64 幼い記憶 2
ユキが隠し部屋に入ってから約1時間がたった頃ユキは部屋から出てきた。
「........なるほどね。うーんどうしよう?」
今僕が見たものはこの世にあっては行けないものだ。これが世間に公表されればこの国は終わりだろう。少なくとも今の王家は滅びるだろう。だからといってこのままにするわけにもいかない。このままでは被害者が増えるだけだ。でも、だとしても僕は。
「これは誰にも言えないな。」
僕は言わないことを選んだ。父さんや母さんに言えば何とかなったかもしれないが僕は言わなかった。つまり僕は見殺しにしたんだ。まあ父さんにはすぐバレたんだけどね。
ユキは何とか知っている場所に戻ってきた。これで帰りは安心だがユキはそれどころではなかった。
「はぁ〜。なんか疲れたな。」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃな....い。」
ユキは固まった。いつの間にか自分より少し幼い少女が後ろに立っていた。普通人が近寄れば気配がするはずだ。だが気配が一切なかった。戦闘の達人なら気配を消すことが出来るかもしれないが目の前にいるのはただの少女だろう。それに
なんなんだこいつ。体が逃げろと言っている。彼女には近づくなと魂が叫んでいる。本能がヤバいと感じている。
「ねぇ本当に大丈夫?なんか息が、」
ユキは距離をとった。彼女の声を聞くだけで意識が飛びそうだ。ここまで来ればユキでなくともわかる。この少女はヤバい。
「ちょっと逃げることないでしょ。せっかく心配してあげたのに。」
少女が近づいてくる。ユキは逃げようとした。父がいる所に向かって。だが足が動かなかった。蛇に睨まれた蛙とはこのことだろうか。もっとも相手は蛇よりも恐ろしいが。
なんで動かないんだ僕の足。このままじゃ死ぬ。あの少女の姿をしたなにかに殺される。!そうだ。もうこれしかない。
「待て。」
そこから先の記憶は僕にはない。分かっていることは少女の名はエリーゼ、この国の王女らしい。そしてエリーゼのあの恐ろしさは消えていた。否あの恐ろしさは消えてはいなかった。それが僕には分かった。
あと同日に王城に賊が入ったらしいが正直嘘だと思う。何故ならばこんな城に入ろうとは思わないだろう。この城は魔王の城だからだ。だから賊は嘘だと思う。きっと何かを隠したかったんだろう。だがその何かは分からない。そしてあの時僕は何をしようとしたんだろう。兎も角こんな近くにこんな化け物がいることを僕は知った。そして絶望した。王女と親しくしていることで他の貴族の子供からはいじめられたが、そんなことは気にすることなどできないほど絶望した。
「この化け物め。」
なんでこんなこと今更思い出しているだろう。ユキ改めて吹雪は意識を戦いに戻した。
「そんなこと分かってる。姫様がとてつもないことぐらい。」
「それでもあなたよりはまし。姫様はちゃんと人として扱ってくれる。」
アリスとアリサは力を貯めている。こんな思い出を浸っている間にほぼチャージ完了したらしい。だが問題ない。完璧に完璧するまで他のことを考えよう。正直ユキとエリーゼには記憶の食い違いがあると思う。さらに言うなら国の記録とも食い違いがある。例えばあのハーレムの話だが正直記憶にない。だが何故かあのハーレムがあった気がする。僕が狂っているのか、世界狂っているのか分からない。おっとそろそろチャージ完了みたいだ。
「人を人と見ない悪魔に裁きの光を、」
「そして世界に救済を、」
「「エンジェル」」
神聖魔法。それは通称の魔法とは違う属性が無い魔法。また魔力を使うものと使わないものがある。理論上全ての人が使える魔法だがあくまでも理論上であり実際は使える者は数少ない。さらに実戦に使える者はさらに少ない。と言うのも神聖魔法は祈りの力がそのまま魔法になると言われており、祈る対象はあのゴミ改めて神だ。戦いのさなか神に祈る暇があれば吹雪ならさっさと倒すだろう。そもそも吹雪には信仰心などない。よって使えない。
さて状況を整理するか。目の前には巨大な光の玉。確かエンジェルは人間にはほとんどダメージは入らないはずだが........まぁこの体じゃ致命傷だろうな。仕方ない不本意ながら六魔将の力を、表六魔将の力を借りるか。
「今こそ契約に基づき我に力を貸せカレン。」
この技には詠唱が必要だ。詠唱中は吹雪は無防備だ。もしアリスとアリサがエンジェルを止めて直接攻撃に切り替えてきたらその時は潔く負けを認めるしかない。
「全て喰らい尽くす者よ!全て滅ぼす者よ!我が前に立ち塞がる討て。」
本来はもっと長ったらしい詠唱なのだが今回は省略だ。きっとこれが決まれば彼女達に待ち受けるのは死だろう。仮に生き延びたとしても、そちらの方が辛いだろう。そしてエリーゼの騎士にはなれない。でもそれを天秤にかけても彼女達は始末するべきだ。そして吹雪の口から最後の詠唱が唱えられる。
「デスソール。」
上空から絶対的な死が訪れる。
「さよなら。」




