18 マツブキ会長
No.15が会長室の扉をノックする。
「会長、マサト様とそのお連れ様がご到着しました。」
「ああ分かった。直ぐに入れてくれ。」
部屋の中から許可が降りたようだ。マサトとNo.15は普通に、ユキとセシルは少し緊張しながら会長室に入っていた。
会長室に入るとそこには1人の男が椅子に座って待っていた。その男はその場にいるだけで、部屋の空気が少し下がるのではと思うぐらい、威圧感があり、顔や服の隙間からは傷が見えており、歴戦の戦士と言われて頷くだろう。
(この人がマツブキ商会の会長なのか。嘘だろ商人じゃなくて盗賊団の頭の間違いじゃないか。)
「No.15ご苦労、下がってくれ。昼食が終わったらまた呼ぶ。」
男の声は扉越しでは分からなかったが、物凄く渋い声で処刑人が死刑囚にかける言葉のようだった。
「かしこまりました。では会長、失礼します。」
No.15は、簡単な挨拶をすると直ぐに、部屋から出ていった。それを見届けると男は椅子から立ち上がりこっちに向かってきた。そしてこちらに歩いてきた。
「さて、マサト··········会いたかったよー。最近仕事が大変でなかなか会えないんだよー。」
「え?」
ユキは、今目の前の男が何を言ったのか分からなかった。それでも男は話を続ける。
「もう半年ぐらい会ってなかったよねー。セシルちゃんも久しぶりー。もうこんなに大きくなって、子供の成長は早いねー。あっもしかして覚えてない?私だよー。マツおじさんだよー。」
「覚えてるよマツおじさん。さっき見た時もしかしてって思ったけど、もしかしてマツおじさんがここの会長さんなの?」
マツはセシルに覚えてもらっていて喜んでいる。スキップまでしており、ユキはその間にマサトとセシルに話を聞くことにした。
「なあ2人とも、あの人とはどんな関係なんだ。結構親しいみたいだが、もしかして本当にあの人がマツブキ商会の会長なのか?」
「ああ今あそこでスキップしながら、喜びを表しているのが、エルランド王国一と言われるマツブキ商会の会長だ。ドンママが忙しくてセシルの面倒が見れない時は、セシルの事をこいつが代わりに見てくれてたんだ。」
「はい。いつも良くしてくれてとても楽しい人です。でもまさかマツおじさんが会長さんだったなんて。今まで知りませんでした。」
ユキはなんとなくマツ会長の事が分かった気がした。するといつの間にか、マツ会長はユキの手を握っていた。
「君がユキ君だねー。話はマサトから聞いているよー。新しい家族なんだってねー。私のことは親戚のおじさんとでも思ってくれよー。」
ユキはマツ会長の顔を近くで見て一瞬気を失いかけたが
「あ、はいありがとうございます。どうか今後ともよろしくお願いします。マツ会長。」
となんとか簡単にだが挨拶をすることが出来た。
「さてマツとユキの挨拶も終わった事だし、さっさと昼食にするか。まあかなり遅めの昼食だがな。用意してるんだろマツ。」
マサトはマツ会長に馴れ馴れしく話しかける。本来ならそんな発言は昼食をご馳走される側が、
言うべきことではないが、マツ会長は気にしてないようだ。
「ふふふ。よくぞ聞いてくれたー。でもなかなか来ないからせっかく用意した料理が、無駄になるんじゃないかと心配したよー。」
マツ会長の言葉を聞いた遅れた原因を作った2人は黙って下を向いている。その様子を見たマツ会長はなんとなく理解したようだ。
「まあ別に来てくれたならいいけどねー。それより早く料理をお見せしよー。」
「「「なにこれ?」」」
マツ会長に連れてこられ、会長室の隣の部屋に着いたユキ達は一斉に同じ事を口にした。そこにあった料理は世間一般ではオムライスと言うのだろう。ただし自分たちの身長を超える大きさで無ければ。自分の想定通りの反応をした3人を見てマツ会長は満足そうだ。
「レッドドラゴンの卵を使ったオムライスなんて世界でも食べた事がある人なんて私達ぐらいだよねー。」
「いやこんなでかいオムライスどうやって食べるつもりだよ。」
「·····」
「·····」
「·····」
「·····」
マサトからのツッコミに対して誰も言い返す事は出来なかった。
結局余った分は職員達のまかないになる事にすると決めてとりあえず自分たち分だけ4人は食べる事にした。
4人で楽しく会話しながら食事をしていると、ユキは疑問に思っていた事をマサトとマツ会長に聞いて見ることにした。
「なあマサトちょっといいか。」
「ん?どうしたんだユキ。」
「とりあえずマサトがなんでマツブキ商会に入れるのかは、なんとなく分かったんだが、買い物をすると決めたのは今朝だろ。どうやってマツブキ商会に連絡したんだ?こんな巨大なオムライスを作ってる時点で何かしらの連絡手段が、あったみたいだけど。」
ユキはずっとおかしいと思っていた。いろんな事がありすぎて少し忘れていたが家からマツブキ商会まではいくら、大人で歩くのが速いとはいえ10分はかかるだろう。それにマサトはずっと家にいた。どのように連絡を取りあったのか疑問に思っていた。
「それはだねユキくん。」
マサトに聞いたつもりだったが、マツ会長が答えるようだ。そしてユキはマツ会長と最初に会った時と同じ雰囲気を出していた。
(なんなんだこの人初めは怖そうな人だと思ったが、結局は優しい人だったのかと考え始めた先にこれだ。話し方も元に戻ってるし一体なんなんだよマツ会長って。)
「私達の特訓の賜物だよ。まずマサトが空に魔法を放ちそれでメッセージを送る。そして私がそれに気がついたら、私も空に魔法を放ちメッセージを送る。これで私達は連絡を取りあったんだよ。私達5人にしか分からない暗号としてね。」
どうやら何か深い事情があるみたいだ。ユキは軽々しく話を聞いた事に後悔した。なんとか雰囲気を戻すためユキは何か話題を出そうとするが、何も出てこなかった。そんな時に自分のポケットに入っているメモの存在を思い出した。
「そう言えば今日は僕の物を、買いに来たんですけど、マツ会長このメモの商品ってありますか。」
「ユキさんいつの間にメモなんて取ってたんですか。」
セシルが不思議がっている。当然だ、このメモは黒い少女がユキに渡した物であり、ユキはメモなど持っていなかった。
マツ会長はメモを受け取るとそこに書いてある物は全て表向きには販売していない大昔、魔神や魔神に味方した者たちが使っていたと言われる物だった。




