2章 第4話 悪友。
叫びたい。猛烈に叫びたい。私の心が猛烈に叫びたがっていた。
侍女が来てよかったと安堵する自分がいれば、もう少し遅くでも良かったと文句を言う自分もいた。
説明の難しいその感情は、何故か叫びたいという気持ちにさせた。しかし、しかしだ。叫んだらどうなる? 間違いなく状況は悪くなる。
叫べない分、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ!
仕方なく私はその場に蹲った。こうすれば、真っ赤な顔を隠せる筈。
しかし……
「大丈夫ですか?」と私の顔を覗こうとするヘンリー様。
「何かされました?」ヘンリー様を退けようと腕を伸ばす侍女。
益々、私は縮こまったのだが、気に食わない男の笑い声が聞こえた。
「くくくくくっっ。 あっはっはっはっはっ!」
? この偉そうな声はクローヴィスか? まさか? 何故?
訝しんだ私は高笑いをする男を見上げた。そこにはお腹を抱えて笑ういけすかない王太子がいた。
「……いや失礼。くっ。いかん。笑いが止まらん」
「失礼と思うのなら、早く出て行って下さらないかしら?」
不思議だ。このムカつく相手が現れたら冷静になれた。……全く嬉しくないが。
口の端が上がり気味のクローヴィスは愉しげに喋る。
「そう言うな。俺は個人的に友人を祝福したいと思って来ただけだ」
「友人?」
ここにクローヴィスの友人がいたのか?
「……クローヴィス。君の場合はただ、からかいに来ただけだろう」
……!? 友人って、ヘンリー様!? 嘘っ!?
私は、悪い人を友人にしてはいけないとヘンリー様にこそっと助言した。
クローヴィスはダメでしょう。間違いなく悪友だ。悪い道へとヘンリー様を導くに決まっている。
何とも言えない顔をするヘンリー様。クローヴィスは得意げに「俺たちは友人だよなぁ」と何故か私に見せつけるようにヘンリー様の肩に手を置く。
……悪い道に行かない様に消すか。
「アンナ様、物騒な事を考えないで下さい。大丈夫ですから。クローヴィスは悪い奴にしか見えないけれど、それはわざとですから。ただ、カッコつけてるだけです」
クローヴィスを庇った!? な、なんだとっ!?
「ふんっ。男ならばカッコつけなくてどうする?」
お前は黙ってろ。
「あの〜。あっいたいた」と開けっぱなしの扉を潜る護衛が私の侍女に駆け寄る。こそっと耳打ちされた侍女は苛ついていた表情からハッと驚きの表情を浮かべた。
「何かあったの?」と訊いてみたが、「いえ。大した事ではありません。すいませんが、暫くお側を離れます。くれぐれも護衛から離れないで下さい」と部屋を去って行く。
その様子を見てニヤつくクローヴィスに、少し焦りを見せるヘンリー様。
……何かあったのかしら。
「ふんっ。まぁ精々頑張るんだな王女様。王子様に友人として助言しておく。ピアチェーヴォレ人を甘くみない方がいい。彼奴らは、状況をあっさりとひっくり返す。そこの王女様もだ。心配するだけ無駄だ。まぁお前の性格からして、言っても無駄なんだがな」
そう意味深に言い残して、俺様王太子は去って行った。
……二度と来るな。
ヘンリー様は「うん。心当たりなら一杯あるね」と苦笑いを浮かべていた。
「ヘンリー様。どうして、クローヴィスと仲が良いのですか?」
ヘンリー様とクローヴィスが仲が良いと思うと胸がモヤモヤした。
「うーんと、あっ敬語にっ」
「タメ口でお願いします」
「へ? タメ口で良いの? では、アンナ様もタメ口ね?」
「はい……じゃなくて、うん」
ヘンリー様はにこっと笑った。
クローヴィスにタメ口だったのが気に食わなかったのは此処だけの話だ。
「クローヴィスが良くここに遊びに来るだけなんだけどね。クローヴィスって母が騎士だったから、他の身分の高い母に良く命を狙われてたんだ。だからか、貴族とか王族とか偉そうな人が嫌いでね。それだと、俺も入るはずだけど、俺って特殊だから、まぁ同類だと感じたのかもね。俺もクローヴィスには共感する事が多いし、気が合うってやつだね」
「全然似てないと思う」
「そう?」
「うん。全然似てない」
あの傲慢男とヘンリー様を一緒にしてはいけない。
「……そっかぁ。俺って頼りないからね」
「そういう意味では無く、ヘンリー様は優しいから」
「……うーん。ありがとう」
何故か苦笑いを浮かべてる。言い慣れてる感がある。どうしたら、自信を持ってくれるのかしら?




