第23話 もっとも恐ろしい試練。(ピアチェーヴォレ限定)
(これよりヘンリー王子目線になります)
アンナ様に無事靴を履かせる事ができ俺は安堵の息を吐いた。俺が支える横で真っ赤になって固まる女王様に靴を履かせるのは大変だけど、楽しかった。好きな女性のお世話は全然苦にならない。
もっと構いたいな。
「ヘンリー王子。お久しぶりね。我が娘と仲がよろしくて大変結構。ところで、あの時の忠告を守ってらっしゃるかしら?」
アンナ様のお母様は扇で口元を隠しながら俺に問いかけた。目は弧を描いているが、決して笑っていない。
あの時の忠告とは、『娘にくれぐれも惚れないように』と舞踏会で俺に言った言葉だ。
「いいえ。俺は忠告されたからと言って自分の気持ちを変える事など出来ません。元王妃様。貴女は忠告を受けたからと感情を変える事は出来ますか?」
「なるほど。馬鹿な質問をして悪かったわ。では、娘と結婚する事は諦めて頂戴」
冷たい目だった。でも、俺のことを試している?
「諦める事は出来ません」
俺はアンナ様を見た。ぶ厚いレンズ越しに不安げな瞳を見た。安心してもらおうと彼女の手を取る。冷たい手だったけど、俺の手が暖かいから握ると丁度いい。
「彼女が俺を求めている限り絶対に諦める事はありません」
にこっと笑いかけるとアンナ様はそわそわと落ち着かない様だった。
逃げない様子に安心した。元王妃様がいるからだろうか? アンナ様はこの方に怯えている?
元王妃様はパシンと扇を閉じた。
「ふん。貴方の事は調べさせて貰ったわ。とても、お行儀のよろしい事で、大した事のない凡人というところかしら。その様な毒にも薬にもならない人に娘を渡すわけにはいかない」
「お母様っ!? ではロベルトは何だって言うのですかっ!?」
ロベルト? 聞いた事があるような……。
元王妃様の横に空気の様に立つひょろ長い男を見て俺は衝撃を覚えた。
小さい頃、絵を描くこの人の側で遊んでいた。
「お、叔父さんっ!?」
「……元気そうで何より」
俺の事を見て無表情でそう言った。
「な、何で此処に? 俺の父が心配してたよっ!」
「悪いけど、帰る気は無い。そう伝えて」
「そんな……」
胃潰瘍で入院中の父は時折叔父さんの名を呟いていた。胃潰瘍治るんだけどね!
「ヘンリー様これはどういう事ですか?」
「そこの方は俺の叔父さん。つまりルーナ国の王弟です。もう10年以上は行方不明だったんだ」
アンナ様は目を見開いた。
「ならっ尚更っ何故同じルーナの王族なのにヘンリー王子は駄目なのですかっ!?」
「貴女は知っているでしょう? 彼の能力を。それに引き換えヘンリー王子には何もない。まさに無能。どちらを選ぶかは明白」
能力? それは妹の様に人の心の声が聞こえるような?
思い当たる点があるのかアンナ様は黙り込んだ。
これは……俺にも思い当たる点がある。男が王になる事の多いルーナ国。でも、次期国王に指名されたのは俺でもなく第一王女である姉。
役立たず。無能。そんな陰口を叩かれていたが、そういう事か。俺だけが、無能だったんだ。
「不思議な能力が無いからと無能と決めつけるのは早計ですよ。聡明な元王妃様らしくない」
たかだか、普通はありもしない能力を持たなかったら何だというのだ。大事なのは能力があるかどうかじゃないだろう。
「妹は苦しんでましたよ。その能力とやらに。でも、今は違います。何も持たない筈のこの国の人達に救われたのです。そう、ジーノ様を含めた方々に。愛息子であるジーノ様の事まで無能と言えますか?」
挑発しすぎたかもしれない。アンナ様の味方でないと思うとつい攻撃的になってしまった。
「ジーノは無能ではない……。いいでしょう。では、貴方には試練を受けてもらう。これを見なさい」
元王妃は侍女から丸めた紙をもらい開いた。
「「「「そ、それはっ!?」」」」
元王妃と侍女、叔父さん以外はその内容に驚愕した。
それは可愛らしい丸文字でこう書かれていた。
[集まれピアチェーヴォレのイケメン達!
