60 ただの喧嘩・・・じゃない!
「それでは今日も話し合いを、」
ホロビが今日もマサトと話し合いをするようだ。しかし今日は少し違った。お互いに異変に気づいていたが、どっちが言い出すのか迷っていたのだ。だがマサトがこれ以上は流石に不味いと思ったのだろう。
「なぁおかしくないか。いったい何回今日をやれば良いんだ?俺の記憶ではもう既にユキが出発してから1ヶ月ぐらい経っているんだが現実時間だとまだ今日とゆう1日は終わってないらしい。更に言うなら、玄関のドアを初め全ての脱出口が塞がれているんだがこれはどうゆうことなんだ?」
ホロビは一口お茶を飲んでから一言、
「さぁ分かりません。気長に救助を待ちましょう。きっとユキ様がどうにかすると思いますし。それに家から出れなくて同じ日が来るだけじゃないですか。マサト様程になればもっと不思議な体験をしているんじゃないですか。」
「いやそうだが、........セシルは気づいていないみたいだが、いずれ食料が無くなり買い出しに行けないとなるとあの子も気づくだろう。余計な不安をかけたくない。どうにか出来ないか?」
ドアはマサトが全力で壊そうとしても壊れない。特別な硬いドアを使っているが普段なら全力の十分の一程度で完全崩壊するのに。つまり力技では出れないのだ。マサト程度の力では。そこでマサトにもそこが見えないこのメイドならと思ったのだ。彼女の正体を聞けばこの化け物プリのおかしさも理解出来る。恐らく本気で戦っても勝てないであろうこの化け物に今は頼るしかないのだ。
「変な期待をされていますが私にはこの状況を変えるのは不可能です。これは言ってみればタクトとか言う変人が考えた事なので、少なくとも今の私では不可能です。それより........」
こりゃ驚いた。ここまで化け物なのにまだ本来の力を出せていないみたいだ。そんなことよりタクトって誰だ?
「あのマサト様。私は今からとても失礼なことを言います。それを覚悟してください。」
「........ああ。わかった。」
ホロビはとても言いにくそうに口を開いた。
「マサト様......セシル様を捨てて下さい。」
ホロビに拳が飛んできた。音速の速さで尚且つ当たれば城壁が消し飛ぶ威力だ。しかしホロビはそれを片手で受け止めている。
「落ち着いてください。話を最後まで、」
「子供を捨てろと言われて落ち着く親が何処にいる。あの子は、あの子には俺たちしか居ないんだぞ。俺たちが見捨てたら一体誰がセシルを愛すんだ。」
正直に言うとホロビにはマサトの気持ちが分からない。似た境遇だったセシルの気持ちなら分かるが、ホロビは親になったことがないので分からない。だがそれでもマサトが苦しんでいることはわかった。
「私の全てはユキ様の為なので悪魔でもこれは一つの選択肢に過ぎません。それを踏まえて聞いていてください。マサト様あなたはこのままでは死にます。確実に死にます。来年を迎えることは出来ないかもしれません。つまりあと二ヶ月程ですね。それまでにセシル様を捨てて下さい。」
「何故だ。何故誰も喜ばないことをしなければならない。」
こんなことを言いながら分かっている。そもそも常に言われ続けていたことだ。だけど、
「呪いとは本来の効力とは別に別の効力を発揮します。セシル様の呪いはただ早死するだけです。別に一生魔法が使えなかったり、一生幻覚が見えたりする訳ではありません。比較的弱い呪いです。ですがそれは呪いがかかっている人が対象です。ですが呪いには周りの人を巻き込むものがあります。いちばん多いのは、」
そこまで言ってホロビは黙り込む。あとはマサト自身が言って危険を再認識されるためだ。それがわかったのかマサトはゆっくり口を開いた。
「家族や友人の死を呼び寄せる。」
人にとって一番辛いのは自分が死ぬ事ではなく、周りの人が死に一人ぼっちになることだ。マサトはそれをとても知っている。ある意味セシルの呪いの本体はこっちにある。本人ではなく、周りに害をもたらす呪い。そのせいでセシルの呪いを知った者はセシルに近づかない。マツブキやドンママは気にしてないが、今まで呪いのことを知ってセシルから離れた者は数知れない。周りに死を運ぶなら尚更だ。最悪国にバレたら処刑されるかもしれない。いやされるだろう。そんな最悪な呪いだ。
「そうです。そして今までは何とか回避出来てましたが、それはもう限界では無いですか。きっと自分自身が1番わかっていると思います。死が迫っていることを。」
「だからといって子供を捨てる親はいない。」
マサトはようやく殴りかかっていた手を引っ込めた。
「そうでしょうか?私の記憶では八割以上の人は自分が危険になると子供を捨ててましたが、まぁあなたは違ったようですね。安心しました。ですがそれでも捨てて下さい。別に会うなとは言ってません。何処か人里離れた山の中で暮らしてもらって、私たちが解呪の手段を探すとゆう手段もあります。」
「........なぁホロビ。はっきり言ったらどうだ。俺が死んだらユキがおかしくなる。自分で言うのもなんだが俺はあいつの支えだからな。あいつの生きる目的は俺に恩を返すこと。善意でも興味本位でもなく、悪魔でも恩を返すことだけが目的なんだ。呪いなんて関係ない。ユキがそんなやつなんてこともうわかってるんだ。」
「少し言葉が悪いですね。仮にもユキ様の親代わりだとゆうことがわかってないみたいですね。」
二人は睨み合う。だがお互いに本気ではない。今はまだ。少なくとも表面上だけは。
「俺も言いたくないがユキの本性と言うか本体は悪魔だ。いや悪魔なんて甘い。あいつを放置したら世界が終わる。そのぐらいユキが悪の方に傾いてることなんてわかってる。そして俺が死んだらストッパーがいなくなることもわかってる。でも
それでもセシルを捨てるなんてことできない。」
これが俺の答えだ。仮に死んだとしても最後の最後まで親であり続けたい。捨てるなんてことはしたくない。それにそれだけが本当に理由なのかどうか、
「そうですか。少し疲れてしまいました。部屋で休んでいます。」
ホロビ自分の部屋に向かう。その途中でマサトの方を振り返った。
「この前ユキ様は悪魔にも天使にもなれると言ってましたが、もう既に天使への道は閉ざされてしまった。ここまで来たらもう悪魔になるしかありません。それからもうひとつ、」
ホロビは満面の笑みを浮かべマサトに言い放った。
「ユキ様とセシル様では釣り合いません。考えたのですがやっぱり別の方を用意しましょう。」
「それは家のセシルがダメだと言いたいんだな。」
もうそこからは本気の殴り合いだった。異変が直り帰ってきたユキに冷たい目で見られたのは秘密だ。更に言うなら異変を起こしたのはセシル(無自覚)だと気がつくことは誰もなかった。




