7,妹はラスボス アンド …?
ルヴィア・ソラス 天才的なマッド魔導師。監査委員会が要注意危険人物としてマークしていた、災害予備軍魔導師の一人。
◆ ◆ ◆
「挙手! はい、先生」
「なにかな、お姉さん」
「無敵なラスボスっぽいヒトにそっくりらしき三奈ちゃんが、『ほにゃららんぎゅす』を瞬間騙して、それからどうするんですか」
「えええ〜!? 私、ラスボスー!? ラスボスなのー!?」
「よかったね」
「よくないよー! やだー!」
「なんでよ。かっこいいじゃん。ラスボス! よくきたな、勇者よ……、とかできるじゃん。楽しそう」
「やだよー! 楽しくないよ! だって、倒されちゃうんだよ!」
「悪役、影のあるアンチヒーロー、ダークな感じで格好いいじゃんかー。闇を背負って、みたいな?」
「やだあー! そんなの背負いたくないもんー! じゃあ、おねーちゃんやってよー! 私は主人公とか仲間の誰かに似てるのがい〜い〜!」
「はいそこ、騒がない! 静かにしなさい! これから先生が説明するから!」
「はーい」
「うー……はあーい……」
「まったく……。作戦の第一段階を説明する。まずは『ほにゃららんぎゅす』に接触し、三奈ちゃんをルヴィア・ソラスと誤認させ、一時的に所有者にする」
「ふお?」
「ふむ。……それって、所有者と偽って乗っ取る、ってこと?」
「そうだ。そして、第二段階として、三奈ちゃんが、全ての所有者のアクセス権の消去と放棄、そして端末の自壊を命じる。それによって、『ほにゃららんぎゅす』は無力化、上手くいけば破壊できるはずだ」
「なるほど。一時的に乗っ取ってクラッキングする、っていうことか」
「その通りだよ、お姉さん。自壊プログラムが組み込まれている事は、過去のソラスの報告書で確認済みだ。所有者が命じれば、端末である『ほにゃららんぎゅす』はシャットダウンして自壊する。術式が効くようになったなら、あとはどうとでもなる」
「なるほど……確かに、それなら無敵なラスボスクラスの相手でもどうにかなりそう……だけど……オジさん。どうやって接触するの? 近づける気がしないんだけど」
「それについては大丈夫だ。ソラスに接触しなくとも、『ほにゃららんぎゅす』には接触できる。なぜなら、機関の本部に根を下ろして、どんどん広げて、独自のネットワークを構築し続けてるからな!!」
「え? それって、どういう──もしかして、私たちの世界で例えるなら、光回線のケーブルをどんどん繋げまくってる、みたいな?」
「的確な例え話をありがとう、お姉さん。まさにそれだよ。中を通ってるのは光じゃなくてエーテルと魔素だけどね」
「うわあ。マジか。いつでもどこでも無料の高速通信、フリーWi-Fi状態……って、ちょっとうらやましい。いいなあ……無料で高速通信……もしかして5G以上とかあったりして……ラグとかロード時間とかもなくなるだろうし……いいなあ……」
「ちょっと、お姉さん!? うらやましがってる場合じゃないよ!? マジでやばいんだから!! 世界は『ほにゃららんぎゅす』に取り込まれようとしてるんだよ!?」
「あ、そうなの?」
「そうだよ!! そうなったら、世界の全てはソラスのものになる。奴が世界の頂点に君臨して、全ては奴の思うがままになる。そうなったらもう……誰にも奴は止められない」
「うわあお、なんだかもういきなりクライマックス感あるな」
「むぐむぐ……くらいまっくす! クライマックス? ……なら、お話、おわるの?」
「終ったらダメでしょ、三奈ちゃん!? 終らせないで!? それから呑気にお菓子食べてる場合じゃないよ!?」
「だって、二人で難しそうなお話してるんだもん」
「難しくはないでしょ! ない……よね?」
「……ジークリートさん。さっき、私が言ったでしょう? 簡潔に、スリーセンテンスでお願いって。それぞれの学生のスペックに合わせて、彼らが理解し易いように教え方を調整するのは、教育者としての基本よ」
「すまん、確かにそう……だけどそうじゃねえ! 俺は教育者じゃねえし!」
「そうなの?」
「そうだよ!」
「そうなんだー?」
「はあ……俺も悪ふざけに付き合ってる場合じゃなかったわ……。そういうわけで、だ。三奈ちゃんと、三奈ちゃんのお姉さん。世界を救う為に、どうか手を貸して欲しい。頼む」
「うー、私は、お手伝いしてもいいかなあって思ってるけど……どうしよう、おねーちゃん?」
「……(腕を組んで指でこめかみを叩く仕草)」
「ソラスが俺たちの世界を手に入れたら、次はきっと他世界へ手を伸ばすだろう。これは、ゆくゆくはお嬢さん方の世界を救うことにもなるはずだ」
「……なるほど。でも、はっきり言って、危険な仕事よね?」
「三奈ちゃんは、俺たちの命に代えても全力で守る」
「帰りの手段は確保できてるの?」
「大丈夫だ。その分のリソースは、ここの世界で確保させてもらった。移界術式は俺とリガー師匠が展開維持し、責任を持って元の世界へ帰す。約束する」
「誓う?」
「誓う」
「もし、断ったら?」
「それは……もう仕方がない。諦めて俺だけ帰還し、他の手段を探すことになるだろう」
「暗示をかけて、無理矢理連れていこうとは思わないんだ?」
「……は。お嬢さん方のご両親にかけちまったのは、悪かったよ。でもさすがにそこまではしねえよ。俺も、そこまで外道には堕ちたくないんでね。戦えねえ、ごく普通の少女一人を犠牲にすることによって、もしかしたら世界は救われるかもしれない。大事の前の些事、一人の命と大多数の命を天秤にかけて重きを選ぶ、それが世界救済の為の必要悪だといわれれば、そうなんだろうけどな。俺は、それがどうしても、良しとは思えない。それで世界がどうにかなっちまっても、俺を人選したのが悪い。俺はやめとけって最初に言った。なのに、俺の性質を考慮せずに交渉役に選んだのはあいつらだ。だから、知るかってんだ。そん時はそん時で、潔く、すっぱり、諦めてもらうしかねえさ」
「そうか……。ねえ、ジークリートさん。甘いって言われない?」
「……あー。よく言われる」
「ふふっ。だろうね。──三奈ちゃん。これは、私じゃなくて三奈ちゃんがお願いされたことなんだから、私は決められないよ。三奈ちゃんが決めなさい」
「ええ〜っ、でも……」
「もちろん、お手伝いはするよ。おねーちゃんだからね」
「うん……うん! ありがと、おねーちゃん! じゃあ、オジさん! おねーちゃんも一緒なら、お手伝いするよ〜!」
「おお……そうか……そうか……ありがとう……」
「あれ? オジさん。目、擦ってるけど、痛いの? 目薬、いる?」
「あら。泣いてる?」
「ちげえよ! 痛くもねえし、泣いてもねえよ! でも、ありがとさん。恩にきる。三奈ちゃん、お姉さん……あーと、お姉さんの名前、そういえば聞いてなかったな」
「綾子。あや、でも、あやちゃん、でも好きに呼んでいいよ。ただし、あ〜や、って呼んだら殴るから」
「何でだ」
「私には似合わないから。甘ったるすぎて。悪いけど受け付けない。無理。絶対無理。鳥肌案件」
「よくわからん」
「ねー。おねーちゃん、時々、よくわかんないこというんだよねー」
「あのねえ。あんたに言われたくないわ!」