31 ホロビ
「マサト無事か!」
「ん?」
マサトに怪我は無さそうだ。ひとまずは大丈夫だろう。ユキはそう判断するとずっとこちらを、見つめているメイドのことを見た。
「お前誰だ。」
本来なら聞くことは他に沢山あるはずなのに、重要な事を知ることも、時間稼ぎも出来ない、訳の分からない質問をしてしまった。
(しまった。僕はなんて無意味な事をしているんだ。そもそも質問なんてしてないで逃げるべきだろ。)
ユキが失敗に気づくのとほぼ同時にメイドは反応した。
「すみません質問の意味がよく分かりません。まさか記憶喪失?どこかで頭に強いショックを受けたりしたんでしょうか。」
ユキはメイドの反応を見て、ますます混乱していった。
(なんだ、もしかして知り合い......なわけがない。少なくとも僕知らない。はずなのになんだろう知っている気がする。とても大切な、いやいやエンゼル家のメイドは全て覚えているし、そもそもただのメイドがこんな気配出せるわけが無い。出会っていたら、二度と忘れは出来ないだろうし。よってこいつは他人。恐らくは敵。)
ユキが考えをまとめ終わった直後、玄関からセシルが追いかけてきた。
「ユキさんどうしたんですか。いきなり走り出して、なにかあったんですか?」
セシルが来てしまった。これでは逃げることが難しい。そう咄嗟に判断したユキは、出来るだけ相手から情報だけでも聞き出そうとした。
「もう一度聞く、お前は誰だ。」
「ホロビの事ですか?ホロビはホロビです。ユキ様のメイドとして働かせてもらっている者です。今更どうしたんです。やはり記憶喪失なのでは。」
ホロビが喋っていると頭が痛い。脳が殴られているようだ。そして記憶の片隅からホロビの事を思い出す。
(なんだこれはマリィの時と同じだ。記憶が入ってくる。だけどこれは違う。僕の記憶じゃない。マリィの時とは少し違う。これは作られた記憶だ。)
ユキは1回似たような経験が近いうちにあったので、騙されずにすんだ。だがもとよりボロボロな体を無理に動かしていたのだ、そこにホロビの出現、外からの記憶捏造等のせいでユキの体はユキの意思とは違い強制的に休ませる事を選択した。つまりはきせつした。
「ユキさん!」
「おいユキ大丈夫かしっかりしろ。」
「どうやら疲労のようです。休ませれば大丈夫です。私が部屋まで連れていきます。お二人はここで待っていてください。」
そしてホロビはユキを抱き上げる。それはとても大切な者を運ぶように、素早く慎重に優しく抱き上げた。
「ごめんなさいでも許して。」




