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小さな勇者の冒険譚  作者: 道楽者
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始まり

昔々、魔法が満ちる世界で、ある若者が世界のすべてを見るために旅に出た。

若者は、様々な場所を渡り歩き、友を、仲間を作り、共に旅をしていた。

そんな旅人たちのもとへ、一人の人間の噂が聞こえてきた。


この人間はたくさんの魔物を引き連れて、街を襲い滅ぼしては、次の街へと回り続ける。

いつしか、人間は魔王と呼ばれるようになった。

この世界に住まう人々は魔王に恐怖し、魔物におびえる日々を過ごす。


その噂を聞いた旅人たちは、魔王を倒そうと、近隣諸国と協力して魔物たちを迎え撃った。

戦いの果てに逃亡した魔王を追い、世界の最果てへと向かう。

そこで、旅人たちをまとめていた若者が、かの魔王を討ち果たす。

そして、この世界に平和が訪れたとさ。


◆◆◆


「ねぇ、マリアさん。魔王になった人間はなんで皆に悪いことをしたのかな? 」


ベッドの上で、布団から顔を覗かせていた少年が、ベッドの前に座ってお話を聞かせてくれたマリアという女性へ質問を投げ掛ける。

マリアはまだ若く、とても子供がいるようには見えない。

おおよそ子供らしくない少年の質問に、マリアは少しは少し困った顔をしながら答えを述べる。


「この世界にはね、いい人ばかりがいるわけじゃないの。

人に嘘をついたり、人を傷つけたり、それを悪いことだとわからない人達がいる。悪いことだとわかっていて、それでも生きるために仕方なくやる人もいる。

いろんな人達が、いろんな事を考えながら生きていて、もしかしたら、街を襲っていた魔王も何か理由があったのかもしれないし、なかったかもしれない。

それは、本人に会って直接聞いてみないとわからないわ。

でも、仮に聞いても、本当の事を教えてくれないかもしれないわね」


マリアの言葉に、少年は考え込んでしまった。

そんな少年を見て、マリアはまだ早かったかなと反省しながら、苦笑をもらす。


黙りこんでしまった二人に、マリアを挟んで少年とは反対側のベッドに寝ていた少女が声をかける。


「ハルもマリアさんも何言ってるかわかんないよ!

……つまんない」


少女の声にマリアが振り向くと、頬をふくらませた少女がいじけた顔でマリアを見ていた。

そんな年齢に見合った少女の仕草に、マリアは内心ホッとしていた。

少女の頭を撫でながら、マリアは笑顔で謝罪する。


「ごめんね、アキ」


マリアの謝罪を聞いて、ハルが横やりをいれた。


「アキはもっと考えることを覚えなよ」

「ハルにそんなこと言われなくても、ちゃんと考えてるもん。でも、考えてもわからないからつまんないだけだもん」

「そう言ってアキはいつも難しいことは考えないじゃないか。だから、いつまでたっても……」

「はいはい、そこまで。二人とも喧嘩しない」


マリアは手を叩いて、喧嘩終了の合図をだす。


「そろそろ寝よっか。ハルも、ね」


そう言って二人の頭を撫でるマリアの顔はとても優しかった。マリアのこの顔を見ると、二人はすぐに落ち着くことができた。二人は優しいマリアが大好きだ。


「おやすみなさい、ハル、アキ」


そして、マリアも自分を慕ってくれるハルとアキが大好きだった。


「「おやすみなさい、マリアさん」」


さっきまで口喧嘩していたのにもかかわらず、きっちりハモった二人の挨拶に、自然と笑みがこぼれた。

マリアは部屋の灯りを消して、静かに部屋を出る。

そして、二人がいい夢を見れることを祈りながら、そっと扉を閉じた。


二人がマリアと一緒に暮らすようになってから、マリアは自身がよく笑うようになったなと思う。

数年前の戦争で家族を亡くした頃のマリアは、感情が抜け落ちたように、毎日を淡々と過ごしていた。そんな辛い日々が一変したのは、あの二人と出会ってからだ。二人と過ごす事で、寂しさや辛さを振り返らずにいられた。心から笑顔でいられた。

マリアにとって、二人は神様からの素敵な贈り物であった。


二人と暮らし始めてから一年が経っていた。

このところ、悪い夢にうなされることもない。

自室に戻ったマリアは、今日の出来事を日記に綴っていく。

この日記は二人と暮らし始めてから書き始めたもので、当初は二人の成長日記のつもりだった。

けれど、いつのまにか、日記はマリア自身の思い出を書き綴るものとなっていた。


今日の二人との思い出を書き記し、マリアは灯りを消した。

そして、二人が将来どんな素敵な大人になるのかを想像しながら、優しい眠りへと落ちていった。


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