55 それは小さな闇
........まぁ先に結果だけ言っておくなら、圧勝だった。それは見ていたエリーゼが引くぐらい圧勝だった。今目の前にも倒れた人の山が出来ている。
「ねぇ吹雪もうそのぐらいでやめてあげれば?」
「ん?ああそうですね。ですが本物の戦争なら途中でやめるなんて事出来ませんよ。それに今ここで倒れている人は全員死んでいるでしょう。なのでもう少し死を知っておいた方がいいと思います。」
吹雪は再び軍隊に突っ込む。もはや戦場と言うより、鬼ごっこに近い。鬼ごっこは鬼ごっこでも捕まったら、復活出来ない鬼ごっこだが。確かに吹雪の意見もわからなく無いが、流石にやり過ぎだ。吹雪の護衛とメノッサは怪我人を、連れて行っており、いない。アリサとアリスは吹雪を観察していて、反応しない。つまり今吹雪を止められるのはエリーゼだけだ。
「もう本当にそこまで。それ以上やったら死んじゃうよ。吹雪が強いのは分かったからおしまい。あなた達もそれで良いですね。」
貴族と兵士達は即座に頷きエリーゼにひざまづいた。まるで聖女に出会ったかのようだ。
「.......あなたがそういうのであれば、ここまでです。ですが全員無事ですよ。加減してましたからね。」
吹雪は倒れている兵士達を見渡す。
「あれで加減だと...」
「悪魔だ。」
「母さん俺もうダメだよ。」
「あばばばばばば。わひわひわひわひ。」
前言撤回だ。何名か体は無事だったが心が無事じゃなかった者がいるみたいだ。
これは少しやりすぎたかもな。でも実際の戦争じゃそんなこと言ってられないんだけどなー。てか弱すぎだろ。これも全て指揮官の能力不足が原因だろ。てか誰が指揮を執っていたんだ。それらしい人はいなかったが。.......まさか指揮官不在なんてことはないよな。.......まさかね。
「皆さん大丈夫です。動ける者は医療室に向かって下さい。動けない物はその場で待機していてください。私が魔法で癒します。」
「...聖女様.....。」
「女神。慈悲深き女神だ。」
「美しい。外見だけではなく内見まで美しい。」
...............................................................................なんでいつも......................
........................君なんだ。.....
僕だって優れているんだ。
「おい、さっさと起き上がれ。起き上がったらさっさと医療室に行ってこい。今僕は機嫌が悪い。さっきみたいに加減は出来ないぞ。」
吹雪はウイングショットを誰もいない場所へ放った。ウイングショットは風属性の初級魔法だが、魔力を込めれば十分人を殺すだけの力はある。
「あと10秒待とう。10、9、8、7、6、5」
「逃げろ悪魔に殺されるぞ。」
「生きたきゃ走れー!」
見事なまでの逃げ足だ。その足をさっき使ってもらいたかった。正直見どころが無さすぎて、何をしたのかよく覚えてない。ただパターン化していた気がする。少なくとももし今のシーンを書くとしたら、まるまるカットだろう。
「ちょっと吹雪あなたいったい何をしているの。怪我人も居たのに、無理やり歩かせるなんて。さっき感じたこの感覚は間違いだったの?」
「ふむ。」
吹雪は少し考える。いったい何が最適なのか。今ここでエリーゼと2人きりのタイミングで何を話すのか。
「エリーゼ様。それは謝ります。ですが今ここで治療するよりも、医療室の方がきっといいですよ。それは兎も角1つ良いですか。」
「兎も角ってあなたはいったい何を」
「僕はあなたの知っているユキ・エンゼルに間違いはありません。ですが色々訳があって吹雪と名乗っています。更に言うのであれば、僕はユキではありません。ユキの1部でしかありません。」
「え!それってどういう意味?」
「詳しいことはまた次回。兎も角僕の正体と僕の事を探らないのなら、僕はあなたの護衛でも専属騎士にでもなりましょう。ですがもしもどちらかでも、破ってしまったのなら........まぁあんまり脅すのは良くないですね。」
「え!あのちょっと待ってユキ。さっぱり分からないよ。最も詳しく説明してよ。そんな一方的に言われても分かんないよ。」
「いつの日か必ず真実を話すので今日は勘弁してくれないですか。今は正直エリーゼ様の近くに居たくありません。別にエリーゼ様には問題はないです。とにかくすいません。」
「あっ!ちょっと........ばーーーか、もう知らない。アリサ、アリスもうこの天才馬鹿をボコボコにしちゃって。そして謝ってもらうわ。今の言葉悪気があってもなくても傷ついたわ。この責任は取ってもらわないと。」
しかし2人は何やら話し合っていてエリーゼの声は聞こえない。様子を見る限りあと30分はあのままだろう。まぁ時間はあるからゆっくり休もう。吹雪にも疲れはある。あくまでも精神的な疲れだが。
「ん、なんだコイツ。」
