49 キツネの日常
吹雪が誘拐されて、訳の分からないやり取りをしている一方キツネは、資料の仕分けを終わらせ違う仕事をやっていた。それは
「借金の取り立てに来ました。」
金貸しである。
キツネが勢いよく扉を開けるとそこには、布団で寝ている1人の女性とその近くにいる女性の子供の3人の姉妹。そして呑気にタバコを吸っている男性。
「カガノさん借金の返済が半年間滞っています。早く金貨250枚返してください。いや利子があるからもっと膨れ上がってますね。まぁとにかく払ってください。」
「死ねっ。」
男性がキツネに殴りかかってきた。だがキツネは逆に男性の腹に1発殴ってやった。
なんで僕が殴られかけないといけないんだ。ほんとこの人とはもう関わりたくないな。
「てめぇぶち殺す。」
男は奥の部屋に向かった。だがしばらく待っても、来ないので女性の方に話しかけた。
「すみませんがエノさんですね。会うのは2回目ですね。少しなんて言うか痩せましたね。」
痩せるどころか、顔が青くうっすら骨も見えている。病死のカウントダウンはもう始まっているだろう。
むしろここまで良く生きているな。......そんなことしか考えられないなんていったい僕はどこでおかしくなってしまったのだろうか?。もしくは、元々おかしかったのか。まぁどうでもいいか。
「すみませんお金今無いんです。必ず返しますので。」
声もほとんど聞こえない。恐らくあと一月持たないだろう。現に布団から出ることも出来てない。なんの病気か知らないが、それとこれでは話が違う。
「そう言い続けてもう半年ですよ。こっちももう限界まで待ちました。しかし返す目処すらたってないじゃないですか。それでどう返すつも」
「「「お母さんを虐めるな。」」」
今度は姉妹達が殴りかかってきた。だが父親のパンチすら当たらなかったキツネにいくら3人がかりとは言え当たるはずない。
「別に虐めている訳じゃないんだけどなー。」
キツネは3人の攻撃を避け続けた。エノは娘達を止めようとしていたが、動くことが出来ず、声はよく聞こえなかった。
全くこの家の人達は物騒だな。仕方ないあんまりやりたくないんだけどなー。
なんて考えていたら奥からカガノが帰ってきた。手には包丁を持っている
「ゴミが死ねー。」
カガノが襲いかかってくる。キツネは姉妹を抱きかかえて避けた。
「自分の子供もいるのに、よくもまあそんな行動出来たね。」
「そいつらは、俺の子供じゃねー。そこの病人が勝手に産んだだけだ。」
「死ね」
カガノの言葉を聞いた瞬間キツネは自分の理性を失ってしまった。そしていつの間にか奪っていた包丁でカガノを刺していた。
ああ刺しちゃった。まだ借金の返済してないのに。でも仕方ないよね。多分生きてるし。
キツネは3人を下ろしエノの方に向かった。娘達は怯えて動けないようだ。
「で、どうします?借金。」
「返します。なのであの子たちだけは、許してください。あの子たちは私が馬鹿だっただけで何も悪くないんです。」
娘達がエノに向かっていく。
「そんな私達が働くから母さんは休んでてよ。」
恐らくは長女であろう人物がそう言い終えると、キツネの前に立った。残りの2人は泣いている。
「お願いします。私が全て返済しますので、どうか家族にだけは。」
「........5人家族。250枚....なら1人50枚だな。」
「え?」
「お前たちはお金って物を舐めている。1人で金貨250枚返すなんて出来る訳がない。出来たとしてもいったい何年かかるんだか。」
「それは.......でも絶対に返してみせます。」
長女は涙を貯め、震えながらも立ち向かう。
「返すのは当然だ。借りたものを返す。当たり前の事だ。だがそれはお前たちがお金を稼いだ来ないから言える言葉だ。母に聞いてみろ。その苦労を。」
結局長女も耐えきれず泣き出してしまった。
少しは見込みのある家族だと思ったが結局ダメか。もう帰ろうかな。
「大丈夫よお母さんがどうにかするから。」
「ん?おいおいマジか。」
キツネがせめて何かないのかと、家の奥に行こうとした時、エノが立ち上がった。エノは今この瞬間倒れてもおかしくない様子だったが、妙に大きく見えた。しかしだからなんだというのだ。
「どうにかって、具体的にはどうするんです?」
「........店を売ります。少しボロいですが、少しは足しになるでしょう。それから私を奴隷商に連れてってください。それでも足りない分はどうにかします。このとおりです。」
エノは土下座をし始めた。キツネはそれを見て喜んだ。最近変な最強とか無敵とか言っている痛いヤツを見てから、少し心がおかしかったが、この光景を見て治っていた。
「素晴らしい。これが母の力ってやつか。見せてみろ。」
キツネはエノの顔見て、血流を調べ、心拍を測った。別にキツネは医者では無く、専門的な知識がある訳では無いか、それでも医療についてそこそこ調べていた。だがそれはあくまでも知識であり、本物の医者のようには出来ないだろう。だが逆に言ってみれば、医者に出来ないことをキツネはやることが出来る。
「魔毒か。また厄介な物を。エノさんあんた昔変な虫とか蛇とかに噛まれた事ない?」
「20年程前に森に出かけていた時に、見たことない蛇に噛まれたことが有ります。でも恐らく子供でとても小さかったです。」
「蛇か。なんの蛇なのか知らないが、一番タチの悪い魔毒だな。」
やっと泣き止んだ長女が睨みながら聞いてきた。
「魔毒って何?」
仕方なくキツネは教えることにした。別に黙っててもいいのだが、うるさそうだし。
「魔毒ってのは魔獣が持つ毒だよ。未だに完全に解毒する手段が見つかってない毒だからこのままじゃ少しまずいかもね。」
「そんなお母さんは助からないの。」
今までほとんど無口だった三女が話しかけてくる。
てか今気づいたけどこの人も、この子達も若すぎじゃないか。正直親子よりも姉妹って言われほうが信じられる。いったいいくつで長女を産んだのか。
「ねえ聞いてるの!お母さんは大丈夫なの。」
また泣きそうだ。この家族は疲れるな。
「普通なら助からないが、特別に助けても良い。」
「「「え!」」」
「ただしその道を選ぶなら君たち3人は終わりのない道を進むことになる。いやお母さんもだから4人か。兎も角どうする。僕はいくらでも待つけど。」
「「「やる。やります。だからお母さんを助けてください。」」」
本当に素晴らしい家族愛だ。どうしても家族が関わると僕らは弱い。仕方ないとはいえ少し対策を考えないとだな。......いやこれが僕達なんだから別にいいか。
「なら早い方が良い。もうお母さんは意識がない。あとそこのお父さんは連れてかないけどいいよね。」
「当たり前。こんなやつ二度と見たくない。」
「とにかく目障り。何もしないのに威張ってばっかり。」
「嫌い。」
「なら良いや。カラス達この4人をエリス・ダールに連れて行ってくれ。エリスダールじゃなくてエリス・ダールだからな。」
キツネの命令を聞くとカラス達はエノと三姉妹を連れて飛んでいってしまった。ここに残っているのはキツネと包丁が刺さっている男だけだ。
「ずいぶん静かになったな。まぁこれからまた少しうるさくなるけどな。」




