、か……」
どこまで行っても『机上の空論』であることには変わりはない。そう思いながら、シュウは窓から外にいる小鳥たちを眺め、
「ユイ……」
「は、はい……」
「魔術師について……色々と教えてくれ。俺を殺すため、ユイを捕えるために今、組織の奴らは血眼になって俺たちを探しているはずだ。いつ襲われてもおかしくない状況だって言える……それに向けての、傾向と対策を練りたい。もっと率直に言えば……奴らをどうやって倒すか……だな」
シュウのその申し出に、ユイは少し口惜しそうに表情を歪める。それから、憚るような双眸でシュウを見て、
「非常に申しにくいことなんですが……魔術師は魔術師でなければ斃すことはできません。戦闘特化の魔術師なら尚更です……ご存知の通り私は非戦闘員です。退くことは可能であれ、倒すまでは……」
彼女は瞑目しながら首を小さく横に振って、シュウの考えを完全否定した。『冗談だろ?』と思わず無理解を訴えかけたくなるほど、その事実には精神に堪える感情が沸いた。
どれほど困難なことであっても、解決策があるならそれに向かって邁進するつもりであった。だが、皮肉なことにシュウは身体を張る事さえも許されなかったのだ。
「それに、お兄さんも、その身を以って魔術師の恐ろしさを知っているはずです……私が、張った対魔術師用の逆流がなければ、鮮血のミズキは斃せていませんでした」
「それなら、ユイがその逆流とやらで援護してくれれば、俺がその前もその後も何とかする。その作戦なら——」
「それも、駄目なんです」
一つの望みでさえも、シュウは縋ることが出来なかった。夢の中で師匠の意志を継ぐと決めた途端にこの仕打ちだ。こればかりは筆舌に尽くせない憤りが募るのみ。
「敵が魔術師単体なら可能な話です。でも、相手は組織で動いている……自身の弱点に対して対策をねっていないとは……」
「じゃあ、どうすればいいんだ? このまま何も対策せずにいるってのは……愚行が過ぎる」
「対策なら、あります……魔術師は魔術師でしか斃せないなら、魔術師を味方にするしかありません」
——青天の霹靂であった。
考えが及ばなかったというわけではない。寧ろ、その考えはシュウの中には小さくではあるが、蕾は芽生えいた。しかし、それを口にしなかったのはシュウが魔術師に対しての見識が浅いからだ。
根拠の無い理想論では高く厚い壁を突破することは不可能に等しい。
その不安という要素を払拭する発言。魔術師であるユイだからこその功績だ。
「実際にあったわけではないです。ですが、二勢力の内の一勢力が、この地に訪れています。場所は、ここから北東、中規模の港町です」
「北東の港……夷町のことか。ここから距離はかなりあるな……というか、鮮血のミズキも言っていたが、二勢力とは何の二勢力なんだ?」
鮮血のミズキとの闘いでは戦闘に集中していたために、頭に留めなかったが今回は状況が違う。憩いのある場所で勉学を講釈されるならば、嫌でも頭にとどまるというもの。
「ご!? ご存じないんですか!!」
「——悪い」
「てっきりご存知かと……すいません」
ユイは僭越であったと、深々に頭を下げる。どのような理由であれ、管見であった自分が悪い訳であって、彼女が悪いわけではない。『無知は罪なり』とはよく言ったものだ。何とも不甲斐ないことである。
「それでは、簡単に説明しますね……二勢力というのは、いわゆる魔術師と魔術師との派閥争いみたいな感じです。才あるモノが才なきモノを搾取ないし、世界変革を訴えた勢力。才あるモノが才なきモノを守る勢力、の二勢力です。因みに、港町に訪れているのは後者の勢力です」
「そいつはまた、ぶっ飛んだ話だな。世界がどうたらこうたらなんて……考えたこともなかった」
世界事情について無関心とまではいかないが、興味というものは湧かなかった。それが頓着しないからなのか、遠すぎる存在だからなのかは、本人であるシュウでさえ答えは分からない。
少なくとも、シュウの中では『世界』というのは勝手に回り、勝手に変わりゆくものだと考えていた。それに一般市民とさほど変わりのないシュウには、世界に対して考える時間はなく、身の回りのことだけで精一杯だ。
「もう一ついいか?」
「はい、なんでしょう?」
「人間爆弾ってのを知っているか? 知らないなら、知らないでいい……」
