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世界も人も狂ってる  作者: 拓斗
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58 悪魔の罠

勇者召喚。それは魔道士100人分の魔力と、500人以上の生贄を捧げ、異世界から勇者を召喚する手段。だがそれだけやっても、成功率は十分の一。10回やっても9回は失敗する計算だ。そもそも、世界に危機が訪れる時必ず勇者は、召喚しなくても現れるのだ。なので勇者召喚は必要ないはずだ。だが事実として、行われているのは確かだ。









「やぁ気分はどうだい人狼さん?」


「人狼?ゔぅ頭が......そうだ私はなんてことを。」


目の前の少女は頭を抱えている。人狼化の衝撃が大きかったのだろう。


「気分は悪そうだね。まぁ僕が言うのもなんだけど。」


「あなたはいったい!ユキさんじゃないですか。」


ようやく吹雪に気がついたようだ。目を輝かせて吹雪を見つめている。


「お願いです。また私をお助け下さい。このような失態をしてしまったら、勇者として恥です。それを弁解する力を与えてください。」


今でも思い出す。勇者として召喚されたのに、無力だった自分を。そしてその自分に力を与えてくれたユキさんの事を。ユキさんはとても優しい人だ。正体は分からないが、自分に勇者の力を与えてくれたのだから。もしかして神様かなにかなのではないだろうか。


「........すまないが君を助けることは出来ない。既に君の役目は終わったんだ偽物の勇者さん。」


「え?」


何を言っているんだ。偽物の勇者?もしかして自分のことか。いや力を与えてくれて、食べ物や住む所まで与えてくれたユキさんがそんな言うはずない。


「1つお話をしよう。ここエルランド王国では、近いうちに戦争が起きる。エルランド王国は勝つために勇者を召喚して操り兵器を作り上げようとした。」


「それが私?」


自分は兵器に過ぎなかったのだろうか?人ではなく、兵器だと思われていたのだろうか?


だが返答は予想外だった。


「違う。君は本来勇者召喚の生贄かなにかだったんだろう。だが何かが起きて、君は生き延びた。とは言えほとんど時間の問題だろうがね。そして勇者も何とか召喚することが出来た。だが国が欲しいのは、勇者では無く兵器だ。魔法か魔道具かそれ以外か分からないが、何らかの手段で勇者と生き延びた君の記憶を入れ替えた。そして君は用済みになり、本物の勇者は国が手に入れた。僕が集めた情報だとこんなところかな。」


答えはもっと残酷だった。これならば、兵器と思われている方がよっぽどマシだ。生贄にされて、生き延びたは良かったが、知らない誰かと記憶を交換した?きっとタチの悪い冗談だろう。そう思いたかったが、雰囲気から全て本当だと受け入れるしか無かった。


「だけど記憶の交換は不十分だったらしくて、少しちぐはぐになっているところがある。例えば、君の名前は?君の両親は?君の住んでいた場所の名前は?君の年齢は?君の仕事は?一体どれだけ答えられる。」


「名前はゔゔ、」


頭痛がする。頭が痛い。頭に雷が落ちているみたいだ。それでも必死に思い出した。


「名前は分からない。親はもう居ない。住んでた場所は、暗い場所。年齢は今年で21か22だと思う。学校で......学校ってなに?」


何を言っているんだ自分は。名前が分からないってなんなんだ。それに両親が居ないなら、うっすら、浮かんでくるこの人たちは誰?私が住んでいたのは、暗い場所のはずなのに、なんで記憶だと暖かいの。それにもう私は充分大人なはずなのに、この体はせいぜい中学生ぐらい。なに中学生って?それに学校も分からない。もう何なんなの。


「だいぶ混乱しているみたいだけど、何となく事実がわかってきたんじゃないのか。自分には、自分以外の人間の記憶が混じっていることに。」


「ああ、ああ、アアアアアアアアアアアアア。そんなはずない。そんな人道に外れたことできる人なんて居るはずない。」


「人に出来なくても、国なら出来るんだよ。それに、ユキが助けなかったら君は今頃死んでいただろうしね。きっと国の上層部は驚いただろう。死んだと思っていた人物が生きていたんだから。」


嫌だ。信じたくない。それじゃあ今までなんのために頑張って来たんだ。元の世界に戻るため、厳しい訓練も頑張ったのに、元の世界なんて、自分には無縁の場所だったなんて。その時自分の足が徐々に崩れ去っていくのに気がついた。


