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第1話 その結果……。

 



 そして三年後の春。恋する時期が再び訪れた。舞踏会では相変わらず男性が女性を口説くシーンが飽きもしないで繰り返される。


「そのドレス素敵だね。でも可哀想……。魅力的な君の前では霞んでしまう」


 ふふふふふ。なんて素敵な台詞でしょう。もしも、私にそれが言えたならな!


 私はヒールの靴をカツカツと鳴らしながら会場であるカステッロ城のホールを歩いた。女性を口説いていた男性達は背筋をぶるりと震わせた。ホール内の室内温度が急激に下がったのだ。


 私は瓶底眼鏡の奥から鋭い目をさらに細めて周りを眺めた。絶対零度の鋭い視線に周りの人々は緊張した。襟元まできっちり締めた露出度低めの地味な色のドレス。燃えるような長い髪はひっつめ髪に、口は固く閉じられてる。およそ20歳とは思えないような枯れた風貌だ。


 人々は私のことを陰で『鬼』と呼ぶ。


 なんでも、極東の島国に伝わる地獄の生き物らしい。人々を甘い誘惑で騙す悪魔と違って鬼は罪を犯した人に罰を与える。私は堕落した貴族を悉く罰した。その行いが正に鬼という事らしい。なかなか粋な例えじゃないか。ならお望み通り私は鬼になってやるよ。


 私は先程まで女性を口説いていた男性を指差した。


「妻がいる身でありながらよくもぬけぬけと別の女性を口説けるな。しかも、民を脅し騙し取った金を女性への貢ぎ物として使っているとか。その行い万死に値する。貴様を直ちに捕縛する」


 予め命じていた衛兵が現れ男性は捕縛された。男性は縄でぐるぐる巻きになりながら抵抗した。


「陛下! どうかお慈悲を! 民からお金を奪っていません! くれたのです! ほら! この通り私は美形ですから、惚れられてお金を勝手に渡されるのです!」


 我が国ピアチェーヴォレには美形で女たらしな男がうじゃうじゃいる。ゆるいウエーブのかかった黒髪。わざと日焼けして褐色になった肌。顔はやや面長で小顔。鼻は筋が通り高い。瞳の色は海の様に深い青か、深緑の様な緑か、知性を感じる茶色。長い手足。大食らいな気質だが、女にモテたいピアチェーヴォレ人は身体を日頃から鍛えてるために筋肉質だ。ぶっちゃけ言って外見は極上。ユーモアのある口説き文句はペラペラと日常会話の様に発せられる。(私以外に)


 これで真面目に仕事をするのなら、誰も文句がつけれない。結婚願望がある女性にとっては極上の物件だろう。(かつては私もそう思った)


 だが、外見は内面を映す鏡ではなかったのだ。仕事はよくサボるし、暇さえあれば女性を口説いてるし、浮気なんて当たり前。私の父(元国王)は母に浮気がバレて離婚させられたショックのあまり退位したのだ。自業自得も良いところ。父に同情する気などさらさらない。私には弟がいる。男性に優先的に王位は継承されるのだが、その弟はピアチェーヴォレ人の特徴を体現した人物である。隣国の真面目な気質の血を濃く受け継ぐ一般市民から選ばれた宮中伯、書記官達の強い推しにより私アンナ・フィオーレが女王に選ばれた。


 ピアチェーヴォレは真面目な宮中伯のおかげでなんとか国を回せてるのだ。ちなみに不真面目な貴族達は「野郎より、見た目があんなんだけど一応女性のが支える気が起きるよね」とやはり不真面目な理由で了承した。


 私はぎりりと歯軋りする。憎い。ピアチェーヴォレの男共が憎い。


「証拠は上がってる。証人をここに」


 私は冷たい視線を男に向けながら、衛兵に指示を出した。一般市民である青年が現れた。目の前の男と同様に外見はやはり極上。縄に巻かれた男は目を吊り上げで叫んだ。


「裏切ったな!?」


 一般市民の青年は膝をつかされた男を忌々しく見下ろした。


「裏切った? 最初に裏切ったのはあんただろ? よくも俺の恋人に手を出しやがったな」


 私は溜め息を吐いた。


 ああ。また痴情のもつれか。


 宮中伯が私にこそっと耳打ちする。


「こいつもグルで民からお金を巻き上げてます」


 ほお。ほおほおほおほお。実に面白い。


 私は一般市民の青年も捕縛するように命じた。


「おって沙汰を下す。二人を同じ牢に入れろ」


 貴族の男は顔を真っ青にした。悲壮に染まるその顔を私は冷たく見下ろした。


「女王陛下は燃えるように激しい恋をした事がないから、こんな無慈悲な事が出来るのです。私と恋に落ちてみませんか?」


 おい。まてこの野郎。猫に追い詰められた鼠の如く真っ青な顔で私を口説きやがったな。なんでそれをこの切羽詰まった状況じゃないと言えないんだよ? もうちょっとまともなシチュエーションで言えないのか? 自分の命がかかってないと私には口説けないってか?


 私は鼻で笑ってやった。客観的に見ると般若に見えたのだろう。みんな怯えてる。


「恋? そんな曖昧なものに興味はない。お前はもうちょっとまともな事に頭を使え」




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