37 今はまだ平和な時間 1
家を出たユキだが、山なんかに行くつもりは無い。そもそも魔獣の討伐なんてやるつもりは無い。そんな事をしているならもっと有意義な時間の使い方をする。
「おやユキ君こんにちは。」
「あっコーヒ屋のおじいちゃん。こんにちは。」
「うーんまた少し背が伸びたんじゃないか。」
「そうですかね。僕はあんまり変わったようには思えないんですけど。」
どどどどど。向こうからすごい勢いでおばあちゃんが走ってくる。そしてユキとおじいちゃんの前に来ると急ブレーキをかけた。
「おばあちゃんこんにちは。」
「あらユキ君じゃないの。また大きくなっておばちゃん嬉しいわ。それはさておきアンタ店放ったらかして、何してるの。」
この2人は夫婦でコーヒ屋をやっている。だがおじいちゃんのは方はいつもふらっとどこかへ行ってしまうのだ。その度におばあちゃんがおじいちゃんを探すとゆうのがお決まりだ。別におじいちゃんはまだ頭がおかしくなったとゆう訳では無い。ただの性格だ。そんな訳で近所のみんなももう慣れてしまった。
「ごめんねユキ君。うちのバカがなにかしなかったかい?」
「いえ、僕達は今出会ったばかりなので特には何も。」
「全くいつもワシが変な行動をしていると思ったら大間違いだ。」
「変な行動してるってわかっているならもうやめなさい。あんたももういい歳なんだから。」
「なんだと。」
なんて口喧嘩をしていると。
「エクス王子様よ。」
「え!ほんと。はっカッコイイ。」
「王家の人々が街中を出歩くことが出来るこれはこのエルランド王国が平和である証だ。」
様々な声が聞こえてくる。どうやらエクス王子がいるらしい。出来れば遭遇したくない。ユキはこの場から立ち去ることにした。
「それじゃあおじいちゃんおばあちゃん僕は用事があるのでもう行きます。」
「そうなのか。じゃあこのうちの新商品コーヒ飴をあげるよ。うちのバカが迷惑かけたお詫びだ。」
「だからワシは何もしておらん。」
「そうゆうことなら貰っておきます。それじゃあ2人ともお元気で。」
そしてユキは立ち去った。何やらエクス王子が何やら叫んでいたがユキにはよく聞こえなかった。
コーヒ飴が舐め終わる頃には、ドンママの宿の近くにいた。特に用事はない。だがここはもうひとつの家とゆう感じがあり理由がなくてもつい来てしまう。ちょうどお昼が終わった時間帯なので人はほとんどいない。ユキもたまに手伝いに来たり、料理を教わりに来たことがあるがキッチンは戦場だ。いやむしろ嵐だ。何が言いたいのかよく分からないがとにかく凄い。
「·····うーんお昼ここで食べていくか。」
独り言を呟いてユキは宿に入っていた。するといるのは筋肉の女ことドンママだ。5年経ってもドンママのことはよく分からない。ユキは椅子に座りメニューを見る。1分程考えると
「ドンママこのカツ丼1つ。と果汁水が1つお願い。」
30秒程だろうか。料理が完成するにはあまりにも早すぎる時間だがカツ丼が運ばれてきた。ちなみにカツ丼はここの1番人気だ。そしてユキはまずはカツだけかぶりついた。肉の旨みを最大限に利用したまさに天下一のカツと言うのが相応しい。変な調味料は使わず単純な素材の美味さを引き出すのがドンママの料理だ。
「はっいつの間に食べ終わっていたんだ。」
いつの間にか丼は空になっていた。微かに記憶にある。自分が食べたんだ。多分。なんにせよ食べ終わったなら、もうここに要は無いはずだ。だがユキは少しゆっくりしていくことにした。
「なんでドンママとセシルの料理は上手いだろうな。」
誰かに向かった発言ではない。が思わぬ者から回答があった。
(それは料理に対しての向き合い方じゃないかな。)
マリィその正体は魔神。もう1人のユキであり、師匠であり友人でもある?存在から回答があった。
(料理に対しての向き合い方?なんだよそれ僕だってきちんと向き合ってるぞ。)
(うーんそうなんだけど、あの2人は少し違うとゆうか、なんとゆうかなんだか言葉にすると難しいんだが、少なくともユキの料理は私は好きだぞ。充分お店でやっていける。だけどあの2人は王宮レベルだったって事だよ。)
最近マリィの人格が変わることはほぼ無くなり安定してきた。マリィ曰く完全にユキの考えを覗くことも出来なくなってしまったようだ。それはすごく良い事だ。だが人格の方はユキは少し悲しく思っている。あの人格達は何処に行ってしまったのだろうか。あの人格全てが集まったのがマリィではないのだろうか。などと考えてしまう。
(なぁマリィ人って難しいな。)
(は?)
「ドンママここにお金置いてくね。美味しかったよ。」




