62 戦いは続く
体が重い。体がだるい。体が痛い。体が動かない。お腹空いた。目眩がする。気持ち悪い。誰かに蹴られてる。誰かに殴られてる。誰かに刺されてる。何も見えない。何も聞こえない。何も知らない。なんでこんなにも世界は不平等なんだろうか。仲間でも、家族でも簡単に裏切る。信じられるのは、私たちだけ。そんな私たちを救ってくれた姫様。私たちに光をくれた恩人にあんな悪魔を近づかせる訳には行かない。あいつは敵だ。
ピキっ
「なんだ?」
吹雪は違和感を感じた。そして即座に逃げろと体が反応している。だがいったい何から逃げればいいのか分からない。今来たエクス王子でも傍観しているエリーゼでもない。この2人以外にエルランド王国で危険視する必要がある者なんて吹雪は知らない。
ピキっ
まただ。何が起きているだ。なんで僕が怯えているんだ。まさか!
吹雪は未だに空中に浮いている封印地を見た。そこにはおかしなヒビが入っていた。あの二人は封印術を力技で突破しようとしていた。本来は封印術を破壊することは出来ない。だが圧倒的な暴力があれば世の中壊せないものなんてないのだ。ましてや今は2人だ。本来封印のオーロラは個人用だ。もしかするともしかするかもしれない。
ピキっピキピキ、バッリン。
ガラスが割れるような音が響いた時にはもう既にアリサとアリスは吹雪のことを斬っていた。
「やっぱりあんたみたいな悪魔には姫様を渡さない。なんなのあの中は。嫌なことを思い出させるなんて。」
「クズ。ただそれだけ言っときます。」
封印のオーロラは本人のいちばん嫌な記憶を思い出させるおまけがある。常人ならそれで心が折れるが、今回の場合は逆に火をつけてしまったようだ。
って何僕は呑気に解説してるんだ。こっちはたたっ今肩を斬られて満足に腕を使えないのに。だとゆうのになんでこんなにもワクワクしているんだろう。1人ならともかく2人同時ならいよいよ不味いかもしれないのに。
現在吹雪は両肩を斬られており、しばらくは腕を使えない。さらに言うならパワー負けているだろう。体力ももしかしたら負けているかもしれない。吹雪改めてユキの肉体はお世辞でも頑丈ではなく、せいぜいが中の下が良いとこだ。つまりパワープレイは挑めまない。つまりスピードと魔法でたたかうしかない。吹雪はエクスとエリーゼを横目で見る。あくまでも自分たちは傍観するつもりなのだろう。止める気配はない。
「悪魔は兎も角、クズは酷いな。これでも僕だって傷つくんですよ。心身共にね。」
吹雪は風属性と闇属性両方の魔力を高める。
「クズなのは事実。人が嫌がることをするのが楽しい人じゃなきゃあんな魔法使わない。」
「そもそも気に入らないわ。その人を常に見下している貴族の目。きっと今まで人生で失敗や苦労なんてしたことがない自分が天才だと思っているプライドの塊。平気な顔で人を傷つけて、騙して、利用するその心。あなたの全てが気に入らない。」
吹雪は魔力を更に高める。
「よくわかってるじゃないか。僕のこと。でも少しだけ訂正してくれ常に人を見下しているのは、実際に僕より格下の連中だけだ。既に君たち姉妹のことは見下していない。そして苦労や失敗をしたことないだっけ?まぁなんだかんだ言って僕は人に恵まれていたからね。確かに苦労は他の人よりもしてないかもしれない。失敗もあまりしないね。なんせ僕は失敗すると分かっていることに関わろうとはしないからね。そして心ね。.......もしかしてさっきの見てた?」
「「・・・・・・」」
ここでの沈黙は意味は無い。むしろはい見てました。と言っているようなものだ。吹雪はまだ魔力を高める。
「別に見られて困るものでは無いけど少し行儀悪いよね。どうせ君たちが僕らの秘密を知ったとしても何も出来ないし。」
「もう一度言うわ。あなたはクズ。人をコマとしか見ていない、いや自分自身ですらコマとしか見ていないただのサイコパスよ。」
貴族も人をコマとして見るが、それは自分以外の存在をだ。自分をコマとしか見ていないのは、頭が狂っているとしか思えない。人は死ぬのが怖くないと言っている人もいざ死を迎えると恐ろしく感じるものだ。だがきっとこの悪魔は普段は死ぬのが怖いと言っておきながら、いざとなれば、簡単に自分の命を捨てるだろう。全ては自分の計画のために。その計画の正体は分からないが。
「サイコパスと言われたのは初めてだな。でも結局人なんてみんなコマじゃないか。それが人に操られているか、国や集団に操られているか、それとも世界に操られているかの違いじゃないか。結局僕も誰かのコマに過ぎない。だったら自分自身も僕のことをコマして見よう。そう考えるのは不思議なことなのか?」
吹雪には分からない。よく英雄談では勇者は人々はみな精一杯自分の意識で生きている。だからコマじゃないなんて言うがその勇者でさえ国や世界に行動を決められている。本当に勇者は自分の意思で世界を救っているのか、それとも世界に決められているのか。おそらくだが、勇者もコマに過ぎない。なら勇者ですらない吹雪もコマになるしかないのだ。それが正体不明の世界によるものだとしても。
「その考えがおかしいのよ。あなたは本当に姫様の騎士になりたいの?ただ単にコマが欲しいだけじゃないの?」
「エリーゼをコマにするなんて不可能だってことをあなた達は既に気づいているでしょ。彼女は世界の理から外れた存在だと。」
エンゼルのことを見る。無表情なのがまた怖い。正直吹雪はエリーゼのことが嫌いだ。それは初対面の時だ。あの頃から既にユキは人生に絶望していた。自分の望みは全て叶い、自分の嫌なことを全て消える。強いて言うなら両親に金やおもちゃではなく愛情を注いで欲しかったがそれでも仕方ないと思っていた。そんな時だエリーゼに出会ったのは。