吹雪が端で座って待ってようと思い、訓練所の端に向かうと、怪我をした小鳥を見つけた。恐らくさっきの吹雪の攻撃で、怪我をしてしまったのだろう。人間相手には加減は出来るが、識別してない小鳥相手に加減するのは不可能だ。なんて言い訳も出来るが、今はそれよりも怪我の治療だ。
「あのすいませんエリーゼ様、小鳥が怪我をしてしまったようなので、魔法で治療してやってくれませんか?」
「へーそうですか。人間相手には、無理やり治療室に向かわせたのに、小鳥相手には魔法使えと言うんですか、そうですか。おまけに近くに居たくないとか、1分前に言った相手に、そーですか、そーですか。」
不味い不機嫌だ。いやまあ当然なのだが、頬を赤くし膨らませているのはさながら、リスみたいだ。
「可愛いな。」
「........!ねぇ今なんって言った、ねぇもう1回。」
「え!今何か言いましたか?正直多分思いっきり素が出ていたと思うのでもし失礼なことならどうか許して貰えないでしょうか。」
「もう1回、もう1回。」
なんなんだエリーゼ。本当に僕は何を言ったんだ。何か不味いこと言ったのか、それとも機密情報?いや流石にそれはないと願いたい。それより小鳥どうするか。....まあ仕方ないか。
「もう1回、もう1回。」
もう1回お化けに変身したエリーゼを横目に、吹雪はポケットから1つの容器に入った液体を取り出した。そしてそのまま小鳥に飲ませた。すると小鳥は怪我などなかったかのように飛んで行ってしまった。
「今のポーション?」
「正確に言うならエリクサーですね。赤子からじいちゃんばあちゃんまで飲めるように作られている、死にかけの人ですら踊り出す回復薬です。」
「ちょっとその容器見せて。」
「?はいどうぞ。」
吹雪はエリーゼに容器を渡す。中身は入っていないからただのガラスだ。それにしてもエリクサーは貴重品だ。吹雪でさえ、携帯品の三本しか持ってない。まぁ手に入れようとすれば出来るけど、正直エリクサーが必要な場面ってそうそうないし、今回はエリーゼの機嫌が悪かったので、仕方なく使ったのだ。そもそもエリクサーの本当の使い道は、死にかけの人に使うのであって、今のは本来の使い方じゃない。
「わーーー!ユキこれパンジーの商品だよね。これどうしたの。それにこれ私が知らない商品だよ。いったいこんな貴重品どうやって手に入れたの。それにこれがあればもしかしたらあの子も。」
何やら深い事情があるみたいだ。それからやっぱりエリーゼってこんなキャラだったけ?確かに少し破天荒な部分もあったが、ハイテンション過ぎないか。もしかしたらためるをやりまくって、テンションを50にしたのかも。冗談はさておき、まさかエリーゼもパンジーを知っていたとは。
「パンジー。それは誰が言い出したのかは、分からないが、噂でパンジーの絵柄が書いてある商品があるという話が流れた。ある1人の貴族がパンジーの商品を知り合いに自慢しまくったお陰で、パンジーは実在することが分かった。それからは、パンジーの商品は世界中の貴族や王族のステータスの1つになって行った。だいたいこんなところでしたかね。」
「あまい。その程度の知識じゃにわかにもなれないよ。ユキにも知らないことがあるんだね。パンジーそれは完全手作りで全てできており、魔法は一切使われていない。この3年間で急に出てきた物で、今の人類が誇る技術のはるか上を超える商品を取り扱っている。だけどどこで作られているのか、どこにお店があるのかは誰も知らない。確かに少し値段は高めだけど、値段以上の効果は見込める物ばかり。本当はもう少し解説したいけど、ユキには分からないだろうし、ここまでで許してあげる。」
さっきの仕返しのつもりなのか?だとしたら少しからかってやるか。
「ではパンジーに関わる問題です。
第1問
原因まで発売されているパンジーの商品の数はいくつですか?」
「現在確認が取れているだけでも172個があるらしいわ。更には隠していたり、確認が取れてないだけで結果はもっと多いと思うわ。」
「なるほど。そうですか。それでは、
第2問
パンジーの商品はどのように、買うのでしょうか?またどのような商品が多く売られているのでしょうか?」
「まず買い方だけど、2パターンあるらしくて、1つは手紙が送られてきて、買うか買わないかを決めたら、いつの間に手紙が無くなっているみたいよ。そして商人がある日やってくるから、お金を渡して取引終了。もう1つは直接商人がやって来て、商品を見せてその場で決めるって方法。だけどこっちはあまり聞かないわね。」
「それじゃあ第3問。」
「ちょっと待ったー。何をしているの。」
エリーゼは困った顔をしている。
「可愛い。」
「え!」
しかし本当に大したものだ。よくもまあここまでパンジーの情報を集めたものだ。恐らく世界で2番目にパンジーの事を知っているだろう。
「もう1回、もう1回。」
「出たな。妖怪、もう1回お化け。」
「誰がお化けだーー。」




