5,悪い魔導師+無敵な武器=世界の危機
『ほにゃららんぎゅす』 : とてもやばいものの仮の名。
◆ ◆ ◆
「綺麗にしました」
「ふおー! カーペットの染み、きえたー! すごーい!」
「……うむ。これなら、まあ、いいわ。許す」
「ははあ、ありがたき幸せ。では、お嬢様方、話の続きに戻ってもよろしいでしょうか」
「いいわ。それも許す」
「ハイ。……ああ、俺なにやってんだろ……なんかもう、かなり疲れてきた……」
「オジさん、疲れたの? お菓子食べる? 美味しいよ。お茶もあるよ。オレンジジュース、飲む? ちょっとだけ分けてあげる。コップかしてー。お茶とちょっと混ざっちゃうけど、ちょっとだけだし。大丈夫ー」
「ううう……ありがとう、三奈ちゃん……君は良い子だねえ……優しさが目に染みるよ……」
「目が痛いの? 目薬さす?」
「三奈ちゃん、そういう意味じゃないから。ほら、こっちきて、ここに座っときなさい」
「はーい」
「うーん……まだダメかあ。まだまだ警戒心といてくれない感じだなあ……」
「何言ってんの。当たり前でしょう。ていうか、うちの妹に何させようって言うの」
「何って……そりゃ、世界を救う為に手を貸して欲しいな、って」
「それは聞いた。でも、どうやって。何をどうさせるつもりなわけ? 見て分かるだろうけど、この子、戦ったりはできないから。武器をくれても意味ないわ」
「それは分かってるって。武器は、まあ……護身用ってやつだよ」
「護身用、ってことは危ない仕事、ってことだよね?」
「あー、まあ、危なくないって言ったら嘘になる。でも、こっちは全力でサポートするし、守るから。お願いしたい」
「この子よりも、世界を救えそうな適性のある人はいっぱいいると思うけど。探してないの?」
「探したよ。その末に、君の妹が成功率高し、99パーセント適合、で検索ヒットしたんだよ……」
「あっ、そういう名前のドラマ、あったよね、おねーちゃん。1パーセントでお話が逆転するの!」
「あー、あのドラマは、なかなか面白かった。でも1パーセントじゃなくて、0.01パーセントで逆転するやつだったよ」
「ちょっと!? 1パーセントでもなんでも、逆転されたら困るんだけど! やめてえ! 頼むから不吉な事を言わないで、三奈ちゃん!」
「はあーい」
「で? 妹から聞いたんだけど、魔導師を倒してほしい、って言われたそうだけど。どういうことよ」
「あああ……端折られてる…めちゃくちゃ端折られてるよ……三奈ちゃん……お兄さん、もっと、いろいろ、お話したよね……?」
「うー、いっぱいお話してくれたけど、してくれても、そんなにたくさん一度に憶えきれないよー」
「さいですか……」
「……三奈ちゃんに話するときは、いっぺんに三つ以上言ったらダメだよ。……悪いけど、もう一回、最初から話してもらえる?」
「ハイ……はあ……お姉さんが成功率高し、99パーセント適合なら、話が早かっただろうになあ……」
「悪いけど、私、来年受験で忙しいから。話きいてもお断りしていたと思うわ」
「うわあー予想通りのスーパードライな返答ですね! お姉さん、困ってる人をちょっとは助けてあげようとは思わないの!?」
「人による」
「ぐああっ! 俺か! 俺がダメなのか!? ほらあ、やっぱ人選ミスだったじゃねえか!! リガー師匠が直接来た方がよかったんじゃない!? ああでも転移術式の展開維持は師匠がしたほうがいいか……ああもう」
「そんなに人手が足りないの?」
「ああ、足りない。全然足りてない。この際ぶっちゃけて言うとだな、機関で動ける魔導師はもう半分くらい、いや、それ以下かもしれない」
「え? なにそれ。けっこうヤバい状況?」
