19 黒竜装備
「·····」
マツ会長は、黙ってメモを見つめていた。このメモに書かれている商品は、表向きには販売しておらず、マツブキ商会でも一部の者しか存在を知らない物であったからだ。不思議に思ったセシルはユキに質問した。
「ユキさん、あのメモには何が書かれていたんですか?なんだかマツおじさんの用意がおかしいですけど。」
何と言われてもユキにも分からなかった。まさか変な結界に閉じ込められ、知らない少女がメモを渡してきて、そのメモを渡したなどと言っても信じてもらえるわけはなく、ユキは咄嗟に嘘をついてしまった。
「いや別におかしい物は、書いてないはずだけど。(頼むから変な物は書いていませんように)
まあなんとなく書いたから僕も何を書いたかよく覚えてないんだよ。あはは。マツ会長何か問題があるなら別の商品でもいいですよ。」
ユキは少し慌てていて少し言葉がおかしかったが、そんなこと気にならなかった。それよりメモについてユキは考えていた。
(一体あのメモには何が書いているんだ。もしかしてふざけて何も書いてないとか。それとも物凄く高い物とか。一体何が書かれているんだ。せめてメモを確認してから渡すべきだった。明らかにマツ会長がおかしい。どうすれば)
などと考えいるうちにマツ会長が喋りだした。
「いやすまないー。少し特殊な物が多くてねー。ここに書いてある商品は人を選ぶんだよー。その分性能は優秀だと思うんだけどねー。」
マサトはマツ会長の、発言に気になる部分があるみたいだ。
「優秀だと思う?なんだよ思うって。」
「だって未だにこれらを使いこなした人はいないんだもんー。私でも扱う事が出来なかったから多分、腕前は関係ないと思うんだけどねー。」
ユキは正直なんでそんな物を少女は、買わせようとしているのか分からなかったが、ここまで来たらいらないとも言いにくくなってしまった。ユキはしかたなくマツ会長にお願いしてみる。
「マツ会長。その商品見るだけでもさせてくれませんか。使えないなら仕方ないですし、思い出として見ることって出来ないですかね。」
ユキはあくまでも、その商品に興味がある感じを出しながら買えないと諦めている雰囲気を出した。
「まあそうだねー。とりあえずユキ君がそう言うなら見るだけ見てみるー。あっちなみにマサトとセシルちゃんは2人でも買い物でもしてなよー。私はユキ君と話したい事があるし、2人は親子の時間も取れると思うんだけどどうかなー。」
マサトはその発言にマツはこの件に関しては、自分を関わらせるつもりは無いようだ。それに自分もセシルと久しぶりに遊びたかった。最近ユキの事ばかりで少しセシルに寂しい思いをさせていただろうし、この件に関してはユキとマツの2人に任せることにした。
「ああ分かった。じゃあセシル俺達は買い物でもしてようぜ。何か欲しい物があったら買ってやる。いつもセシルには寂しい思いをさせてるしな。」
「パパありがとう。それじゃあ私新しい料理器具が欲しい。」
「そんな物で良いのか?もっとこう服とか、ぬいぐるみとか、あるんじゃないのか。まあそれは後で決めればいいか。」
どうやら話は決まったようだ。ユキは別にメモの商品に興味は無かったが、マサトとセシル2人の時間を作るためにマツ会長の話に乗った。
それからしばらくはオムライスを食べながら、4人で楽しい会話に戻った。そして食べ終わると、ユキとマツ会長、マサトとセシルの組み合わせに別れた。
「それじゃあマツ、ユキの事頼むな。」
「ああ分かったよー。2人は楽しんで来てくれー。」
2人は挨拶をするとマサト達はいつの間にか、いるNo.15と共に、最初乗った買い物ゾーンに向かって行った。
そしてユキとマツ会長の後を追いかけて行った。お互いに移動中は何も喋らなかったがしばらく歩いていると明らかに厳重な扉の前にマツ会長が止まった。
「ここだよー。例の商品が置いてあるのはー。」
「え、ここですか。そうなんですか。·····ところであのメモの商品ってなんなんですか。僕よく覚えていなくて。」
マツ会長はユキの事を少し睨むと扉を開けながら説明しだした。
「あのメモに書かれていた物は、全て魔神に関係する物だよ。まずは魔神が神と戦った時に使われたと言われる、名もなき剣。」
