第32話 ナンパに走る女王と優しい宮中伯。※ガールズラブ要素あります。
苦手な方は飛ばしても大丈夫です。
ジーノは頭を抱えていた。
あの2人に一体何があったの?
姉の執務室の窓から外を眺めると……
赤髪の眼鏡をした理知的な瞳のドレス姿の女性が己の侍女に言い寄っていた。
「ふふふ。いけない子ね。仕事を理由に私から逃げようとして……そんなに私を困らせたいの?」
言い寄られたというか木の幹に追い詰められた侍女は顔を真っ赤にして困っていた。
「そ、そんなつもりではっ!」
「あらあら随分と生意気な口をきくのね。その口塞いであげようかしら?」
指が侍女の顎に触れる。
……これ以上は見てられない!!
危険を感じたジーノは窓から目を離して室内を見た。
そこにはにこにこと笑う不気味な宮中伯がお盆の上に載せた紅茶を仕事中のナンパ貴族に出していた。
「お仕事お疲れ様です。おやおや、仕事なんてしてないで遊んだらどうですか? 外はこんなにも晴れてます。絶好のナンパ日和では?」
フィデリオは普段なら絶対にナンパ貴族達に話しかけない上に空気として扱う。のだが、目の前の慈悲深い方は誰だ?
しかも仕事なんてって言ったよ? あの仕事の鬼がだよ? あり得なくない?
ナンパ貴族達はびびって「え? だ、大丈夫です。ナンパは間に合ってます」と顔を引きつらせた。
ナンパ男が仕事をしている事にも驚きだ。というジーノも姉のデスクで仕事をしている。天変地異でも起きた気がして普段は絶対にしない仕事をするナンパ男達。とにかく、怖い。仕事をしない姉上とフィデリオが怖い。少しでも気を紛らわせようとナンパ男達は仕事をした。
姉なんてあれって本性の一部だよね? あの人は理性を失うとああなるんだよきっと。あんな姿初めて見たけどね!
常に理性を失ってナンパしていた弟だからわかる事であった。
男をナンパしない辺りに、男への失望が感じられる。ジーノは姉がとっても心配になった。
「フィデリオ。姉上は一体どうしちゃったの?」
多分理由を知ってる不気味な宮中伯に訊ねた。
「さあ? 私には全く見当もつきません」
……良い笑顔であった。フィデリオがこんなに優しいのに知らない筈がない。要は話したくないらしい。
姉上に影響を及ぼせる人物といえば……
「まさかヘンリー王子と何かあったの?」
フィデリオは良い笑顔のまま固まり手からお盆が滑り落ちナンパ貴族の頭の上落ちた。
カコンッ
「いてっ」
ナンパ貴族はちょっと涙ぐんだが気にせず仕事に向かった。
やはりヘンリー王子の所為だったか……。うぅっ。姉上を問い詰めないとなぁ。何より侍女を助けないと色々と危険だ。
ジーノは渋々書類仕事を中断してナンパ人と化した姉の元へ向かった。
「ジーノ様お助けを!」
女王に追い詰められ顔を真っ赤にし半泣き状態の侍女は現れたジーノに助けを求めた。
「なあにジーノ? 邪魔するなんて無粋ね」
侍女の頬を掌で包む姉は眉を潜めて僕を見た。僕を「邪魔」だと主張する。
それを見た僕の頭はとても冷静であった。
あの侍女、やろうと思えば逃げれるよね? 実は満更でもない? ぶるりっ。
僕はこれ以上進ませてたまるかっ!? と姉に詰め寄った。
「姉上! やめてよっ! 彼女が怯えてるじゃん!」
姉は侍女から手を離すと侍女に「そうなの?」と問う。侍女は「えっえっとその、怖い様な嬉しい様な……」としどろもどろに答える。
だから! それ以上は進ませないからね!
ジーノは強引に姉をこちらに向かせた。
「君は向こう行って! これは命令! 良いね!」
「は、はいっ!」
侍女は名残惜しそうに去っていく。
……もう良い加減にして!? なんで僕がまともな人みたいになってるの!? 馬鹿なの!?
僕は不満そうな姉に詰め寄る。
「あのねぇ。ヘンリー王子と何があったかは知らないけど、良い加減に元に戻って? この事を母上が知ったら大変だよ?」
まあ母上が姉上に厳しいのは愛の鞭何だけどねー。姉上は多分気付いてないな。
僕の言葉に姉は見るからに憔悴した。
「……どうすれば良いか判らないの」
へ? だから元に戻れば良いだけなんだけど?
次の瞬間僕は驚愕した。
あの弱みを見せなかった姉が初めて僕の前で泣いた。
ど、どうしよう。
僕はどうすれば良いか判らなかった。
この時に思い出したのはルーナの末姫だった。
『私の胸を貸します。だから、思いっきり泣いて下さい』
僕は恐る恐る姉を抱きしめた。姉は抵抗しなかった。
姉は泣き続けた。
あーあ。ヘンリー王子の所為だ。
僕はある重大な選択を迫られた。姉を解放してあげるかどうか。この姉は見ていたくない。今までの姉だって苦しんでいた。でも、ヘンリー王子の前だと違った。生き生きしていた。
もう本当僕らしくないなぁ。




