1. TS大名義隆ちゃん!
目が覚めた時から、義隆は胸部と局部に酷い違和感を感じていた。いくらおっとりして年齢指定事項以外への興味が薄い義隆でも、無視できない違和感だ。
義隆は大内家の当主ということもあり、着替えなどは全て大内家に仕える者達に任せている。家臣の仕事を奪わない事もまた、義隆のような一流の大名には必要だ。そんなわけで義隆は寝巻きから着替えもせずに褥に座っていた。
見下ろした自分の体は、明らかにもっこりの位置が下半身から上半身へ移動している。しかもぷっくりと大きく丸く形を変え、分裂して左右についていた。立ち上がって揺すってみると、胸部が大きく揺られ引っ張られるとともに、局部の揺れのない不安な安定感が増大した。
胸部のもっこりを掴むと、むにむにと手の内で柔らかくしかも従順に形を変える。義隆はたっぷりと自身の胸部を揉みしだいてから、長く息を吐き出した。
自身に起こっていることが現実であるとは到底思えない。義隆はクマノミやホンソメワケベラではなく、人間である。本来この様な事が起こるはずがないと言うのは、本能で理解できていた。
しかし、現実は小説より奇なりという言葉もある。
「いやあこれ、完全にお胸さまやわこれ」
服の上からでもわかる。義隆は男から女になっていた。
ついでに股間も揉んでみたが、生来の相棒は跡形もなく消えていた。義隆はちょっと泣きそうになった。辛い時も楽しい時も、もちろん気持ちいい時も片時も離れたことのなかった相棒である。至極当然と言えるだろう。
「失礼いたします」
義隆が自分の相棒に想いを馳せていると、外から女の声がかけられた。からからと鈴の様に響く、美しい少女の声であった。
義隆は現代で言うところのホモセクシャル寄りの両刀である。詳細は電子辞典ででももって検索すれば、容易に知れるだろう。ともあれ、義隆は美少年をそれはもう大変この上なく好んでいたため、身の回りの世話も小姓達に行わせていた。
小姓というのは大名などに仕える家臣のまだ若い少年がなる役目で、主人の言いつけで様々な事をこなす秘書兼親衛隊の事である。戦国時代においては主君の側へ上がれるという事もあり、いわゆる出世街道であった。
その小姓について、この話で大事な事は何かといえば、小姓は基本的に若い男であると言う事だ。決して若い女ではない。
しかし外から聞こえるのは女の声だ。女は義隆が黙っているので、しどろもどろに言い募る。
「義隆様、信じられないかもしれませんが私です。清ノ四郎でございます。いやほんとに信じられないんですけど私のち○こが無くなってておっ○いになってるんですよほんとにガチですマジの話です。おまけに声もこれこの通り完全に女の子ですおかしくないですかこれ、おかしいですよ世界の法則が狂ってます、やった奴に慰謝料請求したいです」
なるほど声こそ少女のものだが、この物言いは義隆の小姓である清ノ四郎のものであった。
「新しい法則が生まれたんやと思うよ清ノ四郎。それより着替え頼むわ」
義隆がからりと戸を開くと、少女が正座で待機していた。すっと通った鼻筋と猫の様な大きな目の、よく顔の整って大人びた風情の少女だ。体つきはしなやかで、しかし女らしいおうとつがしっかりと伺える。その姿はちょうど、清ノ四郎に姉か妹がいればこの様な姿であったと思わせるものだ。
自分の気に入りの美少年が美少女になってしまったので、義隆は密かに落胆した。義隆はこの上なく美少年を好いているが、女は女でもちろん好きである。しかし義隆は、女はもう少しメリハリがある大人の美女が好みであった。
一方清ノ四郎はと言えば、義隆が戸を開いたので朝の支度を手伝うために立ち上がった。
「それよりではありません義隆様、必ず慰謝料を請求しなくては割に合いませ……女になってるじゃないですか!?」
「せやから新しい法則が生まれたんやと思うよて言うたやろ?」
「男が女になる法則が生まれてたまりますか!」
清ノ四郎は、主君である義隆をマジマジと見つめた。美女であった。
艶やかな黒髪を無造作に下ろして、重いのか大きな胸を腕で支えている。つり目がちの目といい、分厚い唇といい、傾国とまではいかないものの、目の覚める様な美女であった。
清ノ四郎はその美貌に思わず息を呑んだ。清ノ四郎と義隆はもちろんそういう仲であったが、清ノ四郎はお年頃の少年である。人並みに女の子へ興味があるし、やはり年上の美男より年上の美女の方が好みである。性別が変わった程度では、そう言った好みに変化はないらしかった。
「清ノ四郎?」
「あっ、申し訳ありません、すぐに」
義隆の小姓である清ノ四郎は、ぶつくさと自身の性転換展開に文句を言いながらも、義隆をテキパキと着替えさせていく。大身である大内家当主にふさわしい、仕立ての良い着物だ。
せっせと着物を着せては、ギュッと腰帯を締める。
「いやこれ胸がきっついわ。女衆に仕立て直すよう言っといてくれる?」
「承知いたしました、義隆様」
清ノ四郎が深々と頭を下げる。義隆はその頭に、徐に自分の胸を片方乗せてみた。これはまさに衝動的なもので、たまたま良い位置にあった棚に無意識に手荷物を置いたようなものだ。
清ノ四郎は義隆の行動に特に深い意味がない事は嫌と言うほど知っていた。しかし、柔らかい。後頭部をじんわりと包み込む温かい柔らかさに、清ノ四郎はぽっと頬を染めた。
その姿は野の花が色づいて綻びるように見えて、義隆は下腹部の行方不明になった相棒に血が通う幻覚に襲われた。
そうなればやる事は一つである。お誂え向きに、布団はまだ敷いたままになっていた。義隆はするりと清ノ四郎の手を取って、頬を撫でる。
「私とええ事しようね、清ノ四郎。今日はこれでたくさん遊んだるわ」
「義隆様!? まだ朝ですっ! お聴きください義隆様!!」
義隆とて体格の良い鍛え上げられた戦国大名である。まだ若い清ノ四郎をすんなりと布団に押し倒した。
「ええやない、楽しまな損やよ?」
義隆が清ノ四郎の耳元でそう囁いて、襟へと手をかけた。
暗転。
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