第35話 イケメングランプリ。
バンッ バンッ バンッ
青空に火薬玉が打ち上げられる。
褐色肌に黒のツイテールの美少女が野外ステージ上で観客に呼びかける。
「さあさあ! 皆様今から待ちに待ったイケメングランプリが始まりますよ! 準備は良いですか?」
「「「「「はぁああいぃいい!!!」」」」」
ピアチューヴォレの男達は全力で叫ぶ。関係者席に座るジーノも本能のままに全力で叫んだ。
司会の美少女は耳に手を当て満足そうに頷く。
「元気いっぱいの返事ありがとう! 皆はもう見てると思うけど、この紙に書いてある丸文字は私が書きました!」
関係者席に座る元王妃はにやりと笑った。
「やっぱり〜!」と納得の観客達。
「今回のイケメングランプリは何が起こるか検討もつきません! 何せ、いっつも賄賂を贈って出場者を削ってくる貴族が減ったのです! 理由は何と『仕事で忙しい』からだそうです! いつも年中ナンパに走っていた彼らが仕事をまともにこなしてるという衝撃的な目撃情報が多数入ってきてます! そして、いつもサボってるのに突然仕事をしだしたというギャップにご婦人方がどう反応するかが注目されてます! 楽しみですね!」
観客席に座る女性陣は「あれには驚いたわ」と頷き、男性陣は「お金欲しかった」や「普段から仕事しろ(お前もな)」と不満の声が上がる。
「ピアチェーヴォレの皆様はもうご存知だと思いますが、ルールをおさらいします。選手は男性。イケメンだと思う男性に女性は投票して下さい。いつもはピアチェーヴォレ人限定ですが、今回ゲストととしてロベルト様とヘンリー様が参加なされます。どちらかが一位になると我らの女王アンナ様との結婚が決定します。年中モテないと愚痴る女王様に春は訪れるのか? 女王様の隠れファンの女性方が涙を流すのか注目です! 他の選手が一位になると今をときめくトップ女優アウロラ様と一日デートをする権利が貰えます。妻を賞品にされたフィデリオ様がブチ切れて貴族達に八つ当たりする姿がちょっと前に見られましたが……最近付き物が落ちた様に優しくなりました。これにはアウロラ様は不満です。焼き餅を焼いて欲しかったそうです。はいでは前置きはこのぐらいにして結果を発表しま〜す!」
「「「「「うぉおおおお!!!」」」」
「第10位、漁師のおじさんのコラード様。ストイックに魚を釣る姿に惚れる女性陣続出。『イケメンは飽きた。あの渋さが堪らない』そうです。第9位、農家のおじさんのヴェルディ様。ストイックに土を耕す姿に惚れる女性陣続出。『イケメンは飽きた。あの渋さが堪らない』そうです。(以下6位までほぼ同文) 振り返ってみますと、全員平民ですねー。やはり圧倒的な数がいますし、貴族の妨害が減った事が大きいですねー。そして、イケメンは飽きたと……お気持ち察します」
「「「「「えええええっ!?」」」」」
イケメン達は飽きられたと知ってショックを受けた。
「はいでは、5位です。アンナ様とフィデリオ様……ちょっと待って下さい。アンナ様は女性ですし選手じゃありませんよ。えーと、『いつもアホな夫を叱ってくれて感謝してます。アホな夫をクビにしないでくれる2人に頭が上がりません』と……確かに年中ナンパしてる貴族達を何でクビにしなかったんですかね? なるほど、その優しさが良いと言うわけですね。これには納得です。それと、『冷ややかな視線がたまらない』だそうです。えーと、コメントは控えさせていただきます。次は4位です。クローヴィス様……だから選手じゃねーっあっ。失礼しました。おほほほほほ。えーと、『隣の芝生は青く見える』……つまり関わりのない男性は良く見えると言う訳ですね。『引っ張ってくれる男最高』……うん。分かります。何でこうもヘタレが……あっ何でもありませんよ」
ヘタレと聞いて多くのピアチェーヴォレの男性が首を傾げた。(お前達だよ)
「では注目の第3位です! なんとヘンリー様です! くぅううう! 1位じゃない! 悔しい! 私はこの方に投票しました。アンナ様には幸せになっていただきたかったけど、残念です。えーと、ふむふむ。私と同じ気持ちで投票した人が多いですねー。『魅力云々は置いといて、アンナ様を愛してくれる男性はヘンリー様しか考えられない』との事です。本当ですね! 悔しい気持ちは置いといて、次は2位です! ロベルト様! あれ? 変人画家なのに意外と上位ですねー!
『前髪切ったらイケメンとか、どこの本のヒーローですか?』と……はい。実は私も姿を拝見しましたら、おじいちゃんからイケメンに変貌してました。驚きです。『無関心な視線にドキドキする』……女性陣の深い闇を感じます。はーい! ではちゅーもーく! 1位の方はこちらの方でーす!」
ドラムがドドドドドドと響き、ジャンッとシンバルが響く。
赤いカーテンが開きステージ上に姿を現したのはイケメン俳優だった。気まずそうに「どうも〜」とペコペコと頭を何度も下げる。
観客達は冷ややかな視線をイケメン俳優に向けた。一人その妻は満足そうに腕を組んで「流石私」と頷く。
観客達は思った。空気を読め。
関係者席でずっと静かに俯いてる女王様の事が気になる者が多かった。
司会者は仕事なので元気良く優勝者に話しかける。
「おめでとうございます! アウロラ様とのデートの権利を貰えた気分は如何ですか?」
「えーと、やべぇです。この空気がなんとも……はい」
「嬉しいんですね〜。投票した女性からは『その妻が怖い。脅された』『イケメンは飽きたんだが、その妻が怖いので渋々投票した』とコメントがありました。あれ〜? どういう事ですかねー?」
観客席のイケメン達が叫んだ。
「「「「「不正だ!!!」」」」」
不正を働く。自分達もやっといてそれを棚に上げたイケメン達であった。
イケメン達の叫びに司会者は困った表情を浮かべた。
「どうしましょうね〜? 主催者の元王妃様のご意見を伺います」
「……不正はいけません。しかし、私は姑息な手も実力の内だと思います。後の判断は選手に任せます」
「だそうです。どうします? 棄権します?」
暗に棄権しろよと暗いオーラを放つ司会者に顔が引きつるイケメン俳優。
正直なところ、アウロラとのデートは魅力的だが、アウロラはフィデリオが大好きなので、楽しくデートが出来るとは思えない。正直なところ棄権したい。だが、さっきから妻が「折角優勝したんだから棄権するなよ」という仄暗いオーラが怖い。
考えろっ俺! この空気をどうにかするんだっ! この空気の原因は恐らく、あの暗い表情の女王様だ! 何であんなに暗いのか知らないが、弟のジーノ様が今回の大会に乗り気では無かった! という事はどういう事だ? 全く判らない! ヘンリー王子がこの場にいないのもおかしな話だ。 ……もしやアンナ様はヘンリー王子が好き? ならばっならばっ
「棄権します!」
俺はその障害になってたのかぁああ!!
衝撃の事実であった。
妻は「チッ」と舌打ちするが、それだけだった。
司会者はにっこりと笑う。
「ご英断ですねー。素晴らしい。ではお次のロベルト様。貴方はアンナ様と結婚出来そうですが、それで良いのですか?」
関係者席でロベルトは首を傾げる。
「絵が描ければ何でも良い」
司会者は拳を握った。
「では決まりました!! 今回のイケメングランプリ優勝者はヘンリー王子です!!」




