第20話 反省してない会。
本編に戻ります。
足が痛い。服が汚れた。
それも当然の事だ。先程、靴を脱いで木をつたい二階から下へと降りたのだから。
芝生に混じる小石を素足で時折踏んでしまい足が痛かった。
私はそれでも衝動に駆られるまま走った。鼓動が鳴るのは、日頃走らない所為だ。それ以外に私には考えられなかった。
でも、ヘンリー王子から逃げるのはおかしい。どう考えてもおかしい。
「これでは、結婚など……」
無理だ。
冷静になり足が止まった。
すると私に呼びかける声。再び鼓動が鳴る。
もしかすると……
「姉上ぇぇっっ!! 聞いてよぉおお!! あんまりだよぉおおお!!」
違った。
声がする方を見てみると、『反省会』と書かれたプレートを吊った野外会場があった。白いテーブルクロスが引かれた長机。上には生クリームが塗られたホールのケーキ。ティーポットとティーカップが並ぶ。
誰かの誕生日パーティーか? それだと反省会って文字が気になるな。
椅子に座るのは3人のナンパ男と1人の貴婦人。我が弟は当然ナンパ男の1人だ。フォークを握りながら泣いている。ついでに鼻水も垂らしてる。
「ルーナ国で姫との婚約を断ろうとしてたのに、あの鬼畜がハーレムを僕に押し付けてきてボロクソで姫との婚約話がすすんじゃったんだよっ!? どうしよおおお!?」
「……ごめん。ジーノ。姉さんはジーノが何言ってるか分からないわ」
こんな会話前にもあったな。
「だからっ! ルーナ国にいたら、クローヴィスが現れて僕に沢山の妻の面倒を押し付けてきたんだ! 当然僕は快く引き受けたよ! だって、女性だから当然だよね! そして、僕はこれ幸いと妻達を口説いてまわったんだ。ぐすっ。全員に尽くふられて、流石の僕でもメンタルにきてさ。自信なくしちゃったんだ。それを姫が慰めてくれて、感極まって抱きついて泣いちゃったんだよね。それを見たルーナの人が誤解しちゃって、姫の名誉のためにも婚約破棄し辛くなっちゃったのっ!」
な、長かった。妻を口説いた辺りに怒ろうかと思ったが……。
「姉上ぇぇ。何とか出来ない? 可愛い弟を助けてよ」
弱りきった弟はまるでウサギの様な可愛らしさ。でも、中身はナンパに生きる屑。
私は冷ややかに笑った。
「年貢の納め時ね。諦めなさい」
「いぃぃやぁああああ!!」
弟は発狂して地面に崩れ落ちた。
ふっ。これで、ピアチェーヴォレは少しだけ平和になる。
……悪い虫がうじゃうじゃいるのは変わりないが。
残りの反省会とやらのメンバーは王弟が地面でうずくまっていてもスルーした。
私もそうだけど、冷たいな。
反省会のメンバーの1人を確認すると、私はイラッとなった。
「ハーレムイイなぁ。ハーレムイイなぁぁああ」
コイツはヴィント国に放った間諜! よくもぬけぬけと戻ってこれたな! (第13話参照)
間諜は恋する乙女の如く頬を染めて空を眺めている。
それを私はじと目で見つめた。弟は何か気に食わなかった様で間諜に食ってかかる。
「お前もクローヴィスの妻達に尽く振られただろ!? 何で平気なんだよっ!? 馬鹿なのっ!?」
いや、弟よ。お前も馬鹿だからな? 妻を口説く時点で屑以下だからな?
「ふふふふふふ」
間諜は益々頬染めて怖い笑い声を発した。
ぞぞっと背筋が凍りつく。ジーノも同じだった様で「こいつヤバイよ。変態だよ。どうしよう」と目で訴えてくる。
私に言われても困る。私は首を横に振るしか無かった。
くっ説教したいのに、関わり合いたくない!!
とりあえず、間諜は後回しにした。
次に目がいったのは……あれは侍女を口説いていた気がするな。よく覚えてないが……。(第10話参照)
「何でだよぉ。何で妻も侍女ちゃんも僕を軽蔑するんだよぉお。あんまりだよぉおおお」
その貴族の男は机に突っ伏して泣いてた。
「たかだか。ヴィント国に寝返ったぐらいで陛下を裏切るのかってさっ。あの鬼の何処がいいんだよおぐへっ!?」
おお。こんなところに裏切り者がいたか。よし。ちょっと面かせ。
私は突っ伏す貴族の後頭部を掌で思いっきり押さえつけた。今頃鼻が潰れただろう。
「へ、陛下っ!? いたんですか!?」
貴族の男は血が滴る鼻を押さえた。
気付くのが遅いわ! どんだけ自分の世界に入ってたんだよっ!?
私は感情を押し殺し笑みを浮かべた。
「妻がいた身でありながら、侍女に手を出していたのかしら?」
「ひぃいいい! あわわわわ」
口に手を当てて震える貴族の男。
「貴方の領地の半分をどうするか会議にかけるわ。女性の貴族が増えるかもしれないわね」
奥さんに領地を半分あげよう。そうしよう。
「ひぃいいい!?」
貴族の男は怯えて私から距離をとった。
「あらそれは素敵な提案ですね陛下。女性がどんどん活躍する世の中になってほしいわ」
この声はアウロラだった。(第5話参照)
これは反省会じゃなく愚痴り会でした……白目




