第19話 こいつらは私を怒らせる天才か?
アンナは執務室の椅子に座り、貴族の女性方から謝罪を受けていた。貴族の女性方はロープでぐるぐる巻きにした夫の手綱を引いている。夫達は酷く怯えていた。
「アンナ様。アホでクズで甲斐性無しの夫達ですが、どうかお国を捨てて寝返ようとした事お許しいただけないでしょうか? ほらっあんたも謝るっ!」
「グェッ ご、ごめんなさい。許してください。何でもしますから。あっでも結婚以外で」
頭を無理やり下げさせられた夫はヒキガエルのような声を出す。
さて……どうしようか? 許すとしてもそれなりの罰を与えないと他国や他の国民に示しがつかないし、何より私の気が済まない。……ちょっと待て。最後に何と言った? は? 結婚? どんなけ自意識過剰なんだ? 殺すぞ?
部屋の温度が急激に下がった。妻は夫の腹を蹴飛ばした。
「グェッ!!」
「アンナ様すいません ! このアホがすいません !」
はっ! いけないいけない。私とした事が大人気ない。アホの言う事だ。気にしてはいけない。それに、私はもう相手を決めたのだ。
私は咳払いをしてなるべく和かに笑いかけた。
「「「えっ」」」
……なんだ皆して驚いて、私だって笑うわ!
「……許すも何も、戦争は起きなかった。何も咎める意味はないわ。それに、めでたい話があるの」
「「「え?」」」
皆は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
こそこそ「ついに俺ら解雇されるのか?」
こそこそ「てか、俺らもう処刑されて夢でも見てんじゃね?」
解雇がお前らにとっての幸せなのか? 死んだら夢見るのか? ……いかん。冷静になれ。
「私は結婚する事にしたの。あなた達にその者の世話を頼めるかしら?」
……正直に言うと全く信用できないのだけど、いくら何でも解雇されない為に必死に働くわよね?
皆は固まっていた。暫くすると男達がハッと意識を取り戻して「「よろこんでっ!!」」と返事をした。
ちょっと待て。この反応は予想外だ。長年この男達と接していたのだ。私はすぐさま何かを勘違いしていると直感した。
「……何故、嬉しそうなのか聴いても良いかしら?」
男達は顔を輝かせた。良い笑顔であった。私は何も思わないが、普通の女性ならドキッとしていたであろう。
「だって女性でしょ?」
ゴーーンッッ と教会のベルが響く。っと違う。私が思わず目の前の男を殴った音だった。
「痛いですっ! えっ? なら男性ですかっ!? 嘘でしょっ!?」
男達だけでなく女性陣も目を見開き驚いてる。……ピアチェーヴォレでは同性婚が主流だと聞いたことないのだがっ!? 私だけ知らなかったのか!?
「一応、女性だと思った理由を聞きましょうか?」
「えっ。だって、女王様は男性にモテませんけど、女性には人気ありますから」
あっそう。そんな理由だと思ったわ!
こそこそ「一体誰だ? ドMか? 変態か?」
こそこそ「男じゃなくてニューハーフじゃね?」
失礼極まりない奴らである。
コンコン
「失礼します。今お時間よろしいでしょうか?」
フィデリオが扉から現れた。視線は真っ直ぐ私に向いており、床に跪かされた男達は眼中にないと暗に言っていた。
こそこそ「フィデリオか?」
こそこそ「あいつは結婚してるじゃん」
いい加減に黙って欲しかった。私はため息を吐いた。
「フィデリオ。用件は何かしら?」
「はっ。ヘンリー王子が面会の許可を求めています」
ガタッ
「……すまぬが、少し待ってほしいと伝えてくれ」
返事を返してからまだ一回も会っていない。会わなきゃと思っているのに、頭じゃなくて心が勝手に逃げたがっているのだ。
どうしよう……。どうしよう……。
「……ですが、もう扉の前で待ってますよ」
ガラッと窓を開けて、私は靴を脱ぎ捨て木へと飛びつき下へ降りた。ちなみにここは二階である。
……ごめん! 本当にごめん!! まだ心が逃げたがってるんだああ!!
遠くからヘンリー王子の叫び声が聞こえた気がした。
こそこそ「まさか、ヘンリー王子が相手か?」
こそこそ「いやいや。逃げられてんじゃん」