「なにこれ、なんなのこれ私の足が。」


ただでさえ混乱しているのに、足が消えたら、誰でもこうなるだろう。むしろ気を確かに持っている彼女の方がすごい。


「よく思い出してみな。僕達との契約を。」


そんなこと言われても思い出せない。力を貰った時に、何か言っていた気がするがよく覚えていない。それに今それどころじゃない。


「覚えていないならもう一度説明するよ。君は何とか逃げ出したが、ユキと出会った頃から既に瀕死だった。息があったのが奇跡に近かったって言ってたよ。そしてユキに助けを求めたんだ。」


これは何となく覚えている。そしてユキさんに助けて貰ってその後がよく分からない。


「だけど既にボロボロ過ぎて正規の手段では君の傷を癒すことは出来なかった。そこで、人狼化する魔道具を君に埋め込んだ。人狼の再生力は凄まじいからね。すると傷はどんどん治っていって、更に人狼の力を手に入れた君は、兵士となり今に至るってわけだ。」


少しつづ思い出してきた。これが本当かどうか分からないけど、こんなやり取りがあった気がする。





「本当に構わないんだな。」


「はい。ですので私を助けてください。」


「これは悪魔との取引だ。君の死を先延ばしにするしかない。それに僕に死を利用されることになる。」


「なんでも良いから早く助けて。」






いくら死の間際とはいえ人に死の選択を与えるのは不味かった。だけどそんなこと言っても後の祭りだ。


「ならもう一度、人狼化の魔道具をください。今度はもっとユキさんの力になりますから。」


「......そうしたいんだが。もう人狼化の魔道具は無いんだ。今頃君と同じような境遇だった人達も、暴れているからね。いやもう既に討伐されたのかもな。」


さっきまでの騒音が、既に消えていた。仮に残っていたとしても、時間の問題だろう。


「そんな。それじゃあわたしは、」


「ああ、だから言っただろう。君を助けることは出来ないって。他になにか質問はあるかな?」


これは冥土の土産ということだろう。既に自分が助かる道はないのだと言っているものだ。


「1つだけ。なんでこんなことするんですか。考えてみれば、あなたもこの国とさほど変わらない。人を人狼にして、他の人を襲わせる。むしろ戦争から市民を守る兵器を作り出す目的だった国の方がマシじゃないですか。」


「そうだね。僕らは私欲のために君たちを利用した。それは認めよう。そしてその罪はいずれ下されるだろう。それでも僕はやらないといけないんだ。それに、僕だってこの国に戦争で勝ってもらわないと困ることになったんだ。まさかプランAからプランLにまで変更するなんて思わなかったからね。」


「プラン?まさかユキさんあなたは戦争を利用するつもり!!」


それは、もはや狂気だ。国が戦争を利用するのはまだわからなく無いが、個人が戦争を利用するのはあってはならない事だ。そもそも戦争なんてあってはならないものだ。それを利用するなんて。


「利用できるものはなんでも利用する。そんなの当たり前だろ。この人狼事件も、この国の兵士の戦闘力を確かめるためのものだったんだ。さすがに王城が襲われたら、兵士や騎士たちも動かないわけにはいかないからね。まぁ結果はこの国の兵士や騎士はギリギリ本当に及第点ってところだけど。」


「人道に反している。」


既に半分以上の消えかかっているが、彼女の覇気は消えてなかった。


「いったいどんな大義があるのか知らないけど、今すぐ止めなさい。それはあなたの自己満でしかない。」


「.....ふっ、ふふふ。いや失礼。あまりにもおかしくて。」


「何がおかしいの!」


「いやだって、世の中全て自己満ですよ。僕が彼女の事を助けたがっているのも自己満ですし、僕が今ここで、あなたと会話していることも自己満です。その自己満を止めろなんて。自己満を止めたら僕は何も出来なくなってしまいます。」


吹雪は心底おかしいと笑った。そもそも自己満かどうかなんて自分が決めることだ。他人が決めることじゃない。じゃないと自己じゃないじゃないか。


「もう既に手遅れだったんだ。まさかユキさんがここまで狂ってるとは思わなかった。こんな悪魔に、助けてもらったなんて恥ずかしいわ。」


既にほぼ消えかけているが、まだそんな態度を取れる彼女に吹雪は少し心の中で賞賛した。


「それが遺言で良いですか?」


「あんたのこと地獄で待ってるから。」


「ええ待っていてください、ほかの人たちと一緒に。そして決して僕のことを許さないでくれ。」


そして彼女は完全に消えていった。残されていたのは、粉々に破壊されていた魔道具だけだった。


しかし彼女が存在するってことは勇者召喚は本当に行われている証拠だ。いったい本物の勇者は一体どこにいるのか。

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