4,ほにゃららんぎゅす、というヤバい代物について
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「でゆむうびきゅくよーにゃららほにゃららんぎゅす、ってなにー?」
「『DM;Bx43−b:; gn_s』。……あー。そうか。神世秘匿文字だから、世界言語自動翻訳術、非対応だったわ。お嬢さん方には聞き取れないのか」
「世界言語自動翻訳術? それ、どういうものなの? もしかして……私たちに何かしてんの?」
「睨まないで〜! バット持ち上げないで〜! してない、してないから。今は、俺やお嬢さん方が発した言葉の音素を自動で変換して相手に届けてるだけだ。まあ、あっちに行った暁には、文字読めないと困るから正式な術をかけさせてもらうけど」
「正式? ということは、今使ってるのは簡易版の翻訳術ってこと? 必要最低限の機能だけ入ってる、みたいな」
「そーそー。いやあ、お姉さん、ちょっと説明すると解ってくれるから、マジで助かるわあ」
「ふすん。おねーちゃん、頭いいからね!」
「なんであんたが威張ってんの……一夜漬けが得意なだけだよ」
「それも能力の一つだぜ。短時間での凝縮された情報の吸収と分析、処理能力。いやあ、本気でうちこない? 経理と事務処理溜まってて困ってんだよ……」
「だめえー! 絶対だめー!!」
「ちょ、いきなりしがみつかないでよ、三奈ちゃん! お茶が溢れる! ……うーむ。話の破綻は、いまのところないな……」
「……んあ? もしかして、俺、試されちゃってた? もしかしなくても頭おかしいヤツだと思われてた?」
「……普通の人は、そう思うでしょう? 話があまりにぶっ飛びすぎてて面白いからつい長々と聞いちゃってたけど。オジさんは、三奈ちゃんが言ってた魔法陣から現れたローブの人、なんだよね?」
「おう」
「そして、魔導師。魔法みたいな術を使う人ってことなのよね?」
「まあ、そうだな」
「なら今ここで、簡単な魔法を使ってみせる事も可能よね?」
「……ふ。もちろんだとも。それで信用してもらえるなら、いくらでもお見せしよう」
「わ、魔法!? やるの!? やったー! 生で本物の魔法みれるー!? わあーい! ワクワク……!」
「あんたねえ……もうちょっと警戒心とか疑うこととか覚えなさいよ……お願いだから……」
「いよっし! じゃあ、お兄さんはりきっちゃうぞー! 良い子の皆、準備は良いかなー!?」
「おー!!」
「はあ……」
「一人ノリが悪い子がいるけど、お兄さんはぜんぜん全く気にしないゼ! じゃあ、いっくぞー。まずはここに、お茶の入ったコップがあります」
「はい!」
「いいかーよく見といてくれよー。では……mrgw、rgmcx、PFKvzds……」
「ふおお、すごーい! 本物の呪文だよ、おねーちゃん! でも何言ってるのか全然分かんない!」
「分かんないねえ。うまく聞き取れないし、文字化けならぬ、音化け? してるのかもね」
「あっ! コップの下に、ちっちゃい魔法陣みたいなの、出たよー!」
「あ、ほんとだ。コップのコースターみたいなの出た。青色。下からレーザーとか出て……は無いみたいだね」
「……afbmpbe、ga]kafv!」
「ふおおお! コップの中、ぽこぽこってしてる……ちっちゃい噴水、出たー! お茶の噴水だー!」
「おおおー……って、ちょっとお!! カーペットが濡れるじゃない!」
「どうよ!」
「どうよ、じゃないよおっさん!! 何考えてんの! 床が濡れるじゃない! はい、これタオル! 責任持って拭いてよね」
「おおう……すまん……」
「それに、こんな手品レベルの魔法見せられても。やっぱりまだ、いまいち、信じられな──」
「……orepg、rwpkg、stjhargt」
「ふおおおお!? またちっちゃい魔法陣でたー! 今度はカーペットの上に浮いてるよ! あっ! 零れちゃったところ、一瞬で乾いたー!」
「ふふん、どうよ! これ、なかなかに繊細で高度な術式なんだぜ〜。力加減少しでも間違えると焦げちゃったり燃えちゃったりするからな!」
「ふおー、すごーい!」
「……成程。信じ難いけど、タネらしきものが見あたらないし、手品って訳でもなさそう……だけど……」
「お姉さん。ようやく、これで信じてくれたかな?」
「……そうね。魔法としては、かーなーり地味だったけど……まあ、本物っぽかった」
「っぽかった、じゃなくて、本物だから!!」
「もっと派手なの、ないの?」
「家、吹っ飛ばしても良いなら」
「却下」
「あっ、カーペットに染みができちゃってる。お茶のこぼれたあと」
「ちょっとお! なにしてくれちゃってんの! あんたね、責任持って綺麗にしなさいよ!? 魔法でなんとかできるんでしょ?」
「うぬぬ……茶葉成分のみの分離と除去か……俺、実のところ、繊細な術式ってめちゃくちゃ苦手なんだよな……」
「つべこべいわずに、しろ!」
「……ハイ」