番外編 無口姫とナンパ王子2
そして待ちに待ったダンスの時間です。先ず最初に踊るのがこの舞踏会の主催者であるピアチェーヴォレの王族の方々と主賓であるルーナ国の王族であるお父様とお母様です。ヴァイオリンにチェロ、コントラバス、ピアノ、フルートなどなど様々な楽器の音が1つのメロディを生み出します。私は残念ながらお兄様が間に合わなかったので最初のダンスには参加出来ません。お兄様は優しくて素敵な人何ですが、時々容量が悪いです。別に怒ってはいません。こうしてアンナ様のダンスが見えるのですから。
アンナ様の背筋はピンと伸びており姿勢が大変良いです。ダンスはお手本の様に綺麗です。少し緊張しているのか顔が硬ってました。対してジーノ様は陽気で楽しそうに踊ってます。少しミスしてアンナ様に睨まれてもどこ吹く風で気にしません。この2人は火と水の様にまるで対極ですね。それぞれ素敵な魅力があります。
因みにそれぞれの心の声ですが……
『母の前でミスは許されない。ミスればまた叱られる。……っとにジーノは良いわよね! 可愛がられてるから、許してもらえるのよね! にしてもミスしすぎ!!』
『ふ〜〜ん♪ ふ〜〜ん♪ 姉上がきっちり踊るから踊りやすいな〜♪ 僕の踊りに世界中の女性が夢中になってしまう〜♪ 僕って罪な男〜♪』
どうやらアンナ様のお母様は厳しい方みたいです。ジーノ様には優しいそうですが、実際のところはどうなんでしょうか? 早速ピアチェーヴォレの王妃様に注目してみました。
ブロンドの髪をひっつめ髪にした神経質そうな方でした。表情は無く冷たい印象です。ダンスはもう玄人の域に達しており、かつピアチェーヴォレの国王様の顔を立てる事が出来る素晴らしいダンスです。アンナ様も将来的にこの王妃様の様になる事が想像出来ます。
心の声ですが、なるほど、大変興味深いです。
『私がアンナの良きお手本にならなければならない。あの子はこの先大変な想いをする事になる。私の様に苦労して欲しくはない』
不器用ながらに娘を心配する母の愛を感じます。この事をアンナ様に伝えるべきか悩みましたが、やはり知り合ったばかりの私が気軽に口を出してはいけない様な気がしました。
いつかきっと、アンナ様はお母様の愛を理解出来ます。その時まで私は見守っています。
少し気になるのはアンナ様をチラチラ見る男性貴族達です。
『綺麗なんだよなぁ。俺もダンスぐらい一緒に踊りたいなぁ。でも、王妃様に目を付けられるのは勘弁して欲しいんだよなぁ』
『王妃様が気軽に話しかけるなとか言ってくるし、やっぱり踊るのは無理か。王妃様から叱られる度胸はない』
一体どうしたのでしょう? ダンスは無理? 踊れない? 王妃様が何か制限しているのでしょうか?
そうこう考えている内に音楽が終わりました。ダンスを終えたアンナ様達は優雅にお辞儀すると、私のお父様とお母様、ジーノ様以外が退場していきます。アンナ様はもう踊らないのでしょうか? 私はジーノ様に向かって歩きながらアンナ様に伺いました。
「アンナ様はもう踊らないのですか?」
アンナ様は苦笑いを浮かべ、「私は踊るのがあまり好きじゃないの。貴女は楽しんできてね」と手を振って去っていきます。
確かにダンスを踊るアンナ様はあまり楽しそうではありませんでした。しかし、私には分かります。アンナ様は名残惜しそうにしてました。
次にジーノ様に聞きました。
「アンナ様は踊るのが好きじゃないそうですが、本当ですか?」
ジーノ様は私の手を取りダンスをしながらアンナ様の後ろ姿を眺めて考え始めました。
「好きじゃないというより、誘ってくる相手がいないんだよ。姉上は母上に大事に育てられたから、生半可な覚悟で姉上と親しくなろうとする男は少なくともこの国にはいないね」
なるほど、でも、アンナ様が少し可哀想です。私が男性でしたら、幾らでもダンスしますのに……。王妃様の優しさを理解した私なら王妃様に叱られてもめげません。でも、性別はどんなに頑張っても変える事は出来ません。
私とジーノ様はアンナ様の事が気になってダンスどころではありませんでした。やはり、このままではいけないと思います。
私はまだ来ていないお兄様に想いを馳せます。
優しくて素敵なお兄様ならきっとアンナ様と親しくして下さる。お願いしてみましょう。