目標が定まったところで、シュウは今一番自分が知りたいことを切り出した。ユイにその真相を問うたのは、彼女が魔術に対してシュウより幾倍も造詣が深いことを実感したからだ。
彼女であれば、シュウが求めている答えを知っている。そんな泡沫な期待。
「——それを、どこで知ったんですか?」
「夢の中だ……恩人の夢をみて、その恩人から知らされた」
「そうですか……やはり、そうなんですね」
「——やは、り……?」
「え? あぁいや!! いぃ、今のは忘れてください! 気の迷いというか、おふざけというか!! あはは!!」
「お、おう……」
ユイの焦り様にシュウは虎の尾を踏んでしまったのではないかと悔悟したが、冗談だということで流すことにした。
「ええっと、人間爆弾と言うのはですね。真正の魔術師を核として作られる核兵器のことです。これは実際に六年前の世界大戦、別名魔術戦争を終戦に追いやった代物です」
「ちょ、ちょっとまて! 真正の魔術師が核になるって、そりゃもしかすると……組織がユイを欲している理由は、まさか……」
「その、まさかです……」
「————」
世界は既にすぐ近くまで迫って来ていて、シュウにコンタクトを求めてきていた。
その事実に、師匠から受け継いだ意志を果たせる機会がやってきたと、シュウはそんな感慨を胸中に抱く。本当に全てが繋がっていたと思わざるを得ない。
それにしても、彼女の豪胆さには感嘆してしまう。自身が狙われていることと、その狙われる理由を知っているのに、顔色を変えずに淡々と語る姿は麗人のソレだ。
「あの……今度は私から訊きたいことがあって」
「なんだ……?」
「ミズキの遺体から取った魔石です。少し見ていてください」
ユイは右ポケットの中から一つの唐紅色の宝石——魔石を取り出した。それをシュウにも見えるように、彼女は右手を前方へ翳す。すると、魔石は彼女の意志に感応すつように小さく赤い光を発生させた。
「赤い光ってるな……どういう原理だ?」
「赤く光るのは、魔石が魔術師の体内にある魔力に反応しているからです。もっと言えば、私がこの魔石に魔力を流し込み、反応させた、といったところです……逆に言えば、魔術師としての素養が無い人が触っても、こうはなりません……お兄さん、手を……」
ユイの持つ魔石をシュウは受け取ると同時、魔石は赤い光を発生させた。シュウの手を中心に人の体温程度の熱が発せられ、その生き物のような感応にシュウは思わず魔石を床へと落としてしまった。
「なんだ……? どういうことだ? この魔石、俺にも反応したぞ……何かの間違いじゃないのか? 俺は魔力なんか流し込んでないぞ……」
「そうなんです……普通なら、魔力を流し込まなければ、魔石は反応しません。でも、一つだけ、例外があります……」
「れい……がい……?」
シュウが落とした魔石をユイは拾い上げ、こくっと頭を小さく盾に振って肯定。そして、
「それは、魔力の体内に留められていない、要はコントロールが出来ていないことになります。そして、私たち魔術師はそのような存在に対し、こう呼んでいます……『予備軍』と……」
「ま、待てよ! 俺が魔術師だなんて、そんな訳が無いだろ……俺は生まれてこの方魔術に関わったことなんてないし、そんな家系に生まれたわけでもない!」
「——それに関しては、私も分かりかねます……ですが、最近何か、自分のみにおかしなことが起きませんでしたか……? 変な夢を見たり、急に体調が悪くなったり……」
ユイの確信を突く言葉にシュウは思い当たる出来事を、記憶の海から釣り上げる。ある、それもいくつもだ。
アキヤマに運転してもらっている時に見た夢。涙を流すような夢を、忘れるのはおかしいと思っていた。
ユウジ宅での急な昏倒に、博物館跡での謎の白い世界。あの時に聴いた妙な子供の声は、シュウの脳内にべったりとへばり付いている。
自宅での母の写真を見た後の眩暈と倦怠感。そして、夢の中で観た封印された過去のトラウマ。シュウを試す様な言葉を投げかけて来た子供の声。未だにしこりとなって頭の中に鮮明に残っている。
「あ、ある……」
顔に手を当てて、シュウは忌々しく呟いた。ユイはシュウの言葉に、納得がいったような表情を見せ、
「やはり、ですか……これで確信が得られました。お兄さんは魔術師予備軍です」
