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「…はっはっ…はぁ〜、やっと着いた」
大学から歩いて10分、頑張って走れば5分を切る所に、俺の行きつけのゲームセンターがある。
ここには、MMOの各種専用筐体が取り揃えてあり、お目当てのAAO専用コミューンも置いてあるのが素晴らしい。
…まぁ、時間貸しで高いけど……
今日は予約も並びも無いみたいだし、結構ゆっくり遊べそうだ。
俺はコミューンに入り、エントリーアタッチメントに線を差して、各種装置を装着すると、バイザーを被った。
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†アルヴス アトリエ オンライン†
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……ネットワーク状況を確認しています。
……ログイン接続を確認しました。
……データの転送をスタートします。
ーーようこそ!アールヴ・スカンディナ様ーー
……俺はゲームにログインした後、いつものように異世界のチートプレイを楽しんだり、空を飛び、景色を楽しんでいたのだか、…その日はいつもと様子が違った。
俺がホームタウンにしている街で、消費アイテムの買い足しをしていると、ふいに振動が来る。
「んっ?…揺れてる?」
イベントでも無いのに、地震エフェクトとは珍しいな……と、考えていると、さらに大きく揺れる!
てか、揺れすぎじゃないか?
「なっ!本物の地震か⁉︎」
気付くのが早いか、システムメッセージが早いかと言うタイミングで、周りがブラックアウトし、メッセージが浮かぶ。
ーーー外部ヨリ異常振動ヲ検知シマシタ。システムヲ強制停止シマスーーー
「…つっ!めちゃくちゃ揺れて……ヤバイ…動けないしハッチも開かない、くそっ‼︎」
縦横と自在に揺れる振動に、なんとか体制を維持していた俺をあざ笑うかのように、……その時はやってきた。
ーー ドーン‼︎ グシャァ!
「うっ、うわぁぁあー」
最後の大きな縦揺れに、それまでなんとか荷重を支えていた床は、無情にも重力と共に落下していく。
突然襲って来る浮遊感と、周りが見えない事への不安が俺の心を押し潰す。
そして、ひたすら落下した……
長かったのか、短かったのかすら分からない。
……そんな状況の後で意識を取り戻した。
「あ…あぁ、なんとか生きてる…?いったいだうなった?いっ…痛!だっ誰か!誰か助けて…」
泣き声にも聞こえる叫びに応じてくれる者は当然おらず、俺は身動きが取れないまま、痛みで感覚がゆっくりと麻痺していくのを感じる。
命の危険を感じても、意識が遠のいて行く事に抵抗する僅かな力も起きない。
涙を零しながら、誰かが助けに来てくれるのでは、と甘い希望を抱きながらも、俺の意識は薄くなり、呆気なく、生涯の幕を閉じようとしていた……
ーその時ー
「バチッ!…ジジ」
電源が落ちていた筈の筐体画面に電気が入り、首に刺さったままのプラグに火花が散りった。
明かりのついた、全面にあるモニターには文字が映し出されていた。
ーto be continuedー
少年の意識はそこで途切れる。
……
………
「あぁー、呆気ない人生だった」
と、最後の時を振り返った。
大学に入ってから、受験勉強への苦しみの反動と、自分が自分では無くなる、ヴァーチャル世界の面白さにドップリと浸かる事になった。
俺が一番嵌って、毎日プレイしていたのは、
†アルヴス アトリエ オンライン†
と言うゲームで、自分で描いたキャラクターを召喚し戦わせたり、剣や魔法の道を極めてみたり、捕まえたモンスターや召喚ペットと一緒に旅をしたりする事が出来る。
クリエイト性の高いゲームだ!
装備アイテムや武器・防具等も条件はあるが作成可能だし、それようの専門職もあった。だからか、美術系の学生や、デザイナー職のプレイヤーが多かったと思う。
まぁ…正直なところ、人気ゲームとは言い難くて、世界的なネットゲーム人口が一億人と言われる市場の中では、id発行数が100万件程度。
実際のプレイヤー数はその三分の一程度と言われている位の弱小コンテンツではあるけど……個人的には最高のゲームだと思っている。
課金もかなりしたし…。
そもそも、家庭用のフルダイブコミューンは一機2000万円とかするし、デカイ!
いくら食べると、うまい!と言ってしまう棒状のお菓子が一本100円する現代でも、一般市民が簡単に手が出せるような代物どは無いのだ。
場所もないし…
そして、そのハード【専用コンテンツ】では、どうしてもプレイヤー数は限られてくるってものだと思う。
その為、毎日アーケードのレンタルコミューンに潜って楽しんでいたのに…。
どうやら運悪く大地震に見舞われ、めでたくあの世行きとなった訳だ。
はぁ、道程で逝く事になろうとは…本当に情け無い。
……てゆうか、死んでも悩んだり考えたりって出来るもんなの…かな?