52 医療室にて
「あいつは才能はあるけどそれ以外がなー。努力も経験もその他もろもろ足りな過ぎる。」
マサトはホロビとのお茶の話にいつもユキの話をする。今日も同じだ。
「そうでしょうか?経験は兎も角努力はしていると思いますが。」
「うーんあいつは失敗した事が無いからな。努力は恐らくそこまでしてない。壁にぶつかった事がきっとないんだよ。もしも俺があの日ユキを助けてなかったら、良い壁になったと思うんだが。」
「ですがマサト様が助けなければ、ユキ様はきっと生きていないでしょ。」
「それは無いな。あいつは俺が助けなくても自分でどうにかしてたさ。むしろ俺が助けたからユキは、自分を隠し続けてる。」
マサトは少し寂しそうだ。
結局俺ではユキの父親にはなれなかった。俺もセシルもユキの事を本当の家族だと思っているが、ユキは未だに何処か溝があるみたいだ。きっとこれは無くならない。ユキの心が変わろうとしない限り。
「隠すですか。そう言えば私もユキ様の事あまり知りません。私の知っているユキ様は何処か仮面を被っている気がします。」
「ならもしかしたらあいつは一生本当の自分を隠し続けているのかもな。」
「........どうすれば、どうすればその本当のユキ様を見れるのでしょうか?」
「それは多くの人と出会い、様々な物を見て、色んなことを知れば、きっと大丈夫.....と言いたいが、あいつの本質は悪魔と同じだからな。なかなか本当の自分を見せないだろう。ホロビお前でさえ知らないのが証拠だろう。」
「そうですか。」
ホロビは少し悲しそうだ。
「だけど悪魔って事は逆に言えば、あいつは天使にもなる事が出来る。本来は優しい心の持ち主なんだ。だから俺は諦めない。ホロビも諦めないでユキを支えてやってくれ。」
「はい。分かっています。私は決して諦めません。その為に私はここにいるのですから。」
「でもユキはなんだっけ?ナツとキクだったかその2人には心を開いていたんだろ。」
ホロビは優しいで昔を思い出すように、思い出を大切にしながら話した。
「ええ3人はとても仲が良く、3人は友として、ライバルとして、家族として、兄弟として、仲間としていつも一緒にいました。まるでお互いに考えている事が分かるかのように。」
「なら最悪その2人がどうにかするだろ。別にだからといって放置する訳ではないが、そんな親友が2人もいるならきっと大丈夫だ。」
「そう.....ですね。」
吹雪は医療室で医者に診断されていた。とは言え吹雪は気を失っており、医者と後を任された護衛の騎士が勝手にやっているだけだが。
「うーむ顔色が悪いなー。一体何があったんかなー。」
「実は、麦を食べてしまいまして。そのショックでこうなってしまいました。はい。」
護衛の騎士は自分で何を言っているのか分からなくなってきた。
やっぱり止めるべきだった。この2日間ろくな物を食べてない。むしろ吐いてしまっているを俺は知っているはずだ。なのに何故止めなかった。1食ぐらいまともな物を食べさせるべきだった。
「む........ぎ?もしかして麦の事か?あの麦の事を言っているのかなー。だとしたらそれは馬鹿だなー。そりゃそうなるよなー。医者として生きてきて20年」経つが、麦食べた人は初めてだなー。」
「あははは。」
護衛の騎士はもはや笑うことしか出来なかった。
「笑い事じゃないんだなー。きっと麦に着いていた変な虫でも食べたんだなー。」
「そうですか。それでいつ頃目覚めるでしょうか。未だに朝食を取ってなく、昼食も迫ってきているのです。早く食べさせなければ。」
「一体何を慌てているのなー。ちょっとその朝食を見せてみるのなー。」
護衛の騎士は朝食を渡すわけにはいかなかった。渡せば自分が責められる。しかし色々と大きい物が迫ってきてしまい、あっさり渡してしまった。
「なんなんだこの虫焼き。」
護衛の騎士は睨まれる。当然そうなるのは分かりきっていたが、あまりに大きな物で一瞬我を失っていた。その大きな物を説明する気はないが。
「あの........分かりません。それがなんなのか。」