全国イケメングランプリ開催決定!
日時は後日発表します♡
今回は特別ゲストとしてルーナ国第一王子ヘンリー様をお呼びしてます。
今回は特別に優勝商品が異なります。ヘンリー様、ロベルト様が優勝された場合。我らが女王アンナ様とのご結婚が決定します!
他の方には、なんとなんと〜今をときめくトップ女優アウロラ様と1日デートする権利をプレゼント!
本当かと疑うそこの人っ! ご安心ください。元王妃様が保証してくれます!
夫になんて絶対に票入れてやんねーよ!と苛つくそこの主婦様。ご安心下さい。既婚者の方が優勝した場合には、ヴィント国の王太子クローヴィス様が主婦様とダンスを1曲踊ってくれます!
そこで恋が芽生えても、開催者は一切の責任を負いませんのでご了承下さい。それでは、皆さま健闘をお祈りします。あなたに美の女神ベッラの御加護があらんことを!]
元王妃様は無表情にこれを俺に見せながら、「貴方にはこれに参加してもらう。まだ、後戻りは出来る。怖気付いてルーナに帰ってもらっても良いのよ?」
最後に悪役の様に口角を上げた。
怖気付く? イケメングランプリのどこに怖気付く要素があるんだ? 俺がイケメンじゃないからか?
アンナ様は顔を真っ青にして俺の腕に縋り付いた。
「やめて! お願い辞退して! 私は貴方が傷つくところを見たくない!」
……アンナ様。心配してくれて嬉しいんだけど、俺が優勝しないでプライドが傷つく事前提なんだね。ちょっと傷つくな。そんなに、俺ってカッコよくないんだ。
俺は安心させる様にアンナ様に笑った。苦笑いになった気がする。
「大丈夫だよアンナ様。たとえ傷つこうが、アンナ様のお母様に結婚を認めてもらいたい。少しでも可能性があるのなら俺はそれに賭けたい」
アンナ様はめちゃくちゃ悲しそうな顔をした。
元王妃様は「その覚悟しかと受け止めた。せいぜい足掻くが良い」と怪しい笑みを浮かべる。
俺は少し気になったので、聞いてみた。
「その可愛らしい丸文字は誰が書いたのですか? その様な文字は初めて見ました」
可愛らしいお嬢さんが書いたのだろうな。と思っていたけど……
「私が書いたわ」
?
聞き間違いか?
「元王妃様が?」
「ええ。これ式の事当然でしょう? でも、この事は他言無用。丸文字に惹かれて参加する男達の為にも夢を奪わないであげて」
そ、そうですか。それは失礼しました。
王妃様はそう言い残し去って行きました。
読めない。丸文字は読めるけど、元王妃様の事が読めない。
周りの人も丸文字の事驚いているだろうと辺りを見渡したが、皆真剣な表情であった。
「アウロラ。良いの? デートってフィデリオに怒られるんじゃ?」
「そうね〜。でも、元王妃様からのご命令だし断れないわ。それに……嫉妬してくれるかもしれない」
後半の部分は声が小さくて良く聞き取れなかった。
「ふっ。君達、僕の陣営に加わる気は?」
ジーノ様が髪をふさ〜と手で払いカッコつけた。ナンパ男達を勧誘していた。
「ふっ。今回は敵としてあいまみれましょう」
「ふっ。貴方には元王妃の傘があるが、協力しても何の旨味がないと前回知ったからな」
「ふっ。残念だ。では、敵として正々堂々と戦おう」
「「ああ」」
「あっそうそう。今回初めて参加するヘンリー王子。せいぜい夜道に気を付けろよ。くくくくくくく。はっはっはっはっ!!」
間諜と貴族の男は高笑いを発しながら去って行った。
なんだあれは……。
ジーノ様は今度は俺に声を掛けてきた。
「という訳で、僕は君と協力しようと思うのだけど、異論はあるかい?」
「ないわっ!」
俺の代わりにアンナ様が答えた。必死な表情でした。これから一体何が始まるんだ?
もしかしたら、とんでもないイベントに参加したのかも知れないとこの時やっと気付いたのであった。




