第21話 浮気疑惑。
アウロラはダークグレイのアフタヌーンドレス姿だった。大人の色香が漂う彼女にナンパ男3人は鼻の下を伸ばす。
このナンパ男達とお茶会をしているとは……。社交的な彼女らしいと言えばらしいが……。
私と目が合うと彼女は頭を下げた。
「陛下に謝罪しておきたい事があります」
手を胸に当て潤む目を伏せる姿はまるで恋物語のヒロイン。
私は舞台を眺める客の気分になった。だから、まさかアウロラが自分に謝っているとは思わなかった。女優の演技にただ見惚れた。
「私はずっと疑っていたのです。陛下と夫との仲を……」
なるほど、浮気の心配ね。どこの国の設定か知らないけど、ここでは当然……というか男は必ず浮気するものだと確信する。
「でも、それは私の勘違いでした。夫はカルマ国の企みを内緒にしていただけ、本当に申し訳ございませんでした。噴水広場に私がいなかったのはわざとなんです」
勘違いで嫌がらせをしてしまう……なかなか、凝った設定だな。
観客として観ていた私にアウロラは「怒ってますよね?」と眉尻を下げる。
ところで、何故急に演技を始めたのだろうと疑問に思った。
「ねえ。アウロラ。演技のところ悪いのだけど……」
すると、彼女は「演技っ」と泣き崩れ落ちた。
えっ。違ったのか? すると……えええええええ!? 私とフィデリオがっ!? あり得ない。それは、有り得ない。私から仕事を奪うあの男に何をどうしたらそうなるのだっ!? 噴水広場に来なかったのはわざと!? ちょっと待って! 全く嫌がらせになっていない!
私が狼狽ているを尻目に周りのナンパ男達がこれ幸いに物語の王子様の如く「可哀想に。僕が慰めてあげる」とアウロラに手を差し出す。……アウロラはそれを完全に無視しておよよと泣き続ける。
えーと泣いてる女性はどうしたら良いのだろうか。……フィデリオを呼ぶか。泣いてる女性は正直言って面倒臭い。男はしょっちゅう泣いてるのを見るが無視しても勝手に立ち直ってるから楽だ。現にさっきまで泣いていた弟は嬉々としてアウロラに言い寄ってる。
自分ならどうすれば泣き止むのか。ふと、自分が泣いた事がない事に気付いた。幼少期の頃は流石にあると思うけど……。
『泣いても誰も助けてはくれませんよ』
冷め切った母の目を思い出し、クッと歯を食いしばった。
確かに、アウロラにはフィデリオがいるしそこら辺のナンパ男達がいる。私には助けてくれる者は……
芝生を踏む音が聞こえた。それは徐々に近づいてくる。
(フィデリオ視点)
陛下が開け放った窓に駆け寄るのは焦るヘンリー王子。下を覗き「アンナ様っ!?」と窓から飛び降りた陛下の身を心配した。それを観た私は米神を押さえた。
これは私にも覚えがある。あれは初恋をした頃の事だ。気になる女の子からついつい逃げてしまう謎現象。……つまり陛下もそれだ。
しかし……確か陛下はもう20歳……まだその段階なのかっ。これは、ヘンリー王子との結婚はまだ早い。逆に何とも思っていない相手の方がまだ楽に結婚出来そうだ。
しまった。本当にしまった。私がヘンリー王子との結婚を妨害していた所為で、時間がかかりそうだ。妻からも陛下とヘンリー王子の仲を取り持って欲しいとお願いされているので協力はする。
どうやら、私と陛下の仲を疑っていたそうだ。しかし、違ったと分かった途端陛下に罪滅ぼしをしたいと私に願い出てきた。……何をどうしたら浮気を疑うのだろうか。この国なら確かに疑うのは当然なのだが……。それは置いといて、私が陛下にうつつを抜かすと思われていたのか……。確かに気は合う。そして、考えもある程度理解できる。それは同じ仕事人間だから。
だが、全く魅力的に映らない。意見が合うし信頼もしているが、それは仕事上の話だ。陛下を見ていると自分を見ている様で少し嫌なのだ。夢も希望もありはしないと諦めた態度。期待などするだけ無駄だと悟りきってしまった冷静さ。
多分、陛下も同じ気持ちだろう。側にいて欲しいのは同じ考えの者では無く希望を与えてくれる者。陛下にとってはヘンリー王子なのだろう。
ヘンリー王子が泣きそうな顔で私に振り向く。
「何で逃げるのかな」
弱り切った子犬のような姿に私は素直に教えてあげる事にした。
「陛下には今まで恋人がいた事はありませんでした。なので、ヘンリー王子とどうやって接すれば良いのか分からないのです」
ヘンリー王子は目を見開いて驚いた。
「えっ? そうなの? えっ」
窓をチラッと見ては、ちょっと嬉しそうになる。
人の幸せなんて興味ないし、むしろイラってきますね。……ダメですね。冷静になりましょう。私はもういい大人ですから。
「だから、追いかけてあげて下さい。また拒否するかもしれませんが、内心嬉しいに決まってます」
「分かった! ありがとう! ……フィデリオ。嫌な人だと思っていたけど誤解だった。すまなかった」
おやおや。嫌な人という認識は合ってますので謝る必要はありませんよ。貴方を見下していた私の方がよっぽど謝らないといけませんが、面倒なので適当に笑っときましょう。




