異酒屋
「んだ? おめぇはよ」
俺は驚いていた、そこにあったのは小汚いカフェのような風景だ。
「注文しねぇなら出てってくんな」
やはり店であるらしい。
俺は手近なイスに手を掛けるとその汚れ具合に驚きながらも腰を下ろした。
元々大して綺麗好きな方ではない、それよりひどく空腹なのに気が付いた。
「メニューは?」
爺さんは壁をアゴで指す、どうやら壁のささくれのような物体がそうらしい。
これは読めないと悟った俺は爺さんに話しかける。
「今作っているそれを頂こう」
すると爺さんは一瞬手を止め、何もなかったように再び手元を動かし始めた。
汚い店だが匂いは悪くない、空腹は最上のスパイスと言う。それにこんな経験をするのは初めてではなかった。
安心感が生まれると俺はここに至るまでの経緯を思い返していた。
俺はトレジャーハンターだ。数ヶ月の調査を経てようやくお宝があるという洞穴を探し当てた。
問題はここからだ。何世代も前に埋められた宝、それを掘り起こすにはかなりの忍耐と慎重さを要する。
だがそんな俺の思惑を無視して宝は呆気なく見つかった。
のだが……、その先が思い出せない。
「おまち」
「……これは?」
「焼き鳥だ」
気付くと横に居た爺さんに俺の意識は舞い戻る、そして目の前に置かれた料理へ釘付けになった。
知らない料理だ、細い棒に焼かれた肉とネギが刺さっている。
俺は空腹を思い出すと、迷う事なくそいつにかじり付いた。
「うっ、……まずい」
何という不味さだろう。火が通っているはずのネギは香ばしさの欠片もない、噛めば噛むほど不快感を増す粘土のようだ。
そして鶏肉と思わしきその物体は砂利のような食感と無機質な味わいを舌の上へと送り込む。
思わず咀嚼するのを躊躇った俺に襲い掛かかったのは凶悪な粘土と砂利の波状攻撃だった。
生まれて来た事への後悔、命への復讐心。
「……そうだ」
俺は思い出した、あの洞穴の中で見つけた宝。それはナルシスティックなポーズを決めた王の自画像と汚れた裸婦画の山だった。
その場で吐き気に襲われた俺を更なる不幸が襲った。地盤の揺れを感じると天井が崩れ落ち、俺はそのまま生き埋めになったのだ。
俺は死んだ──。この悪夢のような料理を口一杯に頬張らされて。
「俺は……」
その事実を思い出すと共に俺の体は地獄の底へと呼び寄せら──。
「ケッ、金ぐらい払いやがれ」
──店主は決まり事のようにそう呟いた。
ここは居酒屋「大往生」、さ迷える魂が辿り着いてしまう店。