いつの間にかマツ会長の、話し方は変わっておりになっており扉を開けると1つの台があった。その台の上には1本の剣と服、ズボン、靴、の4つが置いてあった。
「そして魔神が創り出したと言われるブラックドラゴンと言われる竜で作った装備だ。」
ユキは驚いていた。
ブラックドラゴン、黒竜とも言われる。その能力は神や魔神と互角とも言われており、ブラックドラゴンが現れたら、国が総力を挙げて討伐にかかるほど危険な存在。レッドドラゴンは腕利きの傭兵や騎士達が100人程集まれば倒せると言われるが、ブラックドラゴンは国が総力を挙げても討伐出来る可能性は2パーセントと言われている。ほとんどの場合はある程度弱らせたら、封印し眠りにつかせる事に全力を尽くす。なので実際ブラックドラゴンで作った装備など存在するはずがないとユキは、今まで思ってきた。だが目の前に存在する。これが世界に知れ渡ったら、これを求めて戦争が起きるだろう。魔神が使っていた剣も気になるがユキはブラックドラゴンの装備に夢中だった。
「これらは、先程も言ったように普通の人には扱えない。故あってマツブキ商会が管理しているが、これを使いこなした者に譲っても良いと思っている。」
ユキはマツ会長が何やら言っているみたいだが、全く聞こえてなかった。そのぐらいユキは夢中だった。
そんなユキを見てマツ会長は心配になったが、当初の目的通りユキに触らせて見ることにした。
「少し触って使えるか確かめてみるか?」
「良いんですか!」
ユキは飛びかかるように反応した。元々ユキはブラックドラゴンが好きだった。世界では邪魔者のように扱われているが、おとぎ話ではブラックドラゴンは最終的には自分の力で神と魔神の戦争を止めようとした。世間では魔神を裏切ったなどと言われているが、裏切っててもやらないといけない事はあるとユキは思っており、それが出来たブラックドラゴンは昔から憧れだった。
一方マツ会長は、ユキにはそう言ったもののユキが扱えるとは全く思ってなかった。子供の経験に役立てばと軽い気持ちで考えていた。
「それじゃあ失礼して」
ユキはまずは服を上から着る。かなり大きめのサイズだったがユキが着た瞬間、ちょうど良いサイズになった。マツ会長は何やら固まっている。そしてブツブツ何か言っているようだ。だからユキは気にせずに、次はズボンを上から履いた。すると服と同じようにユキのサイズとちょうど良くなった。最後に今履いている靴を脱ぎブラックドラゴンの靴を履く。やはりユキのサイズに変わっていく。
「これがブラックドラゴンの」
ユキは喜びを感じていたら後ろから人が倒れる音が聞こえた。さすがにユキも気づいて後ろを振り向いた。そこには倒れているマツ会長がいた。
「マツ会長大丈夫ですか。誰か呼びましょうか。」
「いやいい、それよりもなんで着れているんだ。さっき言っただろう、それは普通扱う事は出来ないと。なのになんで。」
ユキはマツ会長の言葉を聞き初めて異変に気づいた。夢中で気づかなかったが、なぜ自分は着れているのだろう。ユキには理科出来なかった。
(まさかあの黒い少女の仕業なのか。でもまあどうでもいいか。結果として、ブラックドラゴンの装備を触れたんだから。)
ユキは一応剣の方にも触れて見た。別に何か起きるわけではなく、ただの剣だ。試しに鞘から剣を抜いてみても何も起こらない。もしかしてマツ会長の話は冗談だったのではと疑い始めた時、突然マツ会長が立ち上がった。
「素晴らしいユキ君。それは君に譲ろう。私が持っていても扱えないからね。君が持っていた方が実用的だろ。」
ユキは意味が分からなかった。ブラックドラゴンの装備を渡す何を言っているのか、もし展覧会でも開けばかなり儲けることが出来るのに、何を言っているのか。ユキには理解出来なかった。
「いやそれは嬉しいんですけど、さすがにそれは出来ませんよ。これを買うお金もありませんし。」
「いいやこれは君の物だ。私は感動した。まさかこれらを全て人が使っている所を見れるなんて、ぜひ受け取って欲しい。」
マツ会長は涙を流しながら説得している。だがユキもなかなか折れず、結局1時間ほどマツ会長に説得されたユキが受け取る事になった。
そしてマサト達と合流すべく買い物ゾーンに向かった。だがそこで起きていたのは50人ほどの強盗にセシルが捕まっている所だった。ユキは気づいていなかったが、外ではもう夕方になっていた。




