第17話 真面目に働いてもモテないって辛い。
カルマ国にて、ピアチェーヴォレを攻めるべく挙兵の準備が着実に行われていた。……のだが。
「申し上げます! ヴィント国が戦争の参加を辞退しました!」
伝令からの報告にカルマ国王は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「戯けた事を申すな!! そんなことが許されるか!!」
忌々しい。ああ忌々しい。我が国は周辺国と比べて経済が停滞している。これもピアチェーヴォレにカルマの優秀な民を持ってかれた所為だ。絶対に、絶対に許さんぞピアチェーヴォレ。
ヴィントの手を借りれば易々と攻め落とせるだろう。だが、それが叶わぬというのなら苦戦するのが目に見えている。国益にならない事はできぬ。
「おのれ!! 所詮は元アッローラ人か!! 約束も守れぬ蛮族め!!」
何故だか、体感温度が急激に下がった気がした。
「あ、あの……」
「なんじゃ!? まだ何かあるのか!?」
「来てます……そのピアチェーヴォレの女王が」
なんじゃと!?
カツーン カツーン とヒールの音がした。
カルマの血を引き継いだ者たちを引き連れ、瓶底眼鏡の女性が目の前に現れた。
「ご機嫌様。カルマ国王陛下」
紅をひいた真っ赤な唇が綺麗な弧を描く。但し、目は笑っていなかった。
親子程の年齢差があるというのにカルマ国王は、ぞっと恐ろしさを覚えた。
「何故ここにいる!? 何しに来た!?」
「何故? 何しに? ……逆恨み甚だしい何処かの馬鹿を諫めに参りました。 ふふふふふふ」
ビォオオオオーー
さ、寒い!! 吹雪が吹いてる気がする!! 吹いてないが吹いてる気がする!!
「ば、馬鹿だと!? 世を愚弄する気か!?」
世は冷たく笑う女王を睨みつけてやったのだが……、女王のが怖かった。
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い! 何故カルマに戻らないのかフィデリオ言ってやれ!」
何故だと……? そんなもの卑怯なピアチェーヴォレの女王が小癪な手を使って引き留めてるに違いない。
フィデリオとかいう男は「え? 私?」と戸惑いつつも渋々命令に従って話始めた。
「えーー。これは私の両親の話ですが、カルマは足の引っ張り合いが激しくて、まともに仕事は出来ないそうです。その点ではピアチェーヴォレでは人材不足の為に自分の力を最大限活かせるとか……。これで良かったのですか?」
「……もっと話して」
「も、もっと……。給料も倹約なカルマと違ってピアチェーヴォレのが太っ腹で多いし、女性にモテるし良いとこ尽くめです。はい」
……最後のは何だ? モテるだと? ぜ、全然羨ましくないし! おいこら伝令! 良いなぁと羨ましそうに見るな!
「何が言いたい!?」
女王は勝ち誇った様な笑みを浮かべた。
「いいえ。特には何とも。ただ、他国の所為にする前に見直すところがあるのでは? と思いまして。まあ、今更反省しようが手遅れですが。カルマ国王。私はヴィント国王にある提案を致しました。一緒にカルマ国を攻めないかと」
「ば、馬鹿な!?」
「案の定、ピアチェーヴォレとの共闘は渋ってました。しかし、カルマ国を攻めるのには乗り気でした。ご愁傷様でした」
そんな馬鹿なぁああああ!?