57 悪魔との契約
「父さん、母さん。」
随分と懐かしい事を思い出した。あの頃は本当に楽しかった。あのまま時が進んでいればこんなことを、やらずに済んだのに。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ」
「いったいなに!」
エリーゼが異常事態に気が付く。アリサとアリスの2人も流石にこの状態で、呑気にお話を続けようとは思わなかったらしい。
「姫様ご無事ですね。そうですよね。そうじゃなくて、何か緊急事態が起きたようです。どこか安全な場所に、」
「姫様、お姉ちゃん危ない。」
突如黒い影が襲いかかってくる。アリスがエリーゼとアリサを庇ったおかげで、2人は無傷で済んだ。しかしアリスには黒い影の攻撃が直撃してしまった。
「「アリス」」
2人はアリスに駆け寄る。
「姫様、お姉ちゃん無事でよかった。」
「そんな、そんなアリス。」
「ダメだよアリス。」
「今まで2人ともありがとう。」
........何やってるんだろう。さっさと魔法で癒せばいいのに。そもそも見た目ほど傷は深くない。僕はいったい何を見せられているんだろう。それより敵、どうするつもりなんだろう。
この騒ぎの首謀者である吹雪は呑気に3人のおままごとを見ていた。悲しむよりも先にすることがあると思うが3人はおままごとをやめる気配はない。このままじゃ被害が増えるだけだ。というか仮にも王族の護衛がこれでいいのだろうか?今にも、黒い影.....「人狼」が襲いかかってきそうなのに。
「悲しみに暮れているところ申し訳ないが、面倒だからエリクサー使うね。」
吹雪はこれ以上茶番を見せられるのはごめんだと思い、アリスにエリクサーを使った。元々そこまで深くなかった傷を癒すのは簡単だった。そもそもエリクサーは死にかけの老人でも、全盛期以上の力が湧き出る薬なのだ。少し勿体なかったかもしれない。
「あれ?痛くない。........すごい。」
もしかして僕にエリクサーを使わせる演技だったのだろうか。だとしたら、向こうの作戦勝ちだが、一体何のために。
エリーゼとアリサはエリクサーの効力に驚いて声も出ないらしい。実際は大したこと無かったのだが、まあ確かに怪我の具合なんて医者か戦士ぐらいしか分からないだろう。王族であるエリーゼが何も出来ないのは仕方ない。でも護衛であるアリサは何をやっているんだ。
「ああああああああああああああああああ」
いい加減待ちくたびれた人狼が襲いかかってくる。狙いは吹雪を入れた4人だ。仕方なく吹雪が相手をするかと考えたが、吹雪の前にアリサが立った。
「よくもアリスを、よくもアリスを........傷つけたな。この犬頭。」
アリサの手には短剣が握られていた。恐らく準1級武器だろう。かなり強力な武器を持っている。そしてアリサ自身も、戦闘態勢に入る。
かなりの手慣れだな。武器に見劣りしない能力を秘めている。........もしかしたらあのまま戦っていたら負けることはなくても、傷のひとつぐらいは付けられていたかもな。
「王国流剣術。虎の爪痕」
アリサが人狼に攻撃すると、人狼はあっさりやられてしまった。
........やっぱり評価をワンランク上にしよう。彼女は少し危険だ。
決して人狼が弱い訳では無い。確かにそこまで強い訳でもないが、一撃で倒されることはめずらしい。
「さすがお姉ちゃん。やっぱり強いね。私なんてまだまだ。」
「大丈夫だよアリス。私とアリサをあなたが助けてくれたから、アリスが戦えたんだよ。それにアリスは十分強いと思うよ。」
「姫様に言われると、少し悲しくなります。姫様はお姉ちゃんよりも凄いから。」
「お世辞でもありがとう。そして助けてくれてありがとう。」
なんて片方を見れば幸せだが、もう片方は
「よくもアリスと姫様を、こいつ。」
既に死体になっている人狼の体を刺し続けている。少し怖い。
「エリーゼ様ここは私が見守っています。早く逃げた方が宜しいのでは。護衛のふたりと一緒に。」
「まさか吹雪逃げろって言いたいの!こんな状況なのに。」
「こんな状況だからです。」
十分刺し終えたのかアリサが戻ってきた。
「ここはやつの言う通りです。恐らくこの一匹だけではないでしょ。王城の至る所で同じことが起きていると考えるべきです。そしてそれらがいつここにやって来てもおかしくありません。」
「そうです姫様。私も次は助けられないかもしれません。いえ、姫様は私がお守りしますけど、そうじゃなくて兎に角逃げましょう。」
「........分かったわ。それじゃあ吹雪ここは任せたよ。」
「はい。」
きっと自分がここにいても無意味だと言うことに気がついたんだろう。むしろ王族がいることはデメリットでしかない。3人は直ぐに見えなくなってしまった。
「さてと、まぁ最低限の仕事はしてくれたかな。本当に最低限だけど。」
人狼の姿が人間に変わる。彼女は元々人狼ではなく人間だった。吹雪がと言うよりユキが人狼にさせたのだ。別に無理やりやった訳じゃない。あくまでもこれは契約だ。願いを一つ叶える代わりに、その魂を貰うとゆう契約だ。
「うう私はいったい。」
「目が覚めてしまったか。それは不幸だったな。このまま何も知らずに死んでいった方が幸せだっただろうに。」