「分からない物を食べさせようとしてたのなー。お前本当にクズだなー。」
この美魔女にクズ呼ばわりされて一瞬変な性癖に目覚めそうになったが、何とか押さえ込み、立ち直った。
「そんなこと言われても本当に分からないですし、これはかなり上からの命令なのでただの一兵卒から出世した私には逆らえません。」
「うるさい。」
「え!」
確かに少し声を荒らげていたかも知れないが、それを言うなら自分よりも、あなたの方がよっぽどうるさいです。と言いたかったが、残念ながらその勇気は彼にはなかった。
「うるさいやつは患者に悪い。出ていけ。」
「あ、いや私は吹雪殿の護衛でして、こんな事が起きたなら、すぐ近くに」
「ハイハイ。あんたが居ても仕方ないのなー。あとはこのメノッサに任せるのなー。」
メノッサはさっさと騎士を追い出してしまった。その後騎士は部屋の前に立ちある意味護衛らしかった。
_________1時間後______________________
外が騒がしい。護衛の騎士が騒いでいるのか?兎に角何か問題が起きたらしい。正直メノッサは面倒事はゴメンだったが、このままでは患者に悪影響を及ぼす可能性があるので追い払う事にした。
「全くうるさいなー。患者が寝てるってのに、医療室の前で普通騒ぐやつなんているのかなー。」
だが言い争っている4人には聞こえていないようだ。いや言い争っているというか、騎士が一方的にやられていると言った方が良いだろう。
「だからそこを退きなさい。姫様の言うことが聞けないの!」
「いやだとしても、ここには今患者が居まして、その患者の護衛をしているんです。たとえ第二王女の言葉でもそれは従えません。」
「お願いします。私の大切な人かも知れないんです。」
「姫様それは出来ません。私も任務なんです。仕事なんです。それを勝手にすることは出来ません。」
「あっ、あのお願いします退いてください。」
「いえですから、それは無理なんです。」
「それなら実力行使しかないわね。」
1番うるさい女がナイフと取り出した。続いてあまりうるさくない女が杖を取り出した。第二王女つまりはエリーゼは何もしない。って言うより王女は戦えないだろう。そして護衛の騎士は剣を抜くことも出来ずにいた。
「覚悟。」
殺しまではしないだろうが、しばらく動けなくなる威力の攻撃が護衛の騎士に襲いかかる。しかし
「風の盾。」
医療室から出てきた。魔法によって攻撃が当たる事はなかった。その魔法を使った正体は勿論、吹雪である。
「もう目覚めたのなー。正直あと1週間は寝ていると思ったなー。それより大丈夫なのかなー。」
メノッサは吹雪に近づく。しかし吹雪には触れない。先程の魔法で防いでいるようだ。
「随分と賑やかですね。ん?これはまさか。」
吹雪の目には謎の虫焼きが目に入る。
「覚悟を決めるしかないのか。」
仕方なく吹雪が虫焼きに手を伸ばした時風の盾が破壊された。
「姫様が会いに来たってのに、私たちの旦那様は随分といい態度ね。武器を取りなさい私がその根性叩き治してあげる。」
吹雪の目の前には吹雪と同じぐらいか1つか2つ歳が下の子がいた。それで吹雪は自分が考えていた想定が当たっていることに気がついた。
「........王族の護衛は夫婦で無ければならない。何故ならば片方が裏切ってももう片方を、人質に出来るからでしたね。まさかそれだけの為にここまでやるとは、正直呆れを通り越してアッパレです。」
「この国には今強い人が必要なの。それがあんたみたいな怪しい奴でもね。」
今にも飛びかかってきそうだ。もし飛びかかってきたらこの狭い場所では抵抗出来ないだろう。
「怪しい奴だと思っているなら、構わないで下さい。それともなんですかそこまで切羽詰まった状態なんですか?」
「そうよこのままじゃあと数年でこの国は帝国に滅ぼされる運命にある。帝国に抵抗する為には力ある者が必要なの。でもその前にあんたの事気に入らないからぶっ飛ばすわ。」
「おいおい勘弁してくれよ。こっちはふざけた料理食べて倒れたところだぞ。もう少し優しさってのは無いのかね。」
「ふざけた料理?................死ね。」




