2章 第5話 好戦的な侍女。短絡的なメイド。支離滅裂なナンパ貴族達。
侍女は廊下をきびきびと歩いていた。本当は衝動のまま走り出したかったが、大国の王女付きの侍女が端ない真似をしてはアンナ様の面子が潰れてしまう。ここはぐっと堪えるべきだ。
すれ違う貴族の目がニヤついてるのは気のせいではないだろう。
客室もといアンナ様の滞在するお部屋の前に着いた。扉を僅かに開け確かめる。
……なるほど。
表情に出さずに静かに客室に入った。部屋の惨状は酷いものであった。すぐさま荷物をチェックすると、流石にそこら辺は分を弁えていたそうだ。だからといって許される筈は無いのだが。
厨房にいたメイドがしつこかったのは、時間稼ぎだったのか。コック見習いがメイド軍団が恐ろしいと言っていたのはこの事か。
侍女は静かに闘志を燃やした。
女同士の戦い……いいじゃないの。受けてやるわ。アンナ様には隠し通してみせる。この事を知ったら傷つくでしょう。あの方は優しいから。
……ここがピアチェーヴォレならナンパ男を上手い事利用するところだが、どうやらナンパ男はこの国にはいなさそうだ。ならば、別口で協力者を見つける。私は他国の人間だし、これは一人では恐らく無理だ。護衛はアンナ様から外せない。ならば、見習いコックはどうだ?
即断即決。侍女は直ぐ様行動を起こした。
厨房へとお茶のコップを返す程で向かった。コック見習いが空のコップを回収して洗っていた。思わずニヤリと笑った。
「これもお願いします」
「はいよー。って君はさっきの!」
「貴方が言いたいことが分かったわ。協力してくれない? もちろん礼はするわ」
「え!? 何の事!?」
「惚けないで下さい。メイド軍団が恐ろしいと言ってたじゃない。それって、私のご主人様に危害を加えるって事でしょう?」
「ええええ!? メイド軍団でも、それは流石にっ!? いやっ! あり得るっ!?」
「……まぁ。良いわ。貴方に協力して欲しいのよ。礼はデート1回でどう?」
「……協力って。別に良いけどさ。礼がデート1回ってどれだけ自分に自信があるのさ」
「は? デート1回で喜ばない男がいるの?」
「君の周りは一体……」
おかしい。この男はおかしい。未婚の女とのデート1回って普通喜ぶでしょう!
「君の常識は置いておくとして、ご主人様ってアンナ様だよね? 大国の王女様に危害を加えるとか国際問題に発展しかねないし、そうなると僕も職を失いかねないからね。どう考えても君に付くのが賢明だね」
へぇ。賢い人は好きよ。
「じゃあ宜しくね。早速だけど、貴方が知っているメイド軍団の情報を全て教えて」
メイド軍団はいつも通り井戸端会議もとい、仕事をサボっていた。
「過激派の連中に頼まれた仕事。案外、楽だったわねー。大国だからびびったけど、私達は素知らぬフリをすれば良いし。困るのは、王族だし。偉そうな女に酷い目を合わせれるし、願ったり叶ったりだわ」
「あんたシーツびりびり破りすぎっ! 愉しんでんじゃないわよっ! 気持ちは分かるけどね」
「あの侍女の底が知れないけど、ここは私らの国。他国ではあの侍女も手も足も出ないわね」
「……やめてよ。思い出すじゃない」
「……何だか悪寒がする」
ナンパ貴族達は、知恵熱から復活し、以前の様にナンパに勤しんでいた。
「君の冷めた視線に俺の熱は冷めたぜ」
「……その寒い台詞、久しぶりに聞いたわ。意味が余計に分からなくなってるわね」
「今すぐ手を握ってくれないと寂しくて死んでしまいそうだ……」
「すいません。気持ち悪いので死んで下さい」
「胸の動悸が止まらない……君のせいだ」
「……今すぐ止めてやろうか?」
今日も振られたナンパ貴族達。いつもなら次に行くのだが、何だか調子が悪い。
いつもなら、ドS女王が叱ってくるのにそれがない。
寂しいなぁ。
「なぁ。アンナ様元気にしてるかな?」
「そりゃ、好きな人のとこにいるんだ。元気にしてるだろう」
「しかし、姑にいびられたりして。嫁って嫁ぎ先で洗礼を受けるらしいじゃん。おまけに他国の人間となるとそれはもう厳しいだろう」
「ひぃいいい! 可哀想! アンナ様が虐められてるなんて見たくない!」
「おいおい。ヘンリー王子が何とかするだろう。心配しすぎ」
「何言ってんだ馬鹿! 男が女の戦いに参加出来ると思ってんのか? 女の陰湿さに男が敵う筈がないだろう!」
「アンナ様ー!! アンナ様が陰湿に虐められてるー!!」
「ならばっ俺らが助けるしかないだろう!! 行くぞ野郎ども!!」
「「おおー!!」」




