67 対立する王と悪魔
「ねぇ吹雪。本当に大丈夫なの?」
エリーゼは不安を隠せない。まあ確かに、カラスを飛ばしただけでウエディングドレスがどうにかなるとは吹雪も思ってない。あくまでもカラスは通達するだけだ。恐らく今頃迷いの森にいるであろうユキに向かっての。ただ吹雪は知らなかった。ユキがトラブルに巻き込まれていることなど。
「ええ心配無いです。全て僕におまかせください。........ふふ。」
吹雪はひとつマカロンを食べると不思議と笑った。
あーなるほどね。本当に油断のならない人だ。きっとこれは警告だろう。自分たちになにかしてみろと。でもこんな脅しみたいなことあなたらしくないですよ。エクス王子。
「それじゃそろそろ私は帰ります。私の方でも念の為ドレスを用意しないと行けませんから。」
カナは立ち上がる。吹雪は正直本音を言うなら王族を前にして少し敬意が足りない気がする。でもそれを言ったら吹雪の方が敬意などしていないと、アリスとアリサに言われるだろう。
それにしてもエリーゼが言ってた2人の好きな人って誰だろう。彼女達の弱みを握れれば不安要素を一つ消せるのだが。
「それでは失礼します。」
カナはそそくさと帰っていった。普通は王族が解散と言うか許可を貰うのが普通だと思うのだが、普通に帰っていった。
「気をつけてねー。」
笑顔で腕を振っているエリーゼ。確かにこれに敬意を抱けと言われてもな。そんなことよりなんでテレパシーの魔法が使えないんだ。テレパシーとは遠くの人と会話が出来る魔法だ。より正確に言うなら古代魔法だ。昔は闇属性魔法の頂点と言われていたらしいが今じゃ当たり前に使われている。そんなテレパシーがユキに繋がらない。テレパシーは、距離が遠ければ遠いほど雑音が入ったりするが、基本的には使えないなんてことは無い。そう基本的には。相手が拒否している場合のみテレパシーは発動しない。つまりユキは吹雪からのテレパシーを拒否して
「「すいません。急用が出来ました。」」
アリスとアリサが飛び出して行った。本当に敬意が無い。僕が言えることではないが。まぁ何かあったのだろう。本当は弱みを握ることが出来るかもしれないが理由も無く行くことなどできない。
「あっ!2人ともどうしたの?ちょっとごめんね吹雪、エクス兄様。少し追いかけてくる。」
................理由も無く行くことなどできない。それに目の前のこの人が許さないだろう。
「運命か偶然か2人きりになれましたね。」
「私からのプレゼントとどうだったかい。とある貴族から奪い取ったものなのだが。」
エクス王子は何を考えているのか分からない。元々あまり好きではなかったが今は受け付けない。生理的に無理と言うやつだ。
「シニソウの毒のことですか?ほんのり甘くだけども少しだけすっぱい特徴的な味をしていました。気に入ったか、気に入ってないかと言われれば、毒を盛られたのでそれどころではありませんね。僕でなければ一大事でしたよ。」
さてどう出ますかエクス王子?毒を盛られたことを認めるのかそれとも認めないのか。これであなたの器が分かります。それによって僕達の脚本に修正が必要になるかもしれません。
だが帰ってきた返事は想定外だった。
「吹雪君とひとまず呼ばせてもらうよ。ひとまずね。」
そんなに強調しなくていいから。
「魔法の特訓法を知ってるかな?100枚の皿を投げて、それを全て別々の魔法で打ち落とす、とゆうものなのだが。」
もちろん知っている。有名な魔法の特訓だ。吹雪は100枚のうち86枚も打ち落とすことが出来ている。これは恐らくこの特訓が生まれてから最も皿を割っている自信がある。普通の魔道士ならせいぜい30~50枚が限界だろう。だがなぜそんなことを?
「この前初めてエリーゼにもやらせてみたんだが、見事に100枚全て撃ち落としていたよ。」
その時吹雪の中で炎が揺らめいた。これは嫉妬の炎だ。いや劣等感と言った方がいいかもしれない。
「それだけでは飽き足らず一気に500枚用意したんだがな。」
「ま....さか。」
500枚だと。単純に500種類の魔法を覚えるだけでもほぼ不可能だし。魔力も普通の人間ではせいぜい魔法100発が限界だ。それに集中が切れてそんなこと出来るはず、
「そのまさかだよ。500枚全て撃ち落とすことが出来た。さらに言うなら100枚と連続なので600枚だがね。」
嘘に決まっている。それじゃあたかだ80枚で喜んでいた僕は一体なんなんだ。600枚って。
吹雪はめまいを感じた。めまいだけではない。吐き気や体の重さその他もろもろ感じた。吹雪改めてユキはこの5年間でエリーゼを超えたと思っていた。何故ならばこの5年間寝る間を惜しんでひたすら強くなることを求めたのだ。呑気に城で寝ている者に負けるだなんて本気で思わなかった。だが結局ユキは負けた。その事実を受け止めることが出来ない。
「そうショックをうけるな。たかが訓練じゃないか。それにしてもこの私も鼻が高いよ。まさか実の妹が、」
その先はよく聞こえなかった。
「さて毒を盛ったことだったか?それは謝罪しよう。だがシニソウは名前の通り酷い嘔吐や下痢で死にかけるだけで死ぬ訳では無い。別に問題ないだろう。君がしたことやこれからすることに比べれば。さて私は仕事に戻らせてもらうよ。」
エクスは席を立つ。
「待て。」
「どうしたのかな?」
「今度はこっちのターンだ。今日の夜時間を空けとけ。」
「少々第一王子に対して口が悪い気がするがまぁ良いだろう。楽しみにしているよ。」
エクスは去っていく。その背中はユキに、神を錯覚させた。だがそれが逆に吹雪には
「はぁ、はぁ、はぁ、性格悪すぎだろ。ふふふ。良いだろう。やってやるよ。まずはあんたからやってやるよエクス王子。その次は、」
エクスは自室に戻ると倒れ込んだ。
「なんて悪魔だ。このままではこの国が危ない。例え全てを失ってでも国を守ると決めただろう。ならやるしかないんだ。」
お互いに覚悟を決めた。お互いを殺し合う覚悟を。そして自身の目的を果たすために。