「ヤバいもなにも、危機的状況だよ。機関は今、組織として正常に機能をしていない。いまだ大混乱中だ。奴を止めないといけないのに、ヤバい代物を持ってるから、取り押さえるどころか、会って話をして交渉する事すら難しい」
「えー。そんなに、強いの?」
「強いというか……持ってるものがヤバすぎるんだよ」
「ほえー。それって、無敵の武器なのー?」
「ある意味においては、そうだな。おそらく……俺達の世界で、奴に敵う者はいないだろう」
「ええ……じゃあどうするの、って──……ああ。そこで、他の世界の人に、ってことか」
「御明答。いやあ、お姉さん、ご聡明なことで。マジでうちで働くの、検討してもらいたいわあ」
「だめえー!」
「はいはい。行かないから。でも他力本願って好きじゃないわ。人に頼むしかない理由、あるの?」
「ある。俺たちだって、俺たちだけで解決したかったさ。でも、無理だ。奴が持ってる──b:; gn_s……が全てを無効にする」
「あっ。またでた。ほにゃららんぎゅす」
「ほにゃららんぎゅす、って、なんなの?」
「くっ……思わず気が抜けてきちゃうような名称、つけないでくれる……?」
「だって聞き取れないんだもの」
「ですよね!……はあ……もういいわ、それで。仮にそう呼ぶとして。それはどういうもんかというと、そうだな……お嬢さん方にも分かるように、この世界のもんで例えていうと……ありとあらゆるデータを世界の始まりから集積しているものすごいどでかいサーバーにアクセスできる端末、かな」
「え……世界の始まり、から?」
「ふおお……よくわかんないけど、なんだかすごいー」
「端末って……この、スマホみたいな?」
「まあ、概念としては、それに近いかもな。奴は研究の末、第一のパスロックを外すことに成功した。そして、第二のパスロックも。それによって、俺らの世界の全てのデータを閲覧できるようになったんだ」
「なんだか、ハッカーみたい」
「そうだな。最悪な事に、奴はものすごく有能だった。知的好奇心も強すぎるくらい強く、そのロック解除に没頭していた。そして……とうとう、第三のパスロックを解除することに成功した」
「すごーい!」
「すごすぎて、逆に恐ええわ。それにより、情報を解析し、干渉することができるようになっちまった」
「あ、それ、ヤバくない? ハッキングみたいなことできちゃわない?」
「ああ。お姉さんの言う通りだ。そういうことが、できるようになっちまったんだよ。やべえだろ? おかげでどんな武器も攻撃術式も奴の前では全て無効だ。人の半永久的な心臓機能だって、個体の情報に干渉すれば、簡単に止められる」
「なにそれ。神様みたい……」
「はっ。神様、か。いや、まだ、奴はその域には達していない。まだ、創造することはできないみたいだからな。だが、それも時間の問題かも知れないが……」
「ねえ、それってさ、急がないとまずいんじゃないの?」
「そうだよ! まずいんだよ! だから頼む、手を貸してくれ!」
「手を貸してくれって言われても……そんな無敵ボスみたいな奴、どうやって倒そうとしてるの? ……どう考えても、この子──うちの妹に倒せるとは、全く、これっぽっちも、万に一にも、思えないんだけど」
「ううー。おねーちゃん、ひどい! そんなことないもん! もしかしたら、えいえいって、こうやって、よくわかんない隠された力がわーっと出てきて、よくわかんないけどばーんって強くなって、倒せるかもしれないじゃん!」
「右手に紋章が現れたり?」
「あっ、そうそう、それそれー! ねえねえ、オジさん、そういうのでる? でるの?」
「でないよ! ワクワクして手の甲眺めてても出ないから!」
「ええー……むうー」
「えー、じゃないよ、もう……。お兄さんの話は最後まで聞こうね。いや、三奈ちゃんは聞いてたはずなんだけどね……」