2章 第6話
ヘンリー様と別れてディナーの席へ着くべく着替えをしようと滞在している客室に向かった。城に勤めている貴族の令嬢がすれ違いがてら挨拶をする。
「ご機嫌様。……もしかするとピアチュービュレの元女王陛下でしょうか? ひっつめ髪に分厚い眼鏡……くすくす。すいません。あまりにも質素な装いで、気付きませんでした」
私は貴族の一見優しい言葉の嫌みに一瞬言葉を失った。2人目の令嬢が悪い笑みで加わり、くすくす笑う。2人とも豪華なふりふりなドレスに茶髪を縦ロールに巻いたり、宝石を髪にちりばめたりと夜会の様な装いだ。
私の実用性重視のシンプルな装いと比べると、私の方がどうしても劣るだろう。が、アンナ・フィオーレは身分の低い者より見た目が劣って様が恥だとは思わなかった。
自国の男は見た目がどんなでも女性を平等に扱うし(私以外)、女は自己満足で容姿を磨いてはいるが、私の場合は無駄だと割り切っている為に、容姿を磨くというか着飾らない。敵と認識した場合は権力を見せつける為に着飾る必要はあるが……。目の前の令嬢を敵にするつもりは毛頭無いので、着飾って威嚇する気は無い。
(これが嫌味? これが嫌味?)
アンナ・フィオーレは『女性からの嫌味』は可愛らしいモノに思える。悲しくも母親から鬼教育を受けたからだ。
(良く考えないと分からない柔らかな表現。自分の嫌立ちを他人に真っ直ぐに刺さらない様に柔らかく表現する努力……素晴らしい!)
私は感激のあまりに言葉を失ったのだ。
それを落ち込んでると勘違いした令嬢はくすくす笑う。
「大国の王族は控えめなのですね」
(控えめ……)
私は感激のあまりに打ち震えた。
「私。貴女達の事が好きになりそう」
令嬢2人は口をあんぐりとみっともなく開けた……素早く扇で隠す。
「強がりですか?」
私はニッコリ笑った。心からの笑顔だ。
「さあ?」
令嬢2人はズキューンと謎の衝撃を胸に受けた。
(く、苦しいっ!?)
胸を押さえて2人は「覚えてなさいっ!」と立ち去った。
仲良く出来そうだと私は表情を緩めたのであった。
滞在している客室に辿り着くと、部屋の雰囲気が変わっていた。扉を開けると居間の部分となる部屋なのだが、カーテンの柄、ソファーの布地、絨毯などが変わっていた。
部屋の隅では大きな風呂敷に入った何かを抱えた涼しい顔の侍女がいた。
私は侍女にどうして部屋が模様替えされているのかを聞いてみた。侍女は無表情のまま答える。
「ルーナの貴族からの贈り物です。折角なので変えてみました。……お気に召されませんでしたか?」
(なるほど……ルーナの貴族は家具類を贈るのね)
「贈ってくれた貴族にお礼をしないとね」
(後で、何を贈るのかヘンリー様にご相談しましょう。ルーナとピアチェーヴォレでは習慣が違う様ね)
侍女は首を横に振った。
「必要ないかと思います。名前も出さずに贈られた物です。恥ずかしがり屋なのでしょう」
(……何かおかしいわね。うちの貴族といえば、贈り物をする時は懸命に名前をアピールするのよね。お礼が欲しいのと、心象を良くしようと必死なのよね。……まぁ国が違えば文化(?)も違う様ね)
私はとりあえず「分かったわ」と頷いた。侍女がほっと息を吐いたのは気のせいかしら?