ふと、階段を上る音が聴こえ、部屋前で「入るよー」と抑揚のある声がシュウの耳に入った。声の主は部屋の仕切りとなっている襖をスライドさせてシュウとユイの居る部屋へと入ってきた。
「ユイちゃんお昼ごはんね。それとシュウの分のお粥も作ってもらったから……」
両手に持った御盆の上には、ユイの昼食用の和食と、シュウ用のお粥が乗っていた。それらを零さないように、慎重に開いた襖を閉じる女性——エリサは振り返ると、
「シュウ!! 目が覚めたの!!」
今までの慎重さを脱ぎ捨てるように、御盆ごと食べ物をちゃぶ台返しの要領で放り投げる。放り投げだされた御盆を、ユイが「あああぁ!!!」と大口を開けながら飛び出す。彼女は滑り込みをして危機一髪で藻屑となり果てる食べ物たちをキャッチした。
ナイス、グッジョブと拳を掲げたくなるが、御盆の上にあったみそ汁だけが存在していないことにシュウは気づいていない。果たして、みそ汁はどこにいったのかというと、
「あ」
「あ!?」
「ん、なんだ……あちゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
シュウの頭の上にホールインワンするのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「確かに、私が悪いけどゲンコツは酷いよぉシュウ……」
頭の頂点にぷっくりと大きな瘤ができたエリサがウルウルと涙目で不平を言う。「ばかやろぉ!!」とシュウは全力のゲンコツをエリサにお見舞いしたのだ。
「作ってもらった食べ物を放り投げる馬鹿には、いい薬だ」
「まぁまぁ、エリサさんに悪気があったわけではないですし……」
「そぉだよ! 私は悪くない!!」
「おいエリサ……そういうとこだぞぉーえ?」
ユイからフォローをもらったエリサが調子に乗り、それをシュウが彼女の両肩を掴み、額に青筋を浮かべて窘める。シュウの反応に血相を青くしたエリサは、逃げるようにユイの背後に隠れ、肩からシュウの様子を疑う。
「あはは……」
「はぁ……まぁ、心配かけたのは悪かった。お前が取り乱したのも、俺が原因ってのは理解できてる。すまない……」
「う、うん……」
少し気まずい雰囲気の中、シュウは深呼吸をして手を叩く。
「取り敢えず、今後の方針を決めるか……」
「——ですね」
現在、纏めるべきことは、二勢力の内の一勢力が居る港町に向かう時の同行者。これについてはシュウとユイだけでよいだろう。エリサやユウジ達は魔術について管見であるために、同行の必要はないだろう。
「夷町に行くのは、俺とユイだけで行こう」
次は向かった後、彼らを仲間にするための交渉だ。魔術師であるユイでさえ、氏素性を知らない謎の集団。故に、交渉として一番必要なものは互いに利益があり、妥当性を持ったカードだ。全肯定の善人などという望み薄なものに期待を抱き、稚拙な交渉をして一蹴されてしまったとなれば最悪だ。
となれば、こちらから差し出せる物を見繕わなければならない。妥当な『人手』はどうであろうか——いや、人手を集めるなら自分たち以外でもいいはずだ。さらに言うと、魔術師の集団に非戦闘員のユイとシュウが加わる価値はほぼない。もっと唯一性をもった要素が必要不可欠だ。
「魔術師を仲間にするための交渉で差し出せる対価なら、何がある……?」
自身の尺度では推し量れないと悟ったシュウは、ユイに助け舟を出した。
「うーん……100%ではありませんが、交渉相手が魔術師なら、私が真正の魔術師という理由だけで、向こうに充分なメリットになります。何せ、手の内に置いておくだけで、一つの厄災が減りますからね」
「人間爆弾による危険が一つなくなるってことか」
「はい……それに、一勢力がこの小さな島国に訪れる理由としても、真正の魔術師を探し求めての事だと思います……お兄さんも魔術師予備軍なので、戦力の確保になりますし、対価としては充分かと……」
シュウの問いにユイは淡々と答えていく。毅然と答えを紡ぎだす彼女の聡明さには感謝と感嘆が絶えない。
そんな二人のやり取りについて行けず、除け者状態のエリサは荒唐無稽な話題に終始疑問符を浮かべていた。そもそも、彼女は魔術という存在を信じる信じないどころか、知りもしないのだ。
そして、到頭我慢の限界突破を果たしたエリサは、
「ちょっといい……? 魔術ってなんぞ?」
「「え?」」




