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ーギギイィ…ー
よく言えば厚みがあり、趣の感じられる扉、悪く言えば少し立て付けの悪くなった扉を、入室の許可を得た兵士が入ってくる。
「失礼します!ただ今、偵察より東のケットシー、北東のワーウルフが軍を上げたとの報告がありました!」
「ついに動いたか…」
重々しく頷き呟いた人物は、まさしく将軍と呼ばれるのが相応しい雰囲気と圧力を纏っている。
短く刈り上げられた黒髪と、顔の左半分にはこめかみから顎までの大きな刀傷があり、鋭い眼光と相まって、彼に睨まれると怯んでしまうのも仕方ない事だろう。
彼こそ、人族の軍事関係総指揮を執る、ジェラサード将軍だ。
ジェラサード将軍は自分の言葉を受けて騒めく部下達に、落ち着くよう伝えると切り出した。
「皆の者よ、以前から動向が危ぶまれていた亜人共がついに攻め込んで来ただけの事だ。」「しかし将軍!彼の軍勢は総数5000にはなりましょう、対して我が軍は3000を用意するのが精一杯です!」
落ち着き払う将軍の発言に割り込むように、守護軍をまとめる中将が言葉を挟んだ。
言葉を遮られた事に多少の苛立ちを浮かべたが、構わず自分の考えをジェラサードは続ける。
「確かに、君の言う通り単純な数の上では、こちらは圧倒的に不利だ。」
「でしたら!」
「だまらっしゃい、まだ将軍の話しは途中であろう?」
またも言葉を遮られたジェラサードは、援護をしてくれた王国魔導師長に軽く頭を下げ、話しを続けた。
「皆が不安に思う気持ちは分かるが、守る城を落とすには3倍の兵力が必要と言われている。これは、亜人と人族の身体差を考えても充分に戦える。と、私は思っているのだが?」
「絶対に降伏しないとは言わんが、鉾も交えず自らの恐れに負けて苦渋を舐める選択を取る気は儂には無い。」
自分の考えを言い終えたジェラサードは周りを見回す。
先程まで話に割り込んで来ていた彼も、これは正論と俯く。それを見て反対する意見は無いとみなし、かくして防衛戦の準備は開始されるのであった。
会議の間に集まった将校達が慌ただしく動き始めるのを確認してから、何故かまだその場に留まっていた伝令兵が将軍の横へ行き耳打ちをする。
ークデ森林西部 平原ー
「はぁーこまった、ほんとに…」
俺はこの、†アルヴスアトリエオンライン†と言うゲームに良く似た世界に転生した事を確認しようと、フラフラとあちこち散策してみたが、誰も居ないしモンスターすら出ない。
この肉体の強さも、今自分が何処に居るのかもマップ機能が使えない状態では、さっぱりお手上げだ。
「はぁ…優しく無いなぁ」俺がラノベで見ていた異世界転生物の話しは、もっとチート設定で美女がワラワラと出てくるものばかりだったのに、まず誰も居ない。
まぁ、現在地は恐らくだけど検討は着く。今までマップばかり見て効率優先だったので、自信はあまり無いが日本エリアの近辺だと思われる。「不死山が見えるってことは、この街道は和国に続いてるった事かな」独り言を呟きながら黙々と歩き始めた。
かなりの時間歩いた後に向うから一台の馬車が向かって来るのが見える。ようやく訪れた、この世界の事を聞くチャンスにテンションが上がる。
向うにも認識してもらえる距離まで近づいたのを確認して、街道脇により大きく両手を振りながら声を掛けた。
「すみませーん。少しお尋ねしたい事があるんですがー!」野盗等に間違われないように、しっかりと両手を見せたのが良かったのか、目の前まで来ると馬車の御者席にいた農夫っぽい中年男性が馬車を降りながら、こちらに問いかけて来る。
「あれま、こんな所に一人で、旅の人かなんかでしょうかい?」どうやら言葉は通じるようだ。良かった。
「突然すみません、どうやら頭を打ったみたいで、記憶が少しあやふやで…あの、ここは今どの辺りになるんでしょうか?」地面まで完全に降りてきた、農夫の男性に出来るだけ丁寧に尋ねた。
「あぁーそりゃ、たいへ…」何故か途中で言い止めた男性の表情を見ると、俺の全身を見て驚愕しているような感じだ。
何かおかしいのだろうか…もしかして変◯的な人間だと思われているのか⁈あ、見た目はハーフエルフだから珍しいのか?
「あ、あっ、あのぉー貴方様は、もしかしてぇー、召喚士様なんでしょーか?」たどたどしく質問して来る男性に、短く「そうですが。」と伝えると、
「しっ、し、失礼しますたぁー!!」叫び声と共に地面に平伏す大の男にドン引きして、俺も固まってしまった。
ー暫しの沈黙の後ー
正気に戻った俺は、どう考えても異常な光景になっているであろう、この状況を打破すべく、すぐに男性を立ち上がらせて訳を聞いた。
怯えながら聞いた男性の話を要約すると、この世界は、やはりアルヴス大陸で和国の近くで、召喚士は世界に数人〜十数人しか居ない稀有な存在で、機嫌次第で他者を殺してもお咎めなしの様な危険な生き物だと言う事が分かった。
これ以上の事は農夫である自分には分からず勘弁して欲しいと、またも土下座される。
もちろん、それを見て喜ぶ趣味は無いので御者席に戻ってもらい感謝を伝えた。
後、何故俺が召喚士と分かったかと言うと、どうやら今着ているこの服装は、ザ召喚士の服と言うもので、他職の者は着用する事が出来ないそうだ。
…似てる服とか無いのだろうか?
後5kmも歩けば和国に入る為の吊り橋まで行けるとの事だから、もう少し詳しい事情は都市に入ってから聞いてみよう。
そして、その前に試してみる事がある…。