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先生

作者: 九藤 朋

 恩師の訃報を聞いたのは、春のある夜のことだった。

 その恩師の同僚である美術専門学校の先生からの電話で、死因の詳細は告げられなかった。

 早過ぎる死だった。

 受話器を置いた私が微動だにしないので、家族が揶揄した。

 私は端的に、事実を告げた。

 少し声が震えていたかもしれない。

 家族は沈黙した。


 その夜、私は自室で、盃を二つ小テーブルに置き、日本酒を呑んだ。

 恩師と酌み交わす心持で。

 魂を送る儀式に模して。


 そんな悲哀の夜があった。


 謝りたいことがあった。

 たくさん迷惑をかけた。

 ある意味で、恩人と感じる人だった。

 温厚で、それが彼の経てきた波乱の生涯を思わせた。

 もっと長生きしてくれたなら、私であっても何か返せたかもしれない。

 けれどそう思うと同時に、そんなことを先生が望んでいないだろうとも思った。

 見返りを求めない生き方を、当たり前のようにする人だったから。


 悲哀の夜、左党の私が、酒の味を解らずに呑んでいた。

 涙が込み上げて、酒を嚥下するのに苦労した。


 辛くて苦しく、遣る瀬無かった。

 

 どうしてという疑問は、いつも唐突にやって来る。

 何度も、疑問符が浮かんでは消えた。

 この話に美しい結末などない。


 ただ悲しみだけが残る。




鎮魂。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭の短い文の羅列に、言葉で表されてなくとも、主人公の状態と心境が伝わってきました。 九藤さんは本当に言葉の裏を使うのに巧みで尊敬しています。
[良い点] 文章がとても美しいと思ってしまうのですが、そんなことを口に出すのもはばかられる悲哀に満ちた杯 「恩師」にあたる方のことは少し前に話しておられましたよね もしわたしがその方の立場で、こんなふ…
[良い点] 人の死に美しい結末などないですよね。 身内をなくしたばかりだと、胸にしみます。ただ、ただ後悔とやるせなさが押し寄せてくる。 苦しさがよくわかります(;つД`)
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