第31話 傷痕。
執務室に意気消沈した女王と宮中伯がいた。女王は1人掛けの椅子の背もたれにぐったりもたれ眼鏡を外し目元を掌で覆う。宮中伯は靴を投げ出し長いソファに投げやりに寝転がる。壁際には護衛がいる。その護衛はいつもとは明らかに違う2人の様子に目を丸くする。
女王は疲れた声で喋り始めた。
「……あれはどういう意味か分かる?」
宮中伯も疲れた声で喋り始めた。
「……愛の告白……の筈」
愛の告白と聞いて護衛の目は輝いた。ルーナの王子が女王との結婚を望んでいるのは城では有名な話だ。きっとルーナの王子が女王に告白したんだと思った。この女王はモテないのを気にしていたから、嬉しいんだろうなとピアチェーヴォレ国では珍しい女王を気遣うことができる男な護衛であった。
女王は再び疲れた声で喋り始めた。
「……ルーナの民を愛してると言って私はお慕いしてますだった。どういう意味か分かるか?」
宮中伯は再び疲れた声で喋り始めた。
「……ルーナの民が一番で陛下は二番目という意味に聞こえますね。実際、帰りましたし」
それは愛の告白じゃない。
護衛はがっくしと肩を落とした。
女王は再び疲れた声で喋り始めた。
「……やはりそうか」
宮中伯は再び疲れた声で喋り始めた。
「……ヘンリー様をなめていました。あれはある意味、最強です」
女王は再び疲れた声で喋り始めた。
「……そうだな」
宮中伯は再び疲れた声で喋り始めた。
「……仕事する気無くしました」
女王は再び疲れた声で喋り始めた。
「……私もだ」
護衛は2人の発言に衝撃を覚えた。仕事人間……最早仕事の鬼と呼ばれる2人が仕事を放棄。……有り得ない。
この2人は仕事が無くて苛々していた時がある。むしろ、仕事が山積みで徹夜必須な時はご機嫌であった。遊んでばかりのナンパ男達が仕事をしろと怒られて反省しないのはそのせいでもある。
この2人から仕事を盗ったら何が残るというのだっ!? ただの鬼だろっ!
真面目に失礼な事を思う護衛はかつてない場面に耐え切れなくなり執務室から出て叫ぶ。
「女王陛下とフィデリオ様がご乱心だーーっ!?」
小国の王子の奇想天外な行動により、大国の女王と有能な宮中伯はストライキを起こした。
その影響は凄まじく、ナンパばかりする貴族達がびびって仕事をまともにするという奇跡が起こった。




