54 夫婦喧嘩 2
吹雪に一気に力が戻ってくる。これは
「........また僕が死んだ。いったい何処の僕なのか知らないが........。」
「ん?何か言ったユキ?」
吹雪はさりげなく呟いたつもりだったがエリーゼには聞こえていたらしい。
「いえエリーゼ様。つまらない話ですよ。それから私の名は吹雪です。良いですか私の名前は吹雪、そして私の顔は忘れてください。」
「何言ってるのユキ。本の読みすぎでおかしくなっちゃった?」
エリーゼとアリサとアリサには催眠術は効かないか。それならそれで手はある。
今の吹雪が使ったのは催眠術である。1種魔法である。吹雪の催眠術は目を合わせた者に命令するという催眠術だ。一見強そうに見えるが、まりよがある程度あると今のように、レジストされることもあるし、有効距離が5mしかないのであまり使えない。しかし5m以内で魔力が弱い者では吹雪には無力なのである。現にメノッサと護衛の騎士は吹雪の顔を忘れてしまっている。
「ねぇ早く行かないの。それとも私が怖いっての。けどそれじゃ仕方ないよね。」
「お姉ちゃん今は姫様とお話し中だから、少し黙ってよう。」
何となくこの姉妹の関係がわかった気がする。
「ねぇユキは覚えているかな。私が好きだったお話。悪い三体の神様が世界を壊そうとして、世界中の英雄達が神様を倒すお話。いつか私もそんな英雄になってみたいよ。」
エリーゼはエリーゼで話を聞かないし、てかこんなキャラだったか?興奮し過ぎだと思うけど、何か僕の要件があるのか。
「エリーゼ様僕の事をユキと呼ぶのは今後止めて下さい。もし次にユキと言ってしまったら最後です。僕はあなたの前から消えます。」
「ちょっと姫様に向かってなんなのその態度。仮にもあなたは姫様の護衛なのよ。だから仕方なく私達も望まない結婚をしてまで」
「僕も望んでいません。一体誰が王族の護衛なんてしないといけないんですか。オマケに会ったことない人と結婚までされていて、というか前々から思っていましたがこの国結婚に対しての考えが甘すぎませんか?」
吹雪はいつの間にか意図せずに質問をしていた。そんなことを聴いたって何の解決にもならないのに。
「そうなのかな?私はずっと結婚はそういうものだと思ってたし、何もおかしくないと思うよ。」
「その考えはエルランド王国だけです。確かに数人、数十人、中には数百人の妻や夫を持つ変わり者もいますが、それは全員にを愛しているからです。ですがこの国は貴族でもないのに、お互いに愛がない結婚が多すぎます。そのくせ王族たちの婚約は遅いときた。いずれ問題になりますよ。」
「はっ、はい。良いですか!」
ビシッと背を伸ばし手をあげる者が1人。
確かアリスとか言ったか?何故手をあげているんだ。って言うか今気がついたがこのアリスと凶暴娘はもしかして双子か?いやそれにしては、あまり似てないな。顔はそっくりだが、あえてどことは言わないが、凶暴娘は小さいし、性格なんて真逆じゃないか。
「あのー良いでしょうか。もしダメなら仕方ないですけど。」
「え!ああどうぞ。」
「はい、ありがとうございます。それでですね........なんだっけ........そうだあの結婚って結局は繋がりだと思うんですよ。今は愛してなくても繋がっていたらそのうち愛し合えるはずです。」
「そうだよユ....吹雪。今はダメでもいつかきっと大丈夫だよ。」
「一体何が大丈夫なのか分かりませんが、言いたいことは分かりました。それでいったい僕がエリーゼ様の護衛をしないといけないんですか。」
「あーもうゴダゴダ言ってないで、諦めなさい。全ては姫様が望まれたことなんだから。そうだわもしも私に勝ったなら、あなたは姫様の護衛を辞めていい。ただし私が勝ったら文句は言わせない。これでどう?」
「ふっ。」
吹雪はあまりにアリサの自信があり過ぎて笑ってしまった。むしろここまで自信過剰な者は見たことない。それとも本当にその自信に値する力を持っているのか。いやそれはないか。少なくともこの国では吹雪に勝てる者はほとんどいないだろう。強いて言うなら第一王子が心配だが、逆に言うなら心配事は彼一人だけだ。
「いや失礼。ええ良いでしょう。僕が負けたなら僕はエリーゼの護衛でもなんでもなりましょう。ただし僕が勝ったなら、そうですね........まぁ特に思いつかないので、護衛を断るということで良いですね。エリーゼ様?」
「うんだけど大丈夫ユ......吹雪?アリサはこの国でもかなりの腕利きなんだよ。その実力が認められて、私の護衛になったぐらいなんだから。」
なるほど実力ということは、やはりあの二人は貴族では無い。庶民からよくもまあ第二王女の護衛になれたものだ。いや第二王女なんて国から見れば要らないのか。だからこそ身分の分からない僕なんて護衛にしようと思ったのか。だけど国王は良くも悪くも自分の子供を大切にする人だった。そんな人が僕なんて採用するのか?........いやキツネが貴族達を粛清し過ぎて貴族がもう居ないのか。だとしたらこの人不足も頷ける。
今まで結構な距離を歩いてきているが、未だに人と出会ってない。見回りすらいないのは異常だ。一体どれ程の貴族が、キツネのせいで首だけになったのか。けど元々何かしでかさなければ、何も出来ない。自業自得だろう。
「おーい吹雪大丈夫?」
エリーゼの呼び掛けで意識が戻ってくる。考えていると深く考えたり、違うことを考えるのは、悪い癖だな。
「ええ大丈夫です。それよりも、暴力娘の方を気にした方が良いと思いますよ。なんなら助っ人を読んだらどうでしょうか?正直負けるビションが浮かびません。」
「ねえ暴力娘ってもしかして私のこと?」
「さぁ?」
「おまえ!」
「お姉ちゃん落ち着いて。もうすぐ着くよ。」
「もうすぐと言うよりもう着きましたよ。」
吹雪の目の前には巨大な訓練所が広がっていた。ここは個人訓練所じゃない。軍隊の訓練所だ。まぁほとんどが貴族たちのコマ遊びである戦争ごっこに使われているが。現在も2人の貴族と恐らく合計1000人近くいる兵士達が戦争ごっこをしている。
「これじゃあ使えませんね。」
「うーんどうしよう。私もユ......吹雪が戦っている所見たいし、このままじゃアリサが暴走しそうだし。私お願いしてくるね。」
エリーゼは2人の貴族の元に向かって行った。交渉はしばらくかかったが、エリーゼは満足そうに帰ってきた。
「姫様どうでしたか?というか立場的に私たちが行くべきだったと思うのですが。」
「気にしない気にしない。それで条件付きだけど貸してくれるって。」
「条件ですか?」
「うん。1人でここの1000人を倒したら良いって。」
「「「........いやいやいや。」」」
1000人?何を言っているんだ。ってかあの貴族たち酒入ってるだろ。妙に顔赤いし、本当に何を言っているんだ。
「それでどうしよっか?」
「........ハア、僕がやります。準備運動にはちょうど良いでしょう。」
「ちょっと本気なの!」
「危険です。」
「たかが1000人です。兵士1000人はさすがに無理ですが、恐らく彼らはただ武器を持たされた一般人です。なら正気はあります。それに指揮官も将軍ではなく貴族です。それならきっと大丈夫でしょう。」
吹雪は訓練所に向かう。その背中は昔と同じだとエリーゼは感じ取った。